アキラとヘレンはただ黙々と歩いた。まるで何かを探すかのように。
そう。
二人はまずどこに行けばいいのかわからなかったのだ。

・・・・・・・・・・。

ひたすら沈黙は続く。
そして一体何時間そうしていただろう。痺れを切らしたアキラがついに口を開いた。
「どうすればいいんだろう。」
「あ、アキラちゃんもそう思ってたんだ。」
『困った・・・。』
二人は本当に困っていた。

旅に出たはいいが、二人とも目的地を決めていなかった―――いや、知らなかったのだ。
二人は幼いがゆえ、村の近辺や都、浜辺の町ぐらいしか行った事がなかった。
その二人が旅に出たとしてもどこへ行けばいいのかわからないのはもっともだった。

「しょうがない。いったん帰ろうか。」
アキラがそう言ったとき、遠くの方で悲鳴が聞こえた。
二人は顔を見合わせ頷き、ヘレンがアキラにおぶさり、そしてアキラは駆けて行った。

グランドダッシャ−・アキラ
〜偉大なる走者の伝説〜


第四話・グレムの都に到着

「ひいい!」
身なりの良い男が野党に襲われていた。
「どうした、怖くて動けねぇのかい?」
野党たちは爆笑した。
野党のリーダーの手には人の首が持たれていた。
男のお供だった者だ。野党に襲われ男をかばったが、一撃で首を切られてしまったのだ。
「とりあえず、有り金全部よこせや。そうすりゃ命だけは助けてやらないでもないぜ。」
嘘だ!絶対に嘘だ!
男は心の中でそう思った。なにせ相手は目の前で人を殺しているのだ。残忍な方法で。
あからさまな嘘だった。

野党たちは上機嫌だった。昨日は何かに吹っ飛ばされて大怪我をして、結局収穫はなしだった。
だが今日は、その邪魔も入らず金を持っていそうな者を襲えたのだ。
とにかく気分がいい。思えば昨日は今みたいに地響きが聞こえて・・・。
地響き?
野党のリーダーは顔から血の気が引き、地響きの聞こえる方を向いた。
見ると、そちらには土煙をあげて超スピードで駆けてくるものがあった。

『また来やがったああああぁぁぁぁ!』

野党たちが叫び逃げようとするが、それは高速で野党の中を駆け抜け、反対側に回り込んだ。
それはそこで止まり、強烈な風が辺りを抜けた。土煙が上がり、それは背中に背負っていたものを降ろした。
土煙がおさまってくると、それの姿が見えてきた。
黒い髪、あどけない顔、背負われた剣。
そして何よりもインパクトがあったのが、それの身長。
どこからどう見てもティーンエイジャーですらない子供であった。
そしてその子供は力いっぱい叫んだ。
「そのお兄ちゃんから離れろ!」



野党たちはしばし呆然とした。
目の前にいるのは子供。しかし、そのスピードは尋常ではなかった。子供どころか、最早人間のスピードですらない。
そして何より、野党たちは「こんな子供にやられたのか」と思っていた。
「・・・思い出した!お頭、以前こんな噂を聞いたことがありやす!」
野党のうちの一人が、ハッと我に帰って言った。
「人が魔物や野党に襲われているとき、どこからともなく駆けて来て、悪党をぶっ飛ばす奴がいるって。
中には、ぶっ飛ばされたショックで、野党を辞めちまった奴もいるって話です!」
「何!?じゃあ、このガキがそうなのか!?」
野党のリーダーは驚愕した。
目の前の小さな子供が、これまでに何回も野党を潰しているということなのだ。
リーダーは恐怖した。目の前の子供は恐ろしく強いだろう。
だが、ここで退いては野党のプライドに触ると考え、恐怖を押し殺し叫んだ。
「野郎ども!こいつを殺っちまえ!」

うおおぉぉ!

野党たちは大声を上げ、アキラに襲い掛かった。
「アキラちゃん、来たよ!」
「うん、行くよ!」
アキラは剣を抜き放ち、さっき巻物で見た形になった。
腰を低くかがめ、剣を横に水平に構え・・・。
「閃空剣技・居合!」
叫び、そして駆け抜けた!

ざしゅん!

一瞬で何人もの野党が切られ、倒れ伏した。

閃空剣技・居合。高速で駆け抜け、その勢いで敵を切る、閃空剣技の初等技だ。
ちなみにアキラの場合未完成なので、勢いに負け自分も倒れることになる。現に今勢いを抑えきれず倒れている。
そして、倒れたところを残った野党に狙われた。
物理結界フィジックバリアフィジックバリア!」
ヘレンが叫ぶと、アキラの周りに青白い膜が出現した。

がきいん!

膜に弾かれ、野党たちの手に持たれた刃物が吹き飛ばされた。

フィジックバリア。僧侶の使う術の一つで、物理攻撃に干渉を与えるバリアを出現させるものである。
ちなみにこちらは中級の術。長年の修行の賜物である。
野党たちは武器を弾かれ、それと同時に腕も弾かれ無防備になった。
それを見たアキラは起き上がり、剣を鞘に収め腰を低くした。
「れでぃ〜・・・」
地面に手をつき腰を高くした。クラウチングスタートの構えだ。
「ごー!」
そしてアキラは駆け抜けた。

ごう!

一瞬の瞬発力で、アキラはとてつもない風を起こした。
風をまともに受け、野党たちはのびた。



「楽勝だったね〜。」
戦いを終えたアキラがヘレンに寄って行った。
「あ、アキラちゃん、膝すりむいてる。」
「あ、ホントだ。」
おそらく、さっき倒れた時だろう。膝がすりむけ血が出ていた。
「大丈夫だよ、このくらい。放っておけば治るよ。」
「だめ。そういう事してたら病気になっちゃうよ。・・・ほら、私に見せて。」
そう言ってヘレンは、アキラの膝に術をかけた。
癒しの力オーラヒールオーラヒール。」
優しい光がアキラの膝に集まり、見る見るうちに治っていった。

癒しの力オーラヒールオーラヒール。回復系の術の中では初級の術だ。アキラがはしゃぎすぎて怪我をしたとき、ヘレンはいつもこの術を使っていた。
「はい、治ったよ。」
「ありがとう、ヘレンちゃん。」
二人は笑顔を浮かべて、ほほえましい空気を出していた。
そこへ、二人ともすっかり忘れていたが、襲われていた男がやって来た。
「君達、ありがとう。おかげで助かったよ。」
「どういたしまして。」
ヘレンが答えた。
「君達、名はなんというんだい?」
「あ、僕は神内アキラっていいます。こっちはヘレンちゃん。」
「ヘレン=チェリスと申します。」
アキラは簡単に自己紹介をし、ヘレンは丁寧にお辞儀をした。
「ありがとう。僕はゲイン。ゲイン=フラクスだ。
君達の強さを見込んで頼みがあるんだ。僕を都まで・・・グレムの都まで送ってくれないかい?」
二人はしばし考えた。
「もちろんただとは言わない。グレム金貨十枚でどうだい?」
「それってどれぐらいかしら?」
「う〜ん、銅貨三枚でパン粉が一袋買えて・・・。銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚だから・・・。」
「ははっ、金貨十枚はパン粉が三千袋以上買えるよ。」
お金の価値を知らないヘレンと、計算の遅いアキラが悩んでいると、青年――ゲインが教えてくれた。
『・・・。』
二人はしばらく沈黙し、
「それってどのくらいの価値なの?」
「わかんない。」
と、再び疑問に思った。
「そうだね、安い宿屋なら、二人で一年以上は持つよ。」
ゲインのその言葉でさらに混乱した。
「とにかく、結構大金だということだよ。どうだい?」
「どうする?」
「いいんじゃないかしら?だって、別に断る理由もないでしょ。」
「じゃあ、引き受けます。」
アキラのその言葉に、ゲインの表情が明るくなった。
「ありがとう!助かるよ。」
そして、一行は進路を都へと移したのだった。



その後、何度か野党に襲われたが、大体が居合だけで退散してくれた。
それだけでも退散しないものには、居合・フィジックバリア・居合・・・という連携の繰り返しでどうにかなった。
そして、都まであと一歩のところまでやって来た。



「こんなところで張り込むのやめましょうよ。」
「うるせぇ!だまってろ!」
野党ともいえないような二人組が都の直前の茂みに隠れていた。
「だってここ都に滅茶苦茶近いじゃないっすか。」
「だからいいんじゃねぇか。人通りが多くてよ。」
・・・駄目だこの人。
細身の男はそう思った。
都が近いということは、助けを呼びやすいということだと、わからないのだろうか?
「襲いやすくていいじゃねぇか。・・・っと、お!来た来た!」
太めの男の目に、金持ちそうな青年と二人の子供が映った。
そして、その目は子供の、女の子の方に行った。
「・・・うおおおぉぉぉ!めっちゃかわいいぃぃぃ!」
「なっ。どうしたんすか、アニキ。」
「どうしたもこうしたもない!見ろよ、あの子!」
細身の男はそちらを見た。
「まだ子供じゃないっすか。」
「バカヤロウ!子供でもかわいいじゃねぇか!」
・・・駄目だ。絶対駄目だこの人。
もうこれ以上ついていけないと、細身の男は心底思った。



「そろそろ都に着くな。ありがとう。君達のおかげで何とか無事に済んだよ。」
「いやいや、それほどでもないですよ。」
アキラは照れながらそう言った。
「でも、最後まで油断は禁物だな。いつどこでまた野党が出るか・・・。」

がさ!

ゲインの言葉を遮って、茂みから太い野党?が出てきた。
「へへへ、かわいいなぁ。」
『は?』
男の言葉に全員の目が点になった。
「お嬢ちゃん、名前は?」
アキラとゲイン、二人の視線がヘレンの方に向かった。
「え、わ、私ですか?私はヘレン=チェリスと申しますが・・・。」
「ヘレンちゃん!かわいい名前だなぁ。えへへへ・・・。」
・・・こいつ、まさか。
ゲインの顔に青筋がたった。
まさか、ロリコ・・・。
そのときだった。

ごーん。

上から降ってきた大きな石に頭を打たれ、野党は倒れた。しかもだらしない顔のまま。
そして、細身の男が木の上から降りてきたて、もう片方の男を担いだ。
「失礼しましたーーーー!」
そう叫ぶと、野党はすたこらさっさと逃げていった。
「・・・何だったんだろう。」
アキラは呆然と呟いた。



そんなこんなで、ようやく都に着いた。
「本当にありがとう。ここまで来れたのは、君達のおかげだよ。」
「どういたしまして。」
ヘレンが丁寧にお辞儀をすると、ゲインも丁寧にお辞儀をした。
「そうだ。君達、行く当てがないならお城に行くといい。ゲインの知り合いだと言えば、きっと通してくれるはずだよ。
それでは。またどこかで会えるといいね。」
そう言うと、ゲインは人ごみの中に消えていった。
「どうする?お城、行ってみる?」
「う〜ん。」
二人は考えた。しばらく考え、アキラが言った。
「ゲインさん、結構いい人だったし行ってみようか。」
「うん、そうだね。」
そして幼い二人は、城の方へと歩みを進めて行った。

これから、幼い子供たちの果てのない道が広がろうとしていた。
試練、そして、新しい仲間との出会い・・・。

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曲名 共に戦う仲間がいる