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二人が村に着いた時、村の建物はほとんど焼け落ちていた。
二人はしばし呆然とし、ヘレンが突然我に帰った。
「父さん、母さん!」
そう叫ぶと自分の家のほうに駆け抜けていった。
その声が耳に入り、アキラも我に帰った。
「そうだ。お父さん、お母さん!」
ヘレンと同じようなことを叫びながら一陣の風となり、アキラは駆け抜けていった。
お父さん、お母さん、・・・どうか、無事で!
グランドダッシャー・アキラ
〜偉大なる走者の伝説〜
第三話・旅立ちの時
アキラが自分の家に着いた時、家はすでに崩れ落ちていた。
とさ。
アキラは全身の力が抜けて、膝をついた。
お父さん・・・、お母さん・・・。
目から涙がこぼれ落ちる。
がら。
焼け落ちた家の一部が崩れて、中から人の姿が現われた。
「・・・!」
そう。
全身傷だらけになった父の姿であった。
父はおそらく必死に村を襲った何かと戦ったのだろう、父の横には剣が突き立っていた。
「お父さん!」
アキラは父のそばに駆け寄った。
「ねえ、何があったの?何がどうなったの!?」
「うっ・・・、その声・・・、アキラか?」
どうやら目をやられたらしく、目を閉じたまま言う父。
「そうだよ、アキラだよ!一体誰がこんなことをしたの!?」
「・・・。」
父はしばらく黙り、そして意を決して口を開いた。
「これから言うことは、心に閉まっておけ。絶対に他言するなよ。
この村を襲ったのは・・・、王宮の者だ。」
「!」
父の口から滑り出した言葉に、アキラは息を呑んだ。
「以前王宮で何度か見かけた。間違いない。
だが王を疑うな。あの方は国の平和を第一に考えている。おそらく奴の単独行動だろう。」
父は国全体のネットワークを担う飛脚をしていた。だから、王宮に入ることも何度かあった。実際、王宮の内部の話を聞いたこともある。
だから、この話は嘘ではない。事実なのだ。
「奴の狙いはおそらく・・・、これだ。」
そう言って父は、懐から巻物を取り出した。
「我が神内家に代々伝わる秘伝の剣技・・・、閃空剣技の秘伝書だ。何とか死守した。」
「せんくうけんぎ?」
アキラはおうむ返しに聞いた。
アキラも剣技については少しは知っている。このランツの主流派であるランツ一刀流や、ここを統治する王国グレムのグレム剛剣なら有名だ。
だが、閃空剣技などというのは全く聞いたことが無かった。
「知らないのも無理は無い。閃空剣技は歴史の影に埋もれた剣技。一子相伝のため、継承者は一人。その継承者とその家族以外誰も知らないのだからな。お前にもまだ教えていなかった。
そして今おまえに教えた。つまり、おまえが継承者なのだ、アキラよ。」
「そんな・・・、急に言われたって。信じられないよ。」
アキラは戸惑いを隠せなかった。いや、もともと隠せないのかもしれない。
「今は信じられなくてもいい。すぐに信じなければならなくなる。その時までしっかりと覚悟を決めてくれ。
・・・本来なら、今日の夕飯のときに教えて、継承するか否かを聞きたかっただがなぁ・・・。これじゃあもう無理だな。」
父は笑った。こんなときにも、自分の息子を気遣って。
「でも、何でそんな物を狙うの?剣技の秘伝書なら、もっとたくさん他の物があるじゃない。」
もっともだ。剣技など、世の中掃いて捨てるほどたくさんある。
「それはな、閃空剣技は他の剣技に比べはるかに強力なのだ。
達人がひとたび剣を振るえば、空を切り海を割るほどだと聞く。
そんな剣技があれば、世の中など思いのままだろう。」
「そんな・・・。そんな理由で?」
アキラの声は震えていた。
「そんな下らない理由でこの村は襲われたの!?
世界をどうこうするなんてどうでもいいじゃない!平和が一番だよ!
みんなが笑って、夢みて、時々はけんかして、それでも仲良く暮らせるそんな世界が一番だよ!」
アキラの心からの叫びに父は驚いた。そして安心した。
「その心を忘れるな。閃空剣技は平和の礎となる剣。だが使い方を誤れば世界に混沌をもたらしてしまう。
だから、後継者は慎重に選ばねばならない。
たとえ神内家の者でも、間違った心を持つ者には継承できないのだ。
だが、おまえは違う。おまえの心は空のように高く透き通っている。
おまえなら・・・、全てを・・・、任せられる・・・。」
「・・・!お父さん!?お父さん!」
「あとは・・・、任せたぞ・・・・・・。」
そして父は、静かに息を引き取った。
父の死顔は、とても安らかだった・・・。
「・・・!うわあああぁぁぁぁぁ!」
アキラは泣いた。大切なものを失い、居場所も失い、たくさん泣いた。
しばらくの時が過ぎた。
「アキラ・・・。」
その声に振り返ると、そこには母がいた。父は母をかばい、あの傷を受けたのだ。
そのため母は無傷だが、そんなことを気にする余裕が今のアキラにはなかった。
「お母さん・・・。お父さんが・・・。お父さんが・・・!」
「・・・。よく聞きなさい、アキラ。あなたはこれから旅に出なければならない。」
「旅に?」
母の突然の発言に驚き、アキラは聞いた。
「そう。閃空剣技の後継者は、世の平和のために戦わなければならない。
そして今、平和は打ち破られた。この先、この村以外の場所も平和が刈り取られていくでしょう・・・。
だから旅をして強くなり、そして平和を取り戻さなければいけないの。」
「そんな・・・、そんな怖い事・・・。」
アキラは心底怖かった。
それは仕方の無いことだった。アキラはまだ八歳なのだ。それなのに諸国巡りの旅など、恐ろしくて当然だ。
道中には悪党・凶悪な怪物の類も多々出る。
だが母は拒絶を許さなかった。
「これはあなたに課せられた試練よ。閃空剣技の後継者、そして神内家の末裔としての。
それに・・・、それが父さんへの、最大の供養なのよ。」
その言葉にアキラははっとなり、しばらく目をつぶって、それから目を開いた。
その目には、決して折れぬ強い光が宿っていた。
そして父の横に突き立っていた剣を抜き、空高くかかげて叫んだ。
「わかった。僕は・・・、僕が絶対に、世界の平和を勝ち取る!」
アキラの言葉に、母は安心した笑顔を浮かべた。
アキラにはわかっていた。母がどれだけ耐えて、自分に旅に出ろと言ったのかが。
それがどれだけ辛かったのか。
そして、アキラは知らなかった。何故父の死顔があんなにも安らかだったのかを。
黄金の資質と天空の心、それが人に希望を与えたことを。
アキラはこれからそれを知り、そして強くなっていく・・・。
結局、ヘレンの両親はへレンが到着したとき、すでに息絶えていた。
村の犠牲者たちの簡素な墓を作り、事件から四日後、アキラが旅立つ日がやって来た。
旅立ちには生き残った人々全て――とはいっても十数人しかいないが――が見送りに来てくれた。
「それじゃあ、行ってくるよ。みんなも元気で。」
背中に形見の剣を下げ腰に巻物をつけ、アキラはみんなに言った。
「気を付けて行けよー!」
「生きて帰れよー!」
「絶対に勝てよー!」
などと、見送りに来た者は口々に色々な事を言った。
「・・・。」
しかしヘレンは何も言わずに黙っていた。
「ヘレンちゃん。何も言わないでいいの?」
アキラの母がヘレンにそう言った。
そしてその言葉に反応するかのように、ヘレンはアキラに駆け寄っていった。
そしてとんでもない事を言い出した。
「私も・・・、私もアキラちゃんに着いて行く!」
・・・。
『えええぇぇぇぇ!?』
「ちょっと待ってよ、ヘレンちゃん!危険な旅なんだよ!?」
「わかってる。でも・・・、私も行く。父さんと母さんの敵を討ちたい。平和を守る力になりたい。」
「でも・・・。」
「それに。」
アキラの言葉を遮るように、ヘレンは続けた。
「アキラちゃんに何かあったら、私泣いちゃうよ?」
ヘレンは悪戯っぽい顔をして、そう言った。
その言葉に、アキラはしばらく困った顔をした。
そして、快い顔で答えた。
「しかたないなぁ。じゃあ、・・・行こう、一緒に!」
こうして。
小さな剣士見習いと小さな僧侶見習いの大きな旅が始まるのだった。
大きな悲しみを乗り越えて。大きな意思を胸に抱きしめて。
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