2008/09/30
明らかに頑張りすぎ。
結局50KBぴったし。詰めすぎた上に最後端折りすぎた。
まあ、脳内補完しつつ見れ。
あああと、挿絵はまた後日。
Side Akira Jin-nai
先日の訓練の次の日には、なのはは自室から出てきた。
しかし、僕とは目を合わさなくなっていた。
僕と目が合うとすぐに目をそらし、アリサとすずかと会話しているときでも、僕が入ってくると逃げ出すように去る。
当然高町家の皆や二人にも「何があったのか」と聞かれたが、僕にはその理由がわからなかった。
なのはが何に追われ何を焦っているのか。それが僕には全く想像できなかった。
そんな有様だから、僕は仲間と再会できたことをなのはに伝えられなかった。
ユーノが伝えてくれると言ったのだが、今なのはは、多分僕のせいで落ち込んでいるのだから、僕の話題は避けるように頼んだ。
そして事態の好転を見ないまま、一泊二日の温泉旅行の日がやってきた。
ゴチャマゼクエストSS 『異邦見聞録』 〜麻帆良学園都市・外伝〜
魔法少女リリカルなのは
閃光と雷鳴・剣と杖
第十一話・昨日の敵は、今日の友は
Side Alisa Burnings
今あたしは車の中にいる。いつも執事の鮫島が運転しているリムジンではなく、高町家が所有する車の一つだ。
人数が多かったので男組・女組に分かれて、二つの車に乗っている。
そう、今日は待ちに待った高町・月村・バニングス合同の温泉旅行の日なのだ。
だと言うのに・・・。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
さっきから誰も何も話そうとしない。何よコレ。
なのはの様子がおかしいと思ったのは、先週すずかの家で遊んだとき、ユーノがどこかへ行ってしまいそれを追いかけて、その後アキラと一緒に帰ってきたときからだ。
なんていうか、必死にアキラの後を追いかけようとしている感じがした。多分本人は気づいてないだろうけど、アキラが移動するとそれに合わせてちょこちょこ動いてたしね。
その次の日はそれがもっとひどくなっていた。おまけにどこかぽーっとしてて、人の話が聞こえてない感じだった。
そしてさらにその次の日。その日からなのはの様子が明らかにおかしくなった。
話をしても相槌を打つぐらい。おまけに、アキラを避けていた。
あたしたちと話しているときにアキラが来ると、逃げるようにどこかへ行ってしまう。
アキラに聞いても「分からない」っていう答えしか返ってこなかった。問い詰めてやろうとも思ったけど、あんなに申し訳なさそうな表情をされてしまったら何も聞けない。
何とかしたい。でも何も出来ない。それがここのところ、あたしをイライラさせていた。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
さらに続く沈黙。
桃子さんや美由希さん、忍さん、すずかの家のメイドのファリンとノエルも何か話したいのに話せなさそうにしている。
あーもう!まどろっこしい!!
「ねえ、なのは。」
「・・・何、アリサちゃん?」
あたしが口火を切るから、皆ちゃんと乗りなさいよ!!
「あんた、アキラに告ったの?」
ばふぅ!?
車の中の全員が噴き出した。・・・汚いわねぇ。
「な、ななな、なな何で!!?」
「何か最近あんたアキラのこと避けてるでしょ。だから告ってふられでもしたのかと思って。」
「そうなの、なのは!?」
この話に乗ってきたのは、やはりというか美由希さんだった。
「お姉ちゃん、詳しく知りたいなぁ。ね、どうなの??」
「お、お姉ちゃん落ち着いて・・・。」
「なのはちゃん、大人ですねぇ。」
「ファリンさんも!!?」
この後、桃子さんと忍さんも会話に入ってきて、すずかがその光景を想像したのか顔を真っ赤にして、車の中は大いに盛り上がった。
結論から言うと違ったようだ。結局、なのはが元気ない理由はわからなかった。
けど、暗い雰囲気は一掃できたみたいだし、今はよしとしましょう。
Side Akira Jin-nai
男組は士郎さんと恭也さん、バニングス家の執事の鮫島さん(本人は遠慮したが、アリサが強引に誘い出したらしい)、そして僕(肩にユーノが乗っていて、懐にジエンがいる)だった。
初めはこっちに忍さんが乗って、僕が向こうの予定だった。だが、ここのところのなのはの様子を見て、遠慮したのだ。
そしてやはりと言うべきか、会話らしい会話はほとんどなかった。
まあ、乗ってる面子が硬派な男ばかりだったのだから、仕方ないといえば仕方ない。
皆が会話をしていれば、僕はユーノとジエンと相談することもできたが、あいにくと静かな車内でそれはできなかった。
そして到着。
「着いた着いたー!!」
美由希さんが元気よく叫ぶ。女組を見ると、どうやら賑やかに会話していたようだ。いいことだと思う。
なのはは――。
見れば、なのはは少し顔を赤くしながら、少し笑っていた。
良かった、少し元気になれたみたいだな。
そう思い、同時に理解する。ああ、やっぱり僕のせいだったんだな、と。
僕がいなければ――前ほどではないにしろ、笑えるんだ。僕がいない方が、やはりなのはにとっていいことなんだ。
だったら僕は、この旅行ではなるべく一人でいよう。いや、この旅行が終わった後も、なのはに必要以上にかかわるのをやめよう。
だから僕は。
「(ユーノ。なのはのことを頼んだよ。)」
「(え、アキラさん・・・?)」
ユーノを肩から下ろし、一人先に旅館の中に入っていった。
Side Daichi Ohzora
俺は今、温泉宿近くの山中に来ている。
フェイトちゃんの探索魔法に引っかかった『ジュエルシード』が、この近辺にあるらしい。
これ以上は活動が活発にならないとわからないらしいので、俺がこうして目視で探しに来たのだ。
見つかる可能性は低いが、戦闘担当として実地調査も兼ねている。
ちなみに、フェイトちゃんとアルフには温泉宿に行ってもらっている。訓練続きなのだから、たまには休息も必要というものだ。
アルフはともかく、フェイトちゃんはかなりごねた。俺が『ジュエルシード』を探しているのに、自分だけ休むというのが許せなかったらしい。
フェイトちゃんらしいとは思うのだが、そこは心を鬼にして(?)泣き落としておいた。フェイトちゃんに一番有効な説得方法は泣き落としだというのは、俺が得た一つの結論だ。
閑話休題。
近くには森がある。あの中に『ジュエルシード』があったら見つけるのは骨だ。
振り返り、橋と小川を見る。橋を渡り、平地を眺める。
目に見えるところには『ジュエルシード』らしき影が見当たらない。
さらに探してみるか、発動を待つか。二つに一つ。
ぽく、ぽく、ぽく、ちーん。
「よし、風呂入ろ。」
選択の余地なし。ていうか温泉目の前にして入らないやつは人じゃねえ。
そんなわけで、俺は宿の方へと歩を進めた。
このとき俺は気づいていなかった。この歩みの先からやたらと「お約束」の香りが漂っていることに。
Side Nanoha Takamachi
私はどうすればいいんだろう。
どうすれば、またアキラ君のそばに立てるんだろう。
この間の訓練から、私の頭の中はそれでいっぱいだった。
逃げ出してしまったとき、最初に浮かんだのは後悔。
アキラ君は私のためを思って訓練中止を告げたのに、それをわけのわからない激情に駆られて振り払ってしまったこと。
そもそもアキラ君は私のために訓練をしてくれていたのに。
謝らなければ。そう思ったけど、怖くてアキラ君の目の前に立つことができなくなっていた。
もしアキラ君が許してくれなかったら。ひょっとしたら、アキラ君はもう私のことを見限っているかも。
そんな考えが自然と頭に浮かんで、逃げ出してしまう。
アキラ君の横に立って、ともに戦えるように。そう思っていたのに、いつの間にか私はアキラ君の隣に立つことさえできなくなっていた。
旅館に着いたとき、アキラ君はいつの間にかいなくなっていた。
それに気づいたとき、私は怖くなった。
もうアキラ君は、私を見捨ててしまったのかもしれないと。
(なのは。)
ユーノ君が私の肩に乗り、念話で語りかけてきた。
(ねぇ、ユーノ君。)
私は念話で応じる。
(アキラ君は、もう私のこと嫌いになっちゃったのかな・・・。)
そんな弱音を、気づいたら吐いていた。
(そんなことないよ!!ここ数日、アキラさんはなのはが元気がないのを心配していたよ。今だって僕になのはを見守っているように頼んだんだし。)
念話でそう伝えてくるユーノ君。・・・ありがとう、ユーノ君。嘘でも嬉しいよ。
それでも心にたまる重い何かを消すことはできず。
私はそれを抱えたまま、旅館の中に入っていった。
Side Akira Jin-nai
「ねぇ、ジエン。」
「ナンダ!!」
お湯につかりながら、頭の上に乗るジエンに話しかける。
「なんで『アイツ』は、いつもあんなに陽気でいられるのかな。」
僕の頭に浮かぶのは、一人のはた迷惑な『理不尽』そのもの。
その場に存在するだけで、ノリと勢いに任せた行動で騒動を振りまく至高の馬鹿。
そのくせ、皆からは結構好かれているという、まさに理不尽。
今の僕の鬱々とした気分も、『アイツ』ならまるで何事もないように晴らすことができるんじゃないか。
そう思ったら、そんな言葉が自然と出ていた。
「タイーショ、ナニモカンガエテナイ!!」
「それは言えてるな・・・。」
苦笑が漏れる。頭の中に何が入っているんだというほど、『アイツ』は考えなしに行動する。
「ソレト」
ジエンが続ける。
「タイーショイッテタ!!ニンゲンバンジ、サイオウガ(゚Д゚)ウマー!!」
それは『アイツ』の好きな言葉の一つ。
人生は良いことが起これば悪いことも起こる。悪いことが起これば必ず良いこともある。
「だから、深く悩む必要もないってことか?」
ジエンの言いたいことを考えて補ってみる。
だが、ジエンはしばらく黙ってしまった。何か考えているようだ。
そして、口を開く。
「タイーショ、ウマー(゚Д゚)ナコトモ、マズー(゚A゚;)ナコトモタノシム!!」
そうか。
『アイツ』は楽しみたくて騒動を起こすのだ。『アイツ』は常に楽しみたいのだ。
だから、悩むことすらも楽しみたい。楽しまなければ、悩みがもったいないから。
「ふぅ・・・、まじめに考えるのがばかばかしくなるほど無茶苦茶なやつだな、やっぱり。」
「ソレデコソ、タイーショ!!」
自然と、笑いが漏れてきた。
『アイツ』に関しては反面教師にしている部分が多いが、そういうところは見習った方がいいかもしれない。
と、がやがやと脱衣所の方から声が聞こえる。士郎さんたちも来たのだろうか。
「ジエン、隠れて。」
「リョカーイ!!」
僕はジエンを髪の中に隠す。こういうときは便利な髪だ。
士郎さんと恭也さん、鮫島さんの声がどんどん近づいてくる。
「いやー、それにしても本当に奇遇ですね士郎さん。こんなところで会うなんて。」
・・・あれ?もう一人いるような。しかもこの声、どこかで・・・。
「ああ、本当に凄い偶然だな。後でうちの娘たちも紹介しよう。」
がらりと、脱衣所の扉が開けられ、その人物が現れる。
思わず僕は目が点になった。
「おお、アキラ君。紹介するよ、彼は大空大地君と言って、最近こっちに引っ越してきた翠屋の常連さんだ。」
・・・ええ、知ってますとも。そりゃもう、嫌ってほど。
大空さんの方も目が点になっている。恐らく心の中で思ってることも同じだろう。
――なんであなた(君)がここにいるんですか(だ)?
なんてお約束な展開。思わず、頭を抱えたくなった。
一方その頃、当然と言うべきか、女湯でもそのお約束が繰り広げられていた。
Side Fate Testarossa
私は今、無言で温泉につかっている。
隣には使い魔のアルフ。そして逆隣には――。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
先日『ジュエルシード』の取り合いをした魔導士の少女。
どうやら彼女は家族と友人たちと旅行に来ているらしい。その家族というのを見ても驚いたのだが。
以前お兄ちゃんと一緒に行った『翠屋』という喫茶店の支配人夫妻。彼らが少女の両親なのだそうだ。
世間は狭いというらしいけど、それを肌で感じた。
最初は戦闘になるかと思ってピリピリとした空気が流れたけど、どうやら向こうにその気はなかったらしい。
本当ならすぐにでも上がりたかったのだけど、桃子さん――という名前らしい――に「娘と仲良くしてあげてね」と言われ、抜け出せずに終わった。
そして現在。私はこうして敵であるはずの少女と肩を並べて湯につかっている。
沈黙が続く。正直辛いものがある。
――それにしてもこの子、前見たときと随分印象が違うな・・・。
何というか、最初にこの子を見たときは、もっと明るそうな印象を持っていた気がする。
それが今は、何も話さず無言でお湯につかっている。表情も暗い。
私にはやるべきことがある。だから本当なら、彼女に無用な干渉をする気などなかった。
けど、何故だか知らないけれど、気がついたら私は彼女に声をかけていた。
「君はどうしてそんなに落ち込んでいるの?」
「えっ?」
少女が驚いてこちらを見る。無理もない、敵対しているはずの人間が気遣うような声をかけたのだから。
というより、私自身驚いている。なんで声をかけてしまったんだろう。
「・・・ごめんなさい、何でもない。」
「あ、うん・・・。」
再び続く沈黙。
と。
「きゅー!!」
一匹のフェレット――彼女の使い魔がこちらに駆けてきた。どうやら、向こうにいる少女たちに色々いじられて逃げてきたらしい。
それは彼女の頭の上に乗り、安堵のため息をついていた。
そしてそのフェレットを追って、二人の少女がやってくる。
「待ってよー、ユーノー!!」
快活そうな金色の髪をした少女が、大きな声で言った。『ユーノ』とは、あの使い魔の名前だろう。
「アリサちゃん、そのぐらいにしておこうよ。」
控えめそうな黒髪の少女がそれをいさめる。
金色の方の少女が不満そうな顔をし、私の方を見る。思わずびくっとした。
「そういえばあんた、桃子さんの知り合いなのよね。名前は?」
「あ、あの、えっと・・・。」
名前を言っていいものだろうか。あまりこの世界の人と関わり合いになるわけにはいかないのだけれど。
・・・多分この少女は引き下がってくれないだろう。そんな気がする。
「・・・フェイト。フェイト=テスタロッサ。」
「フェイト、ね。あたしはアリサ=バニングス。よろしくね!!」
金の少女――アリサが右手を差し出してくる。えっと、これはどうすれば・・・?
「お友達の握手だよ。」
黒髪の少女が横から教えてくれる。そしてアリサと同じように右手を差し出し。
「私は月村すずか。」
そう言った。
断るわけにもいかず、私はその手をとった。
「ほら、なのはも自己紹介しなさいよ!!」
私の隣にいる少女に、アリサが言う。少女は驚き、少しの間うろたえたが。
「・・・高町なのはです。」
そう言って、右手を差し出してきた。
こうして私、フェイト=テスタロッサは、敵対しているはずの魔導士と、仮初の『友人』となった。
ちなみにこのやり取りの間、人間形態をとっていたアルフは、完全に他人のフリをしていた。
・・・アルフの薄情者。
Side Daichi Ohzora
夜は大宴会だった。当然、俺とフェイトちゃんもそれに誘われた。そしてアルフも獣形態を取って参加している。
俺もフェイトちゃんも、色々と絡まれた。
剣のことで色々言ってくる恭也さん。てか俺学者ですから。剣の道説かれても困りますから。
フェイトちゃんとの関係を色々邪推してくる美由希。俺ロリコン違いますから。
助けを求めた桃子さんは、美由希に加勢する。呼んでもいないのに忍さんは話に加わってくる。その後すぐ恭也さんとこ行ってたけど。
やっと解放されたと思ったら、今度は士郎さんに剣の道をってそりゃーもうええねん。
フェイトちゃんは少女たち――アリサとすずかちゃんの質問攻めを食らって目を白黒させている。
でも、楽しい。そう感じられる時間だった。
そんな中、俺は二人の人物が気にかかっていた。
一人は神内アキラ。
昼間、温泉で会ったときもそうだったが、どことなく沈んでいた。
そしてもう一人。彼が導いている少女、高町なのは。
先週はもっと明るそうな感じだったのだが、今はやたらと暗い。フェイトちゃんたちの少女の輪に加わってはいるものの、何もしゃべっていないし。
おまけに、二人ともお互いを避けあっているように見えた。
周りも、そんな彼らに対しどう処置していいのか、考えあぐねているように見える。
――ふむ、ここは俺が一肌脱ぎますかね。
本来、彼らと俺たちは敵対するもの同士。塩を送る必要はない。
だけど、それだけじゃない。彼らは未来のフェイトちゃんの友人候補。それだけで手を差し伸べる理由は十分だ。
何より、俺がそんな彼らを見ていたくないから。
あのぐらいの年頃の子供は、やっぱり元気な笑顔でいなくっちゃ嘘だ。
宴会の席をそっと離れるアキラ君。俺もそれに合わせ、トイレと言って席を外す。
彼は少し離れた欄干にいた。見れば白饅頭みたいな生物――ジサクジエンもいる。
ジエンと会話していたのか。だが、明らかに元気がないな。ジエンも必死に励まそうとしているようだが。
やはりここは俺の出番だな。
そう心の中でつぶやき、彼に声をかけた。
「よう、アキラ君。元気ないじゃないか。」
「・・・そう見えますか?」
苦笑しながら、彼はそう言った。
Side Nanoha Takamachi
何だか、笑う気になれない。
ここにはアリサちゃんがいる。すずかちゃんがいる。家族の皆も、親しい人たちもいる。
なのに、私は笑えない。笑おうとすると、何だか泣きたくなってくる。
ダメだ、こんなんじゃ。私は強くないと。
そうやって、心の中で思うけど、やっぱり笑えない。
ユーノ君も念話で励ましてくれているけど、それでもダメ。
なんでこんなことになっちゃったんだろう?
思う。私は強くなりたかった。アキラ君のそばに立って、一緒に戦えるように。
アキラ君と一緒に、笑っていられるように。
なのに私は。アキラ君が私のために訓練をしてくれたのに。私の体を気遣ってくれたのに。
それを全部、無にしてしまった。一緒に居られるために頑張ろうと思ったのに、自分から失くしてしまった。
自分が嫌になった。いっそ、消えてしまいたいほど。
そうできれば、一体どんなに楽だろうか。
(昼間にも聞いたけど――)
そんなときでした。
(君は、何でそんなに落ち込んでいるの?)
敵対しているはずの少女――フェイトちゃんから、そんな念話が飛んできたのは。
Side Akira Jin-nai
「で、先週から一体何があったんだい?」
まるで世間話でもするような調子で、大空さんは僕に問いかけた。
おかしなものだ。僕たちは今、『ジュエルシード』をめぐって争っているはずなのに。こんなにも穏やかな時間を共有しているとは。
「・・・僕にもよくわかりません。ただ、あの戦いの後、なのはが急に何かを焦りだして、訓練の最中にも集中できてなくて。
それでそのことを指摘したら、急に怒ってしまって。その後はずっと僕のことを避けていて・・・。」
洗いざらい全てを話したのは、大空さんの持っている安らぎの雰囲気のせいか。
「ふ〜む、なるほどねぇ・・・。」
あるいは、僕は期待したのかもしれない。精神物理学という、心を現象として扱う学問の祖に。
彼なら、この状況を打開する解を導き出してくれるかもしれないと。
だが、返ってきた答えは。
「ま、あれだ。とりあえず謝っとけ。」
実に簡素なものだった。
「・・・それで解決できれば苦労はしませんよ。」
憮然と言う僕。だが大空さんはわかってないなと言わんばかりに肩を竦め首を横に振る。
少しカチンと来た。
「結局、大空さんにもわからないんですね。期待して損しました。」
で、毒吐いた。けど大空さんはどこ吹く風で。
「いやいや、俺にはわかったよ。何から何までぜーんぶね。
だけどさ、果たしてそれを俺が君に伝えたからといって、それが必ずしもいいこととは限らないだろ?」
・・・確かに正論だが。
「だから俺は行動指針を示してやるだけ。あとは君ら次第だよ。
それに、謝るっていうのは意外と効果あるんだぜ?俺も葉平相手によく謝ってるし。」
かっかっか、と大空さんは笑う。・・・そんなもんなんだろうか。
「そうですね。男女の争いごとは、男の方から謝るのがいいとよく言いますしな。」
「へ〜。何だかよくわからないけど、そういうものなんですね。」
「ええ、女性は感情が強く、男性は理性が強い。だから男性は理性をもって、女性の感情を理解しいさめることが必要なのです。」
「おおー、わかってるじゃん、鮫島さん。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
『鮫島さん!!?いつからそこに!?』
いつの間にか、バニングス家執事・鮫島さんが僕たちの背後に立っていた。
一流の剣士の僕に気取られずに背後を取るとは・・・!?
「大空様が『果たしてそれを俺が君に伝えたからといって、それが必ずしもいいこととは限らないだろ?』と言ったあたりからですな。」
しかも結構前から!?
「は!!しまった、ジエン早く隠れて!!?」
「アヒャーヒャヒャヒャ、モウテオクレ!!」
しまった、思い切りジエンを見られてしまった!
ユーノみたいにフェレットのような動物として見られるならまだしも、ジエンなんて完璧に動物じゃない。おまけに人間の言葉しゃべってるし。
だが鮫島さんは
「ご安心を。ここで見聞きしたことは誰にも話しませんので。」
そう言ってくれた。安堵のため息が出るのがわかった。
「でも、何故?」
僕の言葉に、鮫島さんはさも当然とばかりに。
「一流の執事とは、仕える人間とその周囲の人物が快く過ごせるように努めるものです。」
「そういうもんですか。」
「そういうものです。」
何だか笑えてきた。僕たち3人――ジエンを入れて4人は、ひとしきり笑った。
その後。
「うん。なんか、何とかなる気がしてきました。ありがとう、大空さん、鮫島さん。」
「そりゃよかった。あとは君次第だぜ、アキラ君。」
「ご武運をお祈りしています。」
そんな軽口を交わし、僕たちはその場を後にした。
Side Fate Testarossa
何故彼女のことを気にかけたのかはわからない。
でも、暗い表情をしている彼女を見ることは、何だか我慢できなかった。
だから意を決して
(昼間にも聞いたけど――君は、何でそんなに落ち込んでいるの?)
念話をかけた。
彼女の困惑が見て取れた。その反応は当然だ。私たちは今敵対しているのだから。
(・・・何で?)
短く、そう返ってきた。私は答えに窮する。
(わからない・・・。私自身、何で君の悩みを知りたいのかはわからない。でも今の君を見ているのは、どうしてかわからないけど耐えられない。)
何とか、答えを返す。
(そうなんだ・・・。)
(だから教えて欲しい。何を悩んでいるのか。)
しばし、彼女は躊躇する。
そして、彼女は話してくれた。
あの少年――アキラと訓練をしたこと。そのとき、アキラが彼女の体を気遣ったこと。
それを拒絶して、彼の思いを全部無駄にしてしまったこと。
(そうしたら、アキラ君に嫌われたかと思って、怖くてアキラ君と話せなくなった。それで今日ここに着いたら、アキラ君も私のことを避けるようになってて・・・。)
――よくわからなかった。何でそんなことになったのか、どうすれば解決できるのか。
でも、一つだけわかったことがある。
(君はあの子のそばにいたいんだね。)
(・・・うん。)
一緒にいたいから頑張ったはずなのに。いつの間にか一緒にいられなくなっていた。
――その経験は、私にもあるから。彼女が今どれだけ辛い思いをしているかわかる。
でも、彼女と私は違う。彼女ならまだ、多分だけど、間に合う。いや、私だって間に合うはずだ。
だから私は告げる。
(なら、謝ればいい。)
彼女は驚いたような瞳で私を見た。そしてすぐに目を伏せ
(でも、許してくれるかな・・・。)
弱気なことを言う。
(君はあの子のことを信じてるんだよね。)
(うん・・・。)
(だったら、謝るべきだ。信じている相手に許してくれないかもしれないから謝らないなんて、絶対ダメだ。)
彼女ははっと、何かに気づいたような顔をした。
(・・・ありがとう、フェイトちゃん。)
少しだけ表情をやわらかくし、彼女は礼を告げた。・・・何だか照れくさくなった。
(お礼なんて別にいい。私は自分の言いたいことを言っただけだから。)
そう照れ隠しをする。
ああ、何だ。そういうことか。
私は理解した。何故彼女を放っておけなかったか。
理由なんて何もないんだ。ただ目の前で困ってる人を放っておけないだけだったんだ。
お兄ちゃんなら絶対そうするから。いつの間にか、私の中でそれが当たり前になってたんだ。
そう理解し、私は一人、くすりと笑うのだった。
そうしていると、お兄ちゃんとアキラと、・・・名前は忘れたけど、確かアリサの執事をやってるという人が帰ってきた。
「・・・なのは、ちょっといいかな。話があるんだ。」
アキラは彼女に声をかけた。彼女は「うん・・・。」と緊張の面持ちで頷き、彼の後を追った。
アリサが「お、アキラから告るの!?」とか言ってたけど、何のことだろう。すずかも顔を真っ赤にしてたけど。
私の隣にお兄ちゃんが座った。
「いやー、アキラ君もあれでなかなか大変ですなぁ。色男は辛いね。」
そう言ってくくくっと笑った。
「お兄ちゃんも、アキラに何かアドバイスしたんだ。」
「『も』ってことは、フェイトちゃんもなのはちゃんに何か言ったのか。」
お互い、敵に塩を送っていた。何だかそのことが妙におかしくて、私たちは笑った。
そうしていると、アリサがぬっと出てきた。・・・な、何かな?
「それで、あんたたちはどっちから告ったの!?」
だ、だから意味がよくわからないんだけど・・・。
「あのなぁアリサ。俺はフェイトちゃんのお兄ちゃんで、歳も8つも離れてる。そんな俺が相手じゃ、フェイトちゃんに失礼だろ?」
「兄妹ったって血の繋がりはないでしょうが。それにグローバルで見れば8つ差なんてあってないようなもんよ!!」
「それは20、30過ぎてから言う言葉だ。8年前なんてお前はまだよちよち歩き始めてるか始めてないかなんだからな!!」
???何だか話が見えてこない。けど、お兄ちゃんはアリサと舌戦を繰り広げている。
「アリサちゃんの屁理屈についてこれるなんて・・・。凄いんだね、大地さん。」
すずかが苦笑いを浮かべながら、私に言ってきた。・・・何だか嬉しい。
「でも、アリサも凄いね。お兄ちゃんは凄く頭がいいはずなんだけど、それにちゃんと着いていってる。」
「あ、あはは。何だか方向性が凄く間違ってる気もするけど・・・。」
そうなんだろうか。よくわからなかった。
そんな光景を見ながら、私は彼女に念話を飛ばした。
(頑張れ、『なのは』。)
(・・・うん!!)
返ってきた念話は、力強かった。
(全く、うちのご主人様も兄貴分も、お人よしすぎだよね〜。ま、そこがいいんだけどさ。)
実はさっきからずっとアリサを上に乗せていたアルフから、そんな念話が飛んできた。
それで私はまた、一人小さく笑うのだった。
Side Akira Jin-nai
月明かりの下、先ほどの欄干までなのはを連れる。
くるりと振り返ると、なのはが顔を少し赤らめ、目を合わせづらそうにしていた。
・・・やはり、僕のことを怒っているのだろうか。僕が何気なくとった行動で、彼女の気に障ったのかもしれない。
「・・・僕はなのはに、言わなきゃいけないことがある。」
真剣に、僕は告げた。それでなのはが「えっ」と小さな声を上げた。
目を瞑り、息を吸い込み、吐く。ただ一言言うだけなのに、何でこんなにも緊張するのだろうか。
でも、僕は言わなければいけない。いつもの元気ななのはに戻ってもらうために。
目を開けると、なのはが体を縮こめさせて目をギュッと瞑っていた。
さあ、気合を入れろ、神内アキラ!!
『ごめんなさいっ!!!!』
『え?』
二度、月下で声がハモった。
えーと、今声がハモったのは僕と・・・なのは?
「え、な、なんでなのはが謝るの!?」
「そ、それはこっちの台詞だよ!?」
え?何この状況?
「だって、なのはは僕のこと怒って、僕のことを避けて!??」
「アキラ君は私のことが嫌いになって、私に会わないようにして!!?」
あれ?あれれ?
ひょっとして僕たち・・・。
「すれ違ってた、だけ?」
「・・・かな?」
ぷ。
どちらからともなく、笑いが漏れる。
「何だ、そういうことだったのか。」
「おかしな話だね。」
しばらく笑いあう。そして。
「・・・でも、私はやっぱりアキラ君に謝らなくちゃ。アキラ君は私のことを心配してくれたのに、私はそれを無駄にしちゃったから。」
なのはがそう口を開いた。
「そのことはいいんだ。それにやっぱり、僕も謝らなくちゃいけない。なのはは強くなりたがっていたのに、僕は上からの目線で意見を押し付けてしまったから。」
だから、僕が実は普段からそんな態度をとっていて、それがなのはの負担になっていたのかもしれない。
「だから、もしなのはが僕のことを少しでも重荷に感じるなら、僕は一人になってもいい。だから、またいつもの笑顔に戻って欲しい。」
それで、なのはの表情がまた暗くなる。う、何かまずいこと言っちゃったかな・・・?
「そんな・・・、そんな寂しいこと、言わないで。」
なのはが目の端に涙を浮かべている。ああ、僕はまた何かやってしまったんだな。
「一人になってもいいなんて・・・、そんな寂しいこと言わないで。重荷だなんて思わない!私はずっとアキラに助けられてるんだから・・・。」
「・・・ごめん。もう言わない。」
そうか。この子はとても優しくて強い子だ。誰かが一人だなんて、きっと許せないんだ。
これは僕の失言だ。反省しよう。
・・・でも、そうするとなのはは何故?
「ねえ、なのは。なのははなんで」
言葉はそこで切られてしまう。
「大変だよ二人とも!!『ジュエルシード』が近くで発動している!!」
戦いの始まりを意味する知らせによって。
そこには一足先に、大空さん・フェイト・アルフ組が到着していた。
「おう、遅かったじゃないか。」
旅館の浴衣姿のままの大空さんが、まるで街中で挨拶をするような調子で言った。ただしその胸元には既に『Cross Square』が浮いている。
フェイトは既にバリアジャケットになっている。臨戦態勢のようだ。
「ええ、ちょっと野暮用ありまして。」
「うん、知ってる。」
全くこの人は。焚き付けておいて。
「それで?」
というのはフェイトの言葉。それになのはが答える。
「う〜ん、仲直りできた、かな?」
えへへ、とちょっと照れた笑いをする。それを聞きフェイトも少し表情をやわらかくする。
「よかったね・・・。」
「・・・うん、ありがとう、フェイトちゃん。」
この少女らの間でも、何かあったのだろうか。
さて、世間話はここまでだ。
「それで?それを報告しにきたってわけじゃないだろ?」
「ええ、もちろん。」
僕は背中の閃光の剣を抜き放つ。なのはもレイジングハートを起動せんと構えている。
「条件はどうする?」
「もちろん、勝った方があの『ジュエルシード』を封印し、手に入れる。」
「それだけじゃなくて、互いが持っている『ジュエルシード』を一つずつかけるっていうのはどう?」
「・・・それでいいよ。絶対負けない!!」
緊張した空気が流れる。
そして――
「レイジングハート、セットアップ!!」
「来れ!!」
なのはがデバイスを起動し、僕がアーティファクトを召喚した。それが開幕の合図だった。
Side Daichi Ohzora
なのはちゃんが魔導士姿になり、アキラ君が前回出しかけたものを出した。
アキラ君の姿――その背に背負うものはまさしく『光の翼』だった。
俺はなんらかの能力があるものと警戒し、遠距離から荷電粒子砲を撃つ。
同時、フェイトちゃんも彼の回避行動を制限するかのように『フォトンランサー』を撃つ。
さらにその影に隠れて、アルフも突撃する。まさにここのところ続けている戦闘訓練の成果とも言えるコンビネーションだった。
だが、その瞬間に彼となのはちゃんの姿が掻き消えた。
!何てスピード!!
彼の速さはよく知っているが、今の彼はそれをさらに上回っていた。
何故なら、水増しされた俺の動体視力ですら、彼を捕らえきることができなかったのだから。
かろうじて見えた残像を元に、位置を推測し、そちらへ目を向ける。
だがそこにはなのはちゃんしかいなかった。・・・いくらなんでも速すぎるだろ!!
ガキンという音がフェイトちゃんの側から聞こえた。
そちらに目をやれば、かろうじてアキラ君の剣撃をバルディッシュで受け止めるフェイトちゃんがいた。
「フェイト!!」
アルフが急いで戻ってくるが、次の瞬間にはアキラ君の姿がまた掻き消えた。
あまりにも速い。まるで物理法則を無視しているかのような速さだ。
これが彼が隠していた奥の手か!!
恐らく、あの翼の能力。速度の強化か、あるいは自身の軽量化か。
緩急のつけかたが半端でないことから恐らく後者・・・!?
「くっ!!」
突然目の前に現れたアキラ君に、俺は全力で後退する。
考えを纏める時間すらくれないか!!
どん、と、背中に何かぶつかった。
それはフェイトちゃんの背中だった。アルフもすぐ近くにいる。
しまった、これは!!
「なのは!!」
「うん、『ディバイン・・・バスター』!!」
アキラ君の号令の下、なのはちゃんの持つレイジングハートから桃色の光線が放たれる!
「空ヲ飛ビ交ウ数多ノ」
間に合わない!!
視界を、桃色の光が埋め尽くした。
Side Nanoha Takamachi
私の全力の『ディバインバスター』が、まともに命中した。これの威力には自信がある。
「やった・・・かな?」
「いや、油断は禁物だ・・・。」
私の隣に戻ってきたアキラ君が、剣を構えたまま言う。
背中の翼――アキラ君は『あら・でぷるすみ』って言ってました。ここに来るまでの道すがら教えてもらいました。効果は教えてもらえなかったけど。
そのときのこの作戦――アキラ君が高速でかく乱して、一箇所にまとまったところを『ディバインバスター』で撃つというものを聞きました。
フェイトちゃんも凄く速いから、できるかな?と思っていたけど、いらない心配だったみたいです。
またちくりと、胸の奥が痛む。アキラ君とは仲直りできたはずなのに。
そう思っていると、突然雷が落ちました。その衝撃で砂煙が晴れる。
「おい、大丈夫か、アルフ!?」
そこには無事に立つ大地さんとフェイトちゃん、そして二人の前で息を切らせるアルフさんがいた。
大地さんの右手には、いつの間にか青い剣が握られていました。
「へ、へへ・・・、主人を守るのは、使い魔の勤め、ってね・・・。」
フラフラとゆれながら、アルフさんがしゃべる。あの一撃はアルフさんの身を呈した防御で防がれたみたいです。
「でも・・・、ちょいと、今のは、骨が折れたね・・・。やるじゃないか、チビっ子。」
アルフさんが感心したような、それでいて不敵な目を向ける。
「・・・助かったよ、アルフ。でももういい。休んでろ。」
「あんたに言われちゃ、断れないな・・・。そんかわし、うちのお姫様は、ちゃんと守ってくれよ。」
「当たり前だ。」
大地さんがそう言うと、アルフさんは笑ったまま気絶した。
「・・・アルフっ!!」
フェイトちゃんは悔しそうにつぶやいた。
「今のは驚いたぜ。でも、同じ手は二度は食わない。今ので俺たちをしとめられなかったのは、痛いんじゃないのか?」
大地さんが無表情にそう言いました。・・・何だか大地さん、怖いんだけど。
「そうでもありませんよ。無論、僕だって同じ手が何度も通用するとは思っていません。だから、これで決着がつかなかったときのこともちゃんと考えてありますよ。」
言って、アキラ君は剣をびっと、大地さんに向けました。
「僕はあなたに再戦を挑みます。フェイトはなのはが相手します。それで僕たちが勝つ。」
自信を揺るがせず、アキラ君は宣言しました。
「へ、そう上手くいくかね?」
「行かせますとも。」
剣を構え、前傾姿勢をとるアキラ君。
「(なのは、落ち着いて戦うんだ。フェイトは僕よりも遅い。僕に当てるつもりでやればきっと勝てる!!)」
アキラ君が小声で私に語りかける。私はそれに頷きました。
「では・・・、行きます!!」
アキラ君の姿が掻き消えるのと、フェイトちゃんが私に向かって飛んでくるのは同時でした。
私は飛行魔法を発動させ、フェイトちゃんを迎え撃つ。
――絶対に、負けない!!
Side Akira Jin-nai
僕の単純な斬撃を、流石に大空さんは天雷で受けた。
天雷はどちらかと言えば火力重視の剣のはず。つまり、この間のような罠はしかけられない。
仕掛けたとしても、二度も同じ手に引っかかる僕ではないが。
二合、三合と打ち合う。と同時に、火花が散る。
その火花が一つに集まり。
「貫け!『ロンギヌス』!!」
青い荷電粒子の槍と化す。だがそれが放たれる瞬間に僕は既に回避している。
天雷の攻撃ははっきり言って凶悪だ。ただでさえ強力な荷電粒子砲をさらに強化して、しかも何本も同時に撃てるのだ。
当たればアウトだ。だが、今の僕なら何無くかわせる。
僕が――全く本人たちの望まない『仮契約』の結果によって――得たアーティファクト。
その名を『守りの翼』という。
効果は単純明快な三つ。
一つは、名前どおり守りを少し強化する程度の能力。
一つは、翼の外見どおり少し空を飛べる程度の能力。
そしてもう一つ。これが僕の最大の強みをさらに活かしてくれる。
即ち、効果対象を軽量化する程度の能力。
どれもさして強力な効果であるわけではない。だが、それで十分だ。
僕は元々守りを必要としない。だから気休め程度で十分。
空を少し飛べる程度でも、地面から飛び立つ勢いで、いくらでも速くできる。方向転換程度で十分だ。
そして、僕の体が少しでも軽くなれば、元々速いのが致命的なまでに速くなる。
だから、彼の攻撃は絶対にあたりっこないのだ。仮に反応が遅れてかすったとしても、翼の防御に阻まれ届かない。
無論、だからといって油断するわけではない。前回はその油断でやられたのだ。
大空さんは戦士としても間違いなく一流の素質を持っている。おまけに学者としての器量もある。
どこから活路を見出されるかわかったものではない。
彼に休む暇を与えず、攻撃を加え続ける。彼が放つ『ロンギヌス』も、ことごとくよける。
そしてついに、彼が耐え切れずよろめく。
――勝機・・・!?
違和感を感じ、咄嗟に後ろに下がる。
そしてそれが正解だったと理解した。僕の立っていたところに、全方位からの射撃が行われたからだ。
僕が感じた違和感。それは、彼の無駄撃ちの多さと、視界に映った青い輝き。
今までの『ロンギヌス』全てが今の攻撃の布石だったのだ。やはりこの男、侮れない。
「ちぇ、今のは、行けると、思ったんだけどな。」
「ええ、今のは肝を冷やしました。けど、随分と息が上がってますね。」
「へ、そんなことは、ねぇぜ。俺はまだ、元気、BIN☆BIN、DAZE☆」
「言葉切れ切れの上に最後ローマ字で言われても説得力皆無ですが・・・そこまで言うならやりましょうか。」
僕は再び剣を構え、前傾姿勢をとる。大空さんも息を強制的に整えて迎え撃つ姿勢をとる。
そして――
Side Nanoha Takamachi
飛行魔法を発動させながら、さらに術式を組む。
『Divine Shooter.』
レイジングハートが輝き、4つの魔力スフィアが生み出される。
それら全てを制御し、こちらに飛んでくるフェイトちゃんめがけて撃ちだす。
当然フェイトちゃんは高速で回避する。けど、それは私もわかってる。
だから私は回避の瞬間をしっかり見て、シューターで回避経路をふさぐ。
フェイトちゃんは一瞬動きを止め、その瞬間にシューターを全弾フェイトちゃんめがけて動かす。
そして起こる爆光。
けれど、光が収まる頃には、そこにフェイトちゃんの姿はなかった。
「・・・強くなっているね。」
少し離れたところに目をやれば、そこにフェイトちゃんがいた。今の一瞬で何とか抜け出したようだ。
でも・・・当てられる!!
フェイトちゃんの動きは速くて、おまけに飛行魔法で立体的に動く。でも、アキラ君の方がずっと速い!!
たった一度の訓練だけど、私はそのアキラ君に当てることを目標に訓練した。その効果は大きい。
「レイジングハート!!」
『Divine Shooter.』
私は再びディバインスフィアを4つ作り出す。・・・少しめまいがしたけど、まだ大丈夫!!
「けど、私も前と同じじゃない。私も強くなっているんだ。」
『Photon Lancer.』
フェイトちゃんは私と同じように、金色の魔力スフィアを4つ作り出す。
同じ種類の魔法!?
「負けない!!」
「・・・こっちだって!!」
意思を言葉にし。
「シュ―――ト!!」
「ファイア!!」
私たちは魔法を撃ち合った。
シューターを打ち落とそうと、フェイトちゃんの作り出したスフィアから金色の矢が降り注ぐ。私は負けじとシューターにこめる魔力を高める。
そして、私はシューターを押し切り、直撃させる。
――やった!?
けど、またフェイトちゃんの姿はなかった。どこ!?
「同じ手段が何度も通用すると思うのは、戦場では致命的だよ。」
声は背後から聞こえた。後ろ!?
「レイジングハート!!」
『Flash Move.』
瞬間加速し、その場から離脱する。そして、私のいた場所をバルディッシュに展開された魔力の刃が切り裂いた。
「・・・今のをよくかわせたね。まさか高速移動魔法まで習得しているとは思わなかった。」
フェイトちゃんがバルディッシュを構えなおしながら言う。
――強い!!
やっぱりフェイトちゃんは強い。魔法がどうとかじゃなくて、戦闘経験という意味で。
この前まで普通の小学三年生だった私が、普通に考えたら勝てないほど。
それでも。
「私は負けられない、負けたくない!!」
負けじと、三度ディバインスフィアを生み出す。今度はその数8つ。
「シュート!!」
8つのスフィアを制御し、フェイトちゃんを攻撃する。
けど。
「負けられないのは、こっちだって同じだ!!」
そのスフィアの間を縫って、フェイトちゃんは迫ってきた。
その姿はまるで、あのときのアキラ君のようで――
「っうわあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
私は目の前が真っ赤になり、レイジングハートをフェイトちゃんに向け。
そこで私の記憶は途切れました。
Side Daichi Ohzora
突然、夜の帳を切り裂くような悲鳴が聞こえた。
この声は、なのはちゃん?
俺たちは攻防を繰り広げながら、既にもといた場所からかなり離れた場所にいた。
「!なのは!?」
アキラ君が驚いたように叫ぶ。けど、確かに今の叫びは尋常じゃなかった。何があったのだろうか。
「・・・大空さん。ここは一時休戦としましょう。」
「何でだ?」
俺の言葉に、アキラ君が驚いた瞳で見てくる。
「何でって、今のを聞いたでしょう!?あれは普通じゃない!すぐに駆けつけないと!!」
「でも、今の俺たちは戦闘中だ。まさか、君ほどのものが戦場にそんな甘さを持ち込むのか?」
ぐっと、何かをこらえるように歯を食いしばるアキラ君。
彼は戦場で生きてきたはずだ。だからそのことぐらいわかるだろう。けど、理解できるのと納得するのは違う。
アキラ君はわかっている、だけど認めることはできない。それがわかっているから、俺はあえてこんな言葉を使った。要するに力で勝てないから揺さぶりをかけているのだ。
自分でも汚いとは思う。でも、俺はフェイトちゃんの兄貴だ。負けるわけにはいかない。
そう思っていた。この瞬間までは。
「そうですか。なら、一瞬で決着をつけて向こうに向かうとしましょう。」
一切の感情を宿さない、本当の戦闘態勢に入ったアキラ君の一瞬怖気を覚えた。
そして俺が怯んだその一瞬で、アキラ君は俺の懐にもぐりこんでいた。
同時、理解した。――ああ、俺の負けか。
「閃空追技・豪風斬撃!!」
竜巻すらも生み出す高速回転の斬撃を受けて、俺は高空に巻き上げられた。
そして俺は、そこで意識を手放した。
――かっちょわりぃなぁ、俺。
自嘲の笑みを浮かべて。
Side Fate Testarossa
私は一瞬、何が起きたのかわからず呆然とした。
状況を整理しよう。
私が彼女の魔法を回避していたら、突然彼女が叫び、デバイスをこちらに構えた。
デバイスに魔力が集中していたところを考えると、最初の砲撃を撃とうとしたのだろう。
そしてその瞬間、彼女の生み出した魔力スフィアが消滅し、彼女は地面に落下していった。
恐らく、瞬間的な魔力切れを起こしたのだろう。
そしてそれを、隠れていた彼女の使い魔が慌てて防御魔法を展開し、受け止めたのだ。
わからない。明らかにあの一連の攻撃は彼女のキャパシティを、いや、私でさえオーバーする。それがわからないはずはないだろう。
なのに何故それを実行したのか。
「なのは、なのは!しっかりして!!」
彼女の使い魔が慌てているのを見て、私は降りていって彼女の傍らに立った。
「心配ない。多分ただの魔力切れだ。」
「・・・なのはっ!!」
使い魔が悔しそうに俯いた。
「私にも何が起こったのかはよくわからなかったけど、ここは私の勝ちだ。」
「・・・残念ながらそうみたいだ。『ジュエルシード』が欲しいなら持っていってくれ。だからなのはにこれ以上危害を加えないで!」
彼女を守るように立つ使い魔。うん、彼もいい使い魔だ。
「まだだよ。お兄ちゃんとアキラの戦いが終わっていない。」
あの二人の決着次第では、まだ戦いは終わらない。
私がそう言うのと、その場に一陣の疾風が現れるのとはほぼ同時だった。
アキラの肩にはお兄ちゃんが担がれている。
「・・・お兄ちゃん!」
「安心して。ただ衝撃波で気絶させただけだから。フェイト、なのはに怪我はないだろうな?」
冷たい瞳で、アキラが私を射抜く。思わず、私は怯んでしまう。けれど気を強くもって。
「怪我はないはず。ただ、魔力を使いすぎて魔力切れを起こしている。」
「・・・そうか。」
そう言うとアキラは、お兄ちゃんを肩から下ろし、剣を構える。
「君が勝ち残ったということは、僕と君で争わなきゃいけないということだ。僕は強いけど、それでもやる?」
怜悧な目がアキラの言葉が真実と証明している。
でも。
「たとえ負けるかもしれなくても、私にはやらなければいけない理由がある。」
そう宣言し、私はバルディッシュを構える。
「そうか・・・。」
同時に、アキラの全身から殺気が立ち上る。肌がチリチリする。今すぐにでもここから逃げ出したい。
でも、引かない!!
にらみ合いは少し続く。恐らく、動けば決着は一瞬だろう。その一瞬のために、緊張が高まっていくのがわかる。
一。
二。
三・・・!!
その瞬間私たちは弾かれるように動こうとして。
「ストップ。はいそこまで。」
場違いにのんきな声によって、遮られてしまった。
今のは・・・!?
Side Akira Jin-nai
その声は僕の頭上から聞こえた。
僕の頭には、ジエンがいるはず。でも、今の声はジエンじゃない。
そう、僕たちのリーダーで理不尽の塊。同時に、僕たちの『創造主の影』。
一体どうやってやってきたかわからない。でも言えることがある。
どうしようもないやつだけど、心強い仲間が来てくれた!!
ジエンがぴょんと、僕の頭から飛び降りる。
「ロベル・・・!!」
『ト』と続けられるはずの言葉は、飲み込まれてしまった。
だってそこにいたのは、ジエンでもロベルトでもなく、『生首』だったのだ。
それもなんて言うか、今すぐにでも『YSN!!!』とか言い出しそうな
「ゆっくりしていってね!!!」
てか言ったよ。
髪型は間違いなくロベルトだ。顔の印象もやつそのもの。でも中途半端にジエンと融合して丸っこくなっている。
正直キモい。
「な・・・、何かな、これは?」
フェイトも凄く微妙な表情で『ソレ』をさしている。
うん、気持ちは凄く良く分かるよ。でも僕に聞くな。
「これ、とは失礼な。俺の名前は『ロベルト東雲』。故あってこんな姿で登場してるけど、本当は長身・細身のナイスガイなんだZE☆」
ZE☆じゃねーよ。フェイトなんかもう目がぐるぐる回ってるし。
そしてそんなフェイトの頭の上に乗っかり(フェイトは「ひぅ!?」とか悲鳴上げてた)
「そんでおぜうちゃん、お名前は?」
「あ、えとその、フェイト=テスタロッサです。」
「ん〜、クールなお名前ね〜。うちのアキラをよろしくお願いしつつもゆっくりしていってね!!!」
「は、はぁ・・・。」
お前、久々の登場だからってテンション高すぎないか?
「それとねお嬢ちゃん、こいつと戦うには、君じゃちょーと早すぎるかな。冗談抜きで死ぬぜ?」
「え、死・・・?」
いきなりと言えばいきなりのワードに、フェイトが顔を少し青くする。
「しかも結構ひどいもんだぜ?良くて一刀両断、悪くて内側からボンッ!!最悪塵も残んねーよ。」
「う・・・。」
想像したのか、フェイトはちょっと気持ち悪そうに口元を押さえた。ていうかな、ロベルト。
「子供相手にそんなとんでもないこと言うな、この至高の馬鹿野郎!!」
実はこれが、僕がこの世界に来て初めて放った、僕らしい言葉だった。
Side Nanoha Takamachi
周りが何か騒がしくて目が覚めた。
あれ?何で私寝てるんだっけ・・・。確かフェイトちゃんと『ジュエルシード』をかけて戦っていて・・・!?
がばっと、私は跳ね起きた。
けど、目の前で繰り広げられている光景を見て、停止してしまいました。
フェイトちゃん、おろおろとしていて、さっきまで戦っていた子と同じ人間だとはとても思えない。
大地さん、ちょっと離れたところで横になっている。アキラ君、勝ったんだ。
アキラ君、何だか今まで見たこともないくらいくだけた様子で、何かと言い合っている。
そしてその何か。・・・私には『生首』にしか見えないんだけど。
「おう、えーっと『なのは』ちゃんだったっけ?も気づいたか。」
その『生首』は私が起きたのを確認すると、私に声をかけてきた。思わずびくっとした。
「ああ、おびえないでなのは。一応コレ、僕の仲間だから。」
「え、ぇえ?そうなの?」
生首さんがアキラ君の仲間だったなんてびっくりです。
「コレとか言うな!なのはちゃん、本当は俺もっとかっこいいからな、安心しろ!!」
「は、はぁ・・・。」
安心しろって言われても・・・。
「あ、申し送れました。私『ロベルト東雲』と申します。アキラの保護者やってます。以後よろしく。」
「あ、ご、ご丁寧にどうも。高町なのはです。」
器用にぺこりとお辞儀するロベルトさんにつられて、私も正座でお辞儀しました。
「何が保護者だ。どっちかと言うと僕たちの方がお前の保護者だろーが。」
アキラ君がロベルトさんに遠慮なしに言葉を放つ。
そっか、アキラ君は仲間の前だとこんなしゃべり方もするんだね。
不意に、胸のうちがずきりと痛んだ。
そしてその瞬間、ロベルトさんの目がぎらりと輝きました。
「んん〜?なのはちゃんの方からそこはかとなく『うぶ』な『らぶ』臭がするな〜。」
「へぇえ!?」
「洒落か!!」
ロベルトさんがにやにやと笑いながらそんなことを言ったので、私は変な声が出てしまいました。アキラ君は何か突っ込んでたけど。
「照れるな照れるな〜☆いや〜初恋か〜、いいね〜。」
「ち、違います、違いますってば!!」
「適当なこと言うな、馬鹿!!」
私は真っ赤になって否定する。
「馬鹿でも適当でもねーよ。俺の直感が鋭いのは、お前もよく知ってんだろ?」
「う、そ、それはそうだけど・・・。」
アキラ君の勢いがちょっと弱まる。そしてすぐに、まるでお兄ちゃんみたいに目が細くなる。
「・・・そうか、なのはに好きな人がいるのか。どこの馬の骨かは知らないけれど、そう簡単に認めてもらえると思うなよ。」
発言までお兄ちゃんっぽいです!!
そんなアキラ君を見て、ロベルトさんはふぅっとため息をつきました。
「何言ってんだか。ニブチンは罪だぞ?なのはちゃんが好きなのは――」
このとき、私はロベルトさんを止めるべきだった。なのに、この状況のあまりの変化の早さについていけず
「お前だよ、アキラ。」
決定的な言葉を言わせてしまいました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
『え?』
私とアキラ君の声がハモる。
ロベルトさんはなんて言った?
私が→アキラ君のことを→好き。
その言葉が私に浸透した瞬間。
ボン!!
「な、なのは!?」
私は自分でもわかるぐらい顔を真っ赤にしていました。
「う、あ、ぁう・・・。」
言葉が上手くでない。何か、何か言わなきゃ・・・。
「な、なのは・・・、それ、本当なの?」
顔を朱に染めたアキラ君が私に声をかけました。
そして、それが私の限界でした。
「うわあああああん!!」
『Flash Move.』
私は高速移動魔法を使って、その場を全力で逃げ出しました。
「て、なのは!?普通こういう状況で魔法使う!?」
アキラ君が何か叫んでいたけど、私の耳にはもう届きませんでした。
Side Daichi Ohzora
・・・実はちょっと前から目が覚めてたんだが。
何故かは知らないけどジサクジエンに憑依?だかなんだかをして、『創造主の影』の『生首』がいた。
それが騒ぎを起こしていて、俺は起きるに起きれなかった。
そしてしばらく騒いだ後、やつはNGワードを言いやがった。
「なのはちゃんが好きなのは――お前だよ、アキラ。」
――ばっ!?
心の中で叫んだが時既に遅し。
沈黙の後なのはちゃんは顔を真っ赤にして、高速移動魔法まで使って走り去ってしまった。
「なのは、待ってよ!!僕の話を聞いてくれー!!」
「ちょ、ちょっと二人とも!?『ジュエルシード』はどうすんのさー!!?」
そしてその後を追って、走り去るアキラとユーノ。
後に残されるのは呆然と立つフェイトちゃん、あれ?と呆けた顔をする『生首』、そして地面に横たわっている俺。
「え〜っと・・・、ひょっとして俺、KYでした?」
「当たり前だ、この馬鹿。」
俺は体を起こしながら『創造主の影』――ロベルトに悪態をついた。
「お兄ちゃん!大丈夫?」
「ああ、俺は平気。アキラ君、なんだかんだで手加減して撃ってくれたからな。」
体のあちこちが痛いけどな。
「それよりもだ。ロベルト、お前突然現れたと思ったら何色々かき乱してくれてんだ?てかお前に聞きたいことは山ほどあるんだよ。」
「あーうんわかったわかったから。だからこんなぷりちーでか弱い状態の俺に『グングニル』とかマジやめてね?」
何を言っている。お前相手だったら『ラグナロク』3連でもまだ足りんわ。
「・・・まあ、それは後にしておいてやる。」
「あれ、やっちゃうんですか!?」
「今は『ジュエルシード』の封印の方が先決だ。」
「無視ですか、わかります。」
ロベルトは全力で無視しつつ、俺はいまだ呆け気味のフェイトちゃんに声をかける。
俺の声でフェイトちゃんは、現実に帰って来た。
そして。
「『ジュエルシード』シリアル][・・・封印!!」
『Sealing.』
フェイトちゃんの封印作業が滞りなく完了する。
これで『ジュエルシード』は3つ・・・。
あ、そういえば。
「結局、どっちの勝ちになったんだ?『ジュエルシード』かけてたと思ったんだけど。」
「えっと、私とアキラが戦う前に・・・その人?・・・が現れて、うやむやになっちゃったから・・・。」
引き分けってことでいいかな?
「じゃ、それは今回はなしだな。・・・さて、夜ももう遅いし、アルフ起こして旅館戻ろうか。」
そう言うと、フェイトちゃんは頷いてアルフのところへ言った。
さてと、それじゃ俺は・・・。
「お前はどうすんの、『創造主の影』。」
「そうだな・・・。とりあえず、やっと『アクセス』できたんだから、アキラに現状を伝えたかったんだが、これじゃ無理だよな。」
「主にお前のせいでな。」
「たは〜、それ言われると痛いな。ま、それはお前に言っておくよ。その気があったらお前が伝えてくれ。」
「なんだ、やっぱり行動時間に制限とかがあるのか?」
「ああ、非戦闘状態だったらそれなりに長くも可能だけど、力を行使するとなるとかなり限られるな。
何せ『本体』の監視を上手くごまかしてる感じだから。」
「つまり、この俺たちの一件には『本体』が・・・『創造主』が絡んでいて、お前には権限がないってこと?」
「そういうことだな。それでも何とか、ある程度わかったこともある。それを今から伝える。」
そして俺は、現状を説明された。
「・・・全く、お前『たち』は一体何を考えてるんだ。」
「はは、サーセン。でもこればっかりはどうしようもねぇよ。俺『たち』の性分だからな。」
「ああ、そのあたりは完全に諦めてるよ。しかし、『創造主』の企み、か。またスケールの大きな話になってきたな。」
「さて、『本体』はこの広げすぎた風呂敷を、どう包むのかねぇ。」
『自分』のことだろうに。
「じゃあ、そろそろこの体ジエンに返すか。悪ぃんだけど、ジエンをアキラのとこまで運んでやってくんないかな?」
「ああ、そんぐらいなら頼まれてやるよ。」
「サンキュな。」
そう言って、『創造主の影』の面影は消え、元のジサクジエンへと戻った。
「ダイーチ、タノンダ!!」
ジエンはそう言うや否や、俺の頭の上に乗っかった。
「お前は無邪気でいいねぇ。」
俺はついつい苦笑が漏れた。
その後、俺はフェイトちゃんとアルフにジエンを紹介し、旅館へと戻っていった。
ちなみに。
「なのは、待ってってば〜!!」
「う、うわあああん、来ないでえええ!!」
なのはちゃんとアキラ君は一晩中追いかけっこを続けていたそうだ。
・・・若いっていいねえ。
鬱展開に耐え切れずやった。今も反省はしていない。
補足事項
アキラのアーティファクトについて
名前:和名・守りの翼、ラテン語名・Ala Depulsumi(アラ・デプルスミ)
効果:1.軽度の物理干渉壁になる程度の能力、2.空中で少し浮遊する・方向転換する程度の能力、3.効果対象を軽量化する程度の能力
ちなみに、『〜程度の能力』という説明は東方Projectを意識している。
TOPに戻る