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「すいませーん。」
アキラの幼い声が城門にこだました。
すでに時刻は日が沈む頃になっていた。
あの後二人は城に行くといっておきながら、城下をうろうろしてあちこちを見て回っていたのだ。
それで、城に着く頃にはすでに門は閉まっていた。
「すいませーん。」
もう一度、アキラが叫んだ。
「はあ。だめかぁ。」
アキラがため息をついた。
それ以前にこんな風に呼びかけて『は〜い』と開く城門はイヤだが・・・。
「仕方ないから、明日来ようか。」
「うん、そうした方が良さそうだよ。」
アキラがヘレンに言うと、ヘレンはその意見を肯定した。
そして二人は、城下町に戻り宿をとることにした。
「うわー・・・。」
アキラはライトアップされた都を見て、思わず声を漏らした。
「きれいだねー。」
ヘレンもうっとり見とれている。
しばらくそうしていると、やがて人の少なくなった道に再び人が出始めた。
アキラがぼけーっと突っ立っていると、誰かの足がアキラにぶつかった。
「おぅ、痛えじゃねぇか、坊ず。そんなとこで突っ立ってんじゃねぇ!」
男の罵声を浴び、アキラは我に帰った。
「ヘレンちゃん、早く宿を見つけよう。ここ、なんだか怖い人がいるみたい。」
そう言ってアキラは、ヘレンの腕を引っ張って走っていった。
「ん?」
アキラにぶつかった男は、ふとアキラのほうを向いた。
「―――!」
いや、正確にはヘレンのほうだった。
「あれは、・・・ヘレンちゃんじゃないか!お〜〜〜い!」
しかしヘレンは、その声には気付かずただ走っていった。
「お〜〜〜い!・・・はぁ、はぁ、何で気付いてくれないんだ。」
息を切らし、男はふと思いついた。
「そうか!あのガキがヘレンちゃんをたぶらかしてるんだな。よ〜し。」
とてつもなくヴァカだった。
そこに、もう一人の男が駆けて来た。
「何やってんすか?アニキ。」
そう。この二人は昼間の野党もどきだったのだ。
「おい、カール。明日はヘレンちゃんと一緒にいたガキをぶっ潰すぞ。」
「はぁ?」
細身の男―――カールはいきなりそう言われて何がなんだかわからなかった。
「あのガキがヘレンちゃんをたぶらかしてるんだ。だから俺に振り向いてくれないんだ。」
「あ、あの、ウォルトのアニキ?」
「いいか、カール!明日は二人の泊まっている宿の前で待ち伏せだ!」
「・・・。」
カールはこの太めの男・ウォルトに対しこう思った。
・・・この人、早めにどこかで分別生ゴミにしないとな・・・。
「二名様ですね。305号室へどうぞ。」
受付嬢にルームキーをもらい、アキラとヘレンは三階に行った。
・・・子供だけということに何の疑問も持たないのだろうか、この宿は?
「えーっと、305は・・・ここだ。」
ガチャ、ぎいいぃぃぃぃ。
扉が錆びた音を立てて開いた。
二人は、とりあえず安い宿を見つけることが出来た。
「はぁ、疲れたね。」
ヘレンがため息を漏らした。
昨日は野宿だったので、疲れがあまりとれていなかったのだ。
「じゃあ私、ちょっとシャワー浴びてくるね。覗いちゃやだよ。」
そう言って、ヘレンはシャワールームに入っていった。
「ふぅ。」
アキラはそのまま、ベッドの上に寝転んだ。
そして、腰の巻物を開いてみた。巻物には様々な文字が書いてある。
「次は、どの技を覚えようかな♪」
二人の子供は、どこまでも無邪気だった。
しかし、二人とも心の奥底ではこう思っていた。
必ず、村のみんなの無念を晴らす、と。
グランドダッシャ−・アキラ
〜偉大なる走者の伝説〜
第五話・炎の剣士
次の朝。
「うーん。よく寝た。」
アキラが伸びをした。
「おはよう。アキラちゃん。」
ヘレンはすでに起きていた。
「おはよう。早いね、ヘレンちゃん。」
アキラはちょっと驚いた。アキラも結構早起きなのだが、ヘレンはそれを上回る早起きなのだ。
「うん、毎朝お祈りしてるから。」
照れ笑いしながらヘレンは言った。
身支度を整え、チェックアウトした。
「さあ、行こう!」
そして二人は、城へ向かおうとした。
「待てえい!」
しかしそこへ、男の声が響いた。
「あっ!」
男が現われ、その顔を見てアキラが声をあげた。その顔に見覚えがあったのだ。
「だれだっけ!?」
ずがしゃば!
男はまともにこけた。
「昨日会っただろうが!」
そこでアキラは考え込んだ。
しばらくし、ぽんっと手を打ち言った。
「飴屋のおじさん!」
「んなわけあるかああぁぁぁ!」
男は力いっぱい突っ込みをいれた。
「じゃあ、誰?」
「このガキ・・・。俺様はウォルト!ウォルト=ハーランド!昨日都の入り口で会っただろうが。」
アキラはしばらく考え込んで、困った視線をヘレンに投げかけた。
「あっ!」
ヘレンが声をあげた。
「昨日の野党!」
「あっ!」
ヘレンの言葉に、アキラも思い出した。
「そうだ!よくも俺の事忘れやがったな、くそガキ。てめえ、ぜってえ許さねぇ!」
『・・・。』
二人はしばらく沈黙した。昨日の事を思い出しているのだ。
昨日のパターンだと、確かこの後・・・。
ひゅーーーん・・・。
どずん!
昨日より大きな音をたてて、大石が大量に振ってきた。
太目の男―――ウォルトが直撃を受けてのびたのは言うまでもない。
そして、昨日と同じように細身の男がやって来て男を担ぎ上げた。
「失礼しま・・・。」
「待って!」
男が逃げる前に、アキラは叫んだ。
「・・・なんすか。オイラは何も持ってないっすよ。」
とことん卑屈だった。
「そうじゃなくて。なんでその人は僕に対して怒っていたの?」
男はしばらく沈黙し、口を開いた。
「ウォルトのアニキ、何かそっちのお嬢ちゃんに惚れてるみたいでして。
でもって、いつも一緒にいるあんたに嫉妬してるみたいなんすよ。だから、あんたの気にするこっちゃないっす。」
「えっ!?」
ヘレンが赤くなって声をあげた。
「そ、そんな、・・・私、そんな事を言われても・・・。」
「いやだから気にしないで下さいって。正直、お嬢ちゃんはかわいいけど、まだまだ子供だ。
アニキもすぐに冷めてくれるって。」
その言葉にヘレンは少し、複雑な気分になった。
自分はまだまだ子供。
その言葉がどうしても引っかかるのだ。
確かに自分は子供。そういう自覚はある。というか8歳なのだから当たり前だが。
それでも、胸に何か黒いもやもやを感じるのだ。
まるで、自分が否定されているかのように。
「・・・別に年齢は関係ないと思います。心は誰にだってあるのですから。大人にだって、子供にだって、・・・亡くなった方々にだって・・・。」
否定。それはヘレンにとって自分の両親の生が受けたものだった。
全てを否定される痛みを想像し、ヘレンはやるせない気持ちになった。
「・・・。よく出来たお嬢さんだ。」
負けた、とカールは思った。
「オイラはカール。カール=ブライアン。また機会があったらお会いしましょう。」
そしてカールは、ウォルトを担いで疾走していった。
「・・・。」
ヘレンの横では、アキラが驚いて言葉を失っている。
正直、ヘレンがここまで精神的に大人だったとは思わなかったのだ。
何となく、置いてけぼりを食らった感じだ。
ふぅ。
ヘレンはため息を一つついて、言った。
「さ、お城まで行こうよ。」
そこにいたのは、いつものヘレンだった。
その姿に、アキラは少し安心した。
「うん。行こう!」
そして二人は、手をつないで城へと向かっていった。
「何だ?ここは子供の来るところじゃないぞ?」
城に着いた二人にかけられた第一声はこれだった。
「あの、僕たちゲインさんという人の知り合いなんですけど。」
「ゲインさんはゲインさんの知り合いだと言えば通して頂けるとおっしゃったので参ったのです。」
アキラの説明にヘレンが補足した。
「む。ゲイン殿の知り合いだと?嘘をつけ!ゲイン殿のような方がお前達のような子供と知り合いなわけないだろう!」
「ですが、真実なのです。」
ヘレンは全く動じず、静かに答えた。
「うーむ。こちらのよく出来たお嬢さんはともかくとして、こっちの坊主は信じられないな。」
「本当に知り合いだ。」
声は守衛の後ろの方から聞こえた。
そこには見知った顔があった。
「ゲ、ゲイン殿!」
旅のときと服装は違うが、間違いなくゲインだった。
守衛は頭を下げた。
「旅の途中で知り合い、助けてもらったのだよ。」
「こ、これは失礼しました!」
守衛はこちらにも頭を下げて、城の中に通してくれた。
「ゲインさん、凄いね。」
アキラは驚いた。
「ん?まあね。」
微笑を浮かべてゲインは答えた。
「僕はここの王子だからね。」
『えっ!?』
二人は声をそろえて驚きの声をあげた。
「はは、驚くのも無理はないな。よく言われるんだ。王族に見えないって。」
ゲインは笑いながら言った。
「本名はゲイン=フラクス=グレム。立派な王族だよ。」
「王族でいらっしゃるのに、とても気さくな方ですね。」
「ありがとう、ヘレンさん。おや、アキラ君、どうしたんだい?」
アキラはぼけーっとしている。
「多分、驚きすぎているんです。」
ヘレンが説明してくれた。
そうこうしている間に、謁見の間の前までやって来た。
「父上、ゲインです。旅の途中、お世話になった方々を連れて参りました。」
「入れ。」
扉の向こうから厳格な声が聞こえてきた。
ごおおぉん・・・。
重い音を立てて扉が開いた。
中には守衛が二人いて、王座まで赤い絨毯が敷かれていた。
「その者達だな。ゲイン、ご苦労であった。」
「はっ。」
頭を下げ、ゲインは下がっていった。
「この度は子が世話になった。礼を言うぞ。」
アキラとヘレンは心臓が跳ね上がっていた。
今二人がいるのは謁見の間。一般人には入ることも許されぬ場所だ。
「そなたら、名は何という?」
名前を聞かれてさらに慌てる二人。
「神内アキラです。」
「ヘレン=チェリスと申します。」
「神内!?チェリス!?」
王の目が驚愕に見開かれた。
「これは、・・・ただ事ではないな。」
『?』
「お前達、少し下がっていなさい。」
『はっ。』
王は守衛も下げた。
「話は聞いている。ランツが炎に包まれたそうだな。」
『・・・。』
二人は黙っている。思い出しているのだ。一昨日の悪夢を。
「あれをやったのは、我が王宮の者だった者だ。」
「父から聞いています。」
アキラが言った。
「ほう、それでトウイチはどうした。」
トウイチとはアキラの父の名前だ。
「・・・亡くなりました。」
やっとの思いでアキラは声を出した。
「何と!?トウイチが逝ったのか!?」
王は驚愕に目を見開いた。
「そうか。・・・これは我が軍を総動員して奴を討つしかあるまい。」
「待って下さい!」
アキラが声をあげた。
「父は確かに亡くなりました。でも、まだ僕がいる。僕が戦うんです!」
「・・・。」
王が今度は黙ってしまった。
「軍隊を出すってことは、戦争になるっていうことですよね。」
「ああ、そうなるだろう・・・。」
重々しく、王が言った。
「戦争が起こると、人がいっぱい死にますよね。」
「・・・。」
王は無言で頷く。
「戦いとは関係の無い、罪の無い人達まで・・・。」
もはや、王は一言も無い。
「そんなの絶対に嫌だ。これ以上、誰かが戦って誰かが死ぬのは嫌だ・・・!」
「そうか。・・・レクイエム!レクイエムはおるか!」
王が声をあげた。
それと同時にアキラ達の背後に銀の髪を持つ男が現われた。
「ここに。」
その男は淡々と答えた。
「その男はロバート=レクイエム。我が国の中で一番の使い手だ。
そやつを打ち負かせれば軍を出すのはしばし待とう。そなたに奴を討つことを任せよう。」
そして、男―――ロバートは立ち上がった。
「そういう事だ。さあ、どうする?」
ロバートは淡々と言う。まるで感情が無いかのように。
「・・・やる!やらなければいけないんだ!」
アキラも立ち上がる。
「よし。それでは・・・始め!」
王の言葉を合図にし二人が剣を抜いた。
「ふん!」
ロバートが強烈な剣撃を繰り出す。しかしアキラは、高速で動きかわした。
その勢いを使って剣技を繰り出す。
「閃空剣技・居合!」
瞬間、アキラの姿が見えなくなり、ロバートは・・・切られなかった。
「何!?」
「甘いわ。」
今度はロバートが駆け抜ける。
「むん!」
ロバートが横になぐ。
アキラは転げてよけるが、よけきれず足を浅くながれた。
「くっ!」
アキラは立ち上がった。
居合が駄目だった。
この男は・・・恐ろしく強い。
これまでアキラが戦ってきた野党を数団束ねてもこの男には及ばない。それほどまでだった。
だったら。
「これでどうだ!」
アキラは一瞬で駆け抜けた。
瞬発力で生まれた風が、ロバートに吹きつける。
「くっ!」
さすがにバランスを崩し、よろけるロバート。
「今だ!閃空剣技・空剣!」
アキラが剣を高速で振ると、何かが地面をこすりながら突き進んでいった。
閃空剣技・空剣。高速の剣により生ずる衝撃波を利用した技である。
遠距離からの攻撃が可能な技で、また衝撃波は不可視なので回避し辛い技である。
ロバートは横にとび、何とかかわす。
が、かわしきれなかったらしく、腕から少し血が出ている。
「・・・。たいした子供だ。」
剣を降ろすロバート。しかしその体から闘志が消えたわけではない。
「俺に本気を出させるのだからな。」
言ってロバートは、血を指で取り剣に塗った。
直後、剣から炎が出た。
「!?」
「俺はファイアデーモンと人のハーフなんでね。そしてこれが俺の本当の武器だ。」
ファイアデーモンとは、全身が炎に包まれているモンスターで、その血は燃費のいい燃料になるという。
「覚悟しな。」
ロバートは剣を後ろに引いた。
「魔炎技・熱波!」
そこから思いきり剣を振り、炎の波を作り上げた。
炎がアキラに押し寄せる!
「・・・!」
逃げ場は・・・無い!!
だめだ!
そう思った瞬間、あることが閃いた。
「閃空剣技・空剣!」
剣の一閃で衝撃波を生み出し、炎の波を切り裂いた。
だが、それで炎の波がとまるはずもなく、炎はアキラに押し寄せていた。
今だ!
アキラは炎が割れた瞬間に駆け抜けた。
炎を越え、ロバートの姿が見えた。
「何だと!?」
ロバートが驚愕する。
アキラの作戦は、炎の波に真空の衝撃波を加えそこの炎を断ち切り避けるスペースを作ることだった。
慌ててロバートが燃え盛る剣を大上段に構える。
「閃空剣技・居合!」
「魔炎技・炎刃!」
光のような銀の剣と赤く燃え盛る剣が激しく交錯する。
どぐおぉおお!
ロバートの炎にアキラの纏った空気が大量に流入し、大爆発を巻き起こす。
「アキラちゃん!」
ヘレンが叫んだ。
やがて炎がおさまり、二人の姿が見えた。
全身が黒く焦げたロバートは立っていて、アキラは倒れている。
ヘレンの膝がかくんっと折れる。
「そんな・・・。アキラちゃん・・・。」
ヘレンの目から涙が溢れる。
「・・・見事。俺の・・・完敗だ・・・。」
どさ。
ロバートが倒れて、アキラが起き上がった。
「あいたた。また倒れちゃった。」
そう。アキラが最後に使った技は居合。まだ未完成なため技の後に倒れることがしばしば。
つまり、最後の大爆発はロバートにしかダメージが無かったという事だ。
「アキラちゃん!」
ヘレンが駆けて行った。
「アキラちゃん!よかった!よかっ・・・!」
途中からは言葉になっていなかった。
「うん、心配かけてごめん。僕は平気だから。」
そして、立ち上がっていった。
「王様。僕、勝ったよ。これでいいでしょ。」
「うむ。見事な強さじゃ。これならトウイチもうかばれるだろう。」
王は微笑みながら答えた。
次の日。
「次は港町カルティから、南の町カリクまで行きなさい。そこに妙なものがあるという報告を聞いた。ひょっとしたら、奴の居場所を突き止める手がかりがあるやもしれん。
行ってみるとよい。」
王の助言を受け、二人は港町に行くことにした。
「待て。」
城を出た直後、二人は誰かに呼び止められた。
見ると、そこにはロバートの姿があった。傷はもういいらしい。
「王の伝言だ。」
「何?」
アキラが言った。
「俺も着いていくことになった。保護者代行としてな。」
「えええ!?」
「それは助かります。これからも、よろしくお願いします。」
二人は正反対の反応を見せた。
しかし、それに動じることも突っ込む事もなくロバートはすたすた進んでいった。
「行くぞ。」
「何でロバートさんが仕切るの。」
「いいじゃない。年長者なんだし。」
平和な会話をして、三人は次なる町を目指した。
勇者達の旅は、まだまだ始まったばかりである。
第六話へ
曲名 強敵