2008/10/24
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最早小ネタぢゃねえ。
藍蘭島には、標高3000m級の山が存在する。
その頂上部は一年を通して雪に覆われている極寒の世界であり、そこには一人の雪女が住んでいる。
それがみちるの母『つらら』であり、その山は藍蘭島の住人の祖国の象徴たる山の名を取り『富士山』と呼ばれている。
「う〜ん、今日もいい天気♪」
その日の朝、つららは起きると大きく伸びをした。ちなみに、絶賛大吹雪中である。
こういった気候は雪女にはいい天気なのだ。当然であるが、逆に晴れているときは天気が悪いと形容する。
「そういえば、この間のスバルクンのお友達が来たって言ってたわね。どんな子かしら。」
つららは既にスバルと面識がある。というのも、狩り物競争の翌日みちるの修行のために行人を小雪にさらわせたとき、彼もみちるとともにやってきたからだ。
ちなみにつららから見たスバルの評価は「ちょっと元気がありすぎる男の子」だ。
「うーん、彼ももうちょっと落ち着きがあったらいい男になると思うんだけどなー。」
そしたらみちるちゃんもうはうはね♪などと小躍りするつらら。歳若い外見の通り、彼女の精神も子供っぽいのだ。
ちなみにつらら、みちるが行人かスバルどちらかをゲットできたら、自分も混ぜてもらおうなどと考えている。
彼らが島に流れ着いてから、つららは先のことが楽しみで仕方がないのだ。
つららがそんな風に上機嫌で小躍りしていると。
「・・・あら?」
ふいに、妙な力の波動を感じたのだ。そしてそれが真実であることを示すかのように、富士山の頂上で光があふれていた。
「何かしら?」
つららはそれが何かを確認するために、頂上へと向かった。
頂上に着くと、発光はまさにピークを迎えていた。その光に、思わずつららは目を瞑った。
やがて光が収まり、つららは恐る恐る目を開けた。
そこには。
「ここは・・・どこだ?」
赤い騎士が立っていた。
つららはその騎士に戦慄を覚えた。幼い外見とは言え、強力な妖力を持っているはずの彼女が、恐怖を感じたのである。
何故ならその騎士から感じられる力――妖力とも霊力とも違く感じられるその力は、つららの妖力など塵に等しいほど大きかったから。
そのために、普段はおっとりとしているはずの彼女が表情を引き締め、警戒したのは無理もないこと。
「あなたは何者!?」
つららはいつでも氷塊を発射できる体勢をとり、赤い騎士に誰何の声をかける。
それで、騎士もつららの存在に気づいたようである。
「ふむ、人外の者のようだな。察するに雪女――か。やれやれ、世界に召喚されたと思ったら、いきなり幻想種か。」
「こちらの問いに答えなさい!!」
つららは怖気を感じる全身に激を入れるように、再び声を上げた。
「私の方も君に聞きたいことがいくつかあるのだが・・・いいだろう、まずはこちらから答えるのが道理というものだ。」
そう言って、騎士は油断なく告げた。
「私の名は衛宮士郎。人は私を錬鉄の騎士と呼ぶ。」
この日、藍蘭島に『鍛鉄の英霊』エミヤが召喚された。
お題:スバルとシャドウゼロのいる藍蘭島に英霊エミヤが召喚されたようです
ぃやっふぅぅぅぅううう!!It’s me,スーバルー!!
いやー、今日もいい天気だぜ!!こいつは絶好の畑日和だぜ!!ところで畑日和ってなんだ!?
おっといけねえ、出だしだからってテンション上げすぎたぜ。これじゃあ皆ついてこれないな。
「大丈夫・・・、ボクがついていくから・・・。」
おお、そっかそっか!!でもシャドウゼロ、お前テンション低いのについてこれんのか?
シャドウゼロ――俺の仲間でカデナと契約した闇の精霊だ。称号は暗黒眼。
俺を探してこの藍蘭島まで来てくれて、結局そのままとどまることになって早1日。こいつはどこでもテンション変わらねーな。
何か知らんけど、やたらにゆきののことを敵視してるし。俺としてはこいつはもうちょい友達作った方がいいと思うんだけどな。主に俺のために。
だってこいつ暴走すると俺に被害集中すんだもん。そう思ってもしょうがねえだろ?
ちなみにゆきのだが、くまくまを盾にしてシャドウゼロから距離をとっている。まあ、ビビるのも仕方ないけど。
けど、そろそろ仕事だからそんなんじゃ困るぞ?
「おーっす、りん、ちかげ。」
「お、スバル、くまくま、ゆきの、シャドウゼロ。」
「おはようございますですの。」
先にいたりんとちかげに挨拶する俺。ゆきのは相変わらずくまくまの影に隠れてて挨拶しないし、そもそもシャドウゼロは人に話したりしない。
お前らな、挨拶ぐらいしようぜ?
「いいっていいって、スバル。あたいは気にしないからさ。」
「シャドウゼロさんが挨拶したくなったらしてくれれば、それでいいんですの。」
悪いな、手間かけるぜ。
俺達の今日の仕事は山菜調達だ。キノコとかがうめーらしいんだわ。
ちまちました仕事は性に合わないけど、自給自足が大原則だ。やることはやらんとな。
「おーい、ゆきのー。これって毒?毒じゃない?」
俺はゆきのを呼んで、今とったキノコが毒なのかそうじゃないのか聞こうとしたが、ゆきのは相も変わらずくまくまの影に隠れてた。
「・・・ったく。」
俺はくまくまの後ろに手を伸ばし、ひょいとゆきのを持ち上げた。
「うわっ!?ちょ、ちょっとスバル離してー!?」
「お前はちょっとビビり過ぎだって。シャドウゼロだって別にお前をとって食ったりはしないって。」
「で、でもあの目は本気だったよー!?」
む、確かに・・・。そいつは否めない。
あいつは俺に誰かが近づくと、そいつの息の根を止めることでそれを阻止しようとする。まあ、毎回止めるの俺なんだけどな。
多分だけど、自分のおもちゃを取られるのを嫌がってるんだろうな。全くこっちの身にもなれっての。
んで、今回はそれがゆきのに向いちまったってわけだ。
いくらたくましい藍蘭島の住人だっつっても、あんな殺気をぶつけられたらびびっちまうのも仕方ないのかもしれない。
だけどよ。
「俺があいつにそんなことさせないから、ゆきのはもっと堂々としてろよ。そんなんじゃ俺も調子狂っちまう。」
ゆきのはやっぱり元気一杯で笑顔じゃなきゃ、ゆきのらしくねーよ。
「スバル・・・。うん、わかった。それじゃあスバル、ちゃんとゆきののこと守ってよね!!」
「ああ、そいつは保証するぜ!!」
俺は握りこぶしを作る。ゆきのもそれを見て、握りこぶしを作り、軽くぶつけ合う。契約成立だ。
「んで、俺が聞きたかったのはこいつが毒がどうかっておわ!?キノコがつぶれてる!!」
「強く握りすぎだよ!!あ〜、まつたけが・・・。」
何!?まつたけだったのか!!?YouはShock!!
「ぇえ〜い、気をとりなおして、次行くぞ次!!」
「りょうか〜い!!」
ぐる〜!!
そして俺達は山菜狩りを再開した。
(ゆきの・・・いつか滅ぼす・・・!!)
その影で、シャドウゼロがゆきのをめっちゃにらんでたけどな。
全く、仲良くしろよお前ら。
そしてしばらく毒キノコと奮闘していると。
「あれ?まち姉ぇ。」
ゆきのがそんなことを言った。そちらを見てみれば、確かにまちだ。
「まち、どうしたんだこんなところで。」
「あら、ゆきの、スバル。それとシャドウゼロも。」
「珍しいね、まち姉ぇがこんなところに来るなんて。」
聞いた話では、まちは仕事をしない怠け者ということで有名だからな。
「ちょうどいいわ。スバル、一緒に来なさい。」
「お、おいなんだよ??」
俺は有無を言わさずまちに引っ張られていった。その後ろからあわててゆきのとくまくま、怒気をはらんでシャドウゼロが着いてくる。
「何かあったのかよ?随分慌ててるみたいだけど。」
俺の言葉の通り、まちの歩みはかなり速かった。そして普段出歩かないまちがこうして出歩いている。
どう考えたって厄介ごとだ。
「道すがら説明するわ。行人様とすずとしのぶをあやねに呼びに行かせてるから、合流してからね。」
まちはそう言ったので、俺は黙ってついていくことにした。
そして、行人達と合流する。場所は富士山に続く大きな道。
「で、何なのか説明してくれよ。」
その辺であやねがのた打ち回ってるが気にしない。行人に不埒な真似をしようとしてあやねにお仕置きされただけだ。
「そうね・・・行人様は信じない類の話なんだけど。」
ああ、なるほどね。行人は重度の非オカルト派だ。つまり、そういう系統の話ってことか。
「OK。シャドウゼロ、行人が何か口挟もうとしたらのしていいから。」
「ちょ、ちょっとスバル!?」
抗議の声を上げたが、シャドウゼロはこっくりと頷いた。他のやつが言うことはほとんど聞かないくせに、俺の言葉には素直に従うんだよな、こいつ。
何でかね?
「で、何があったんだ。」
そう聞くと、まちが表情を険しくした。
「実は今朝方、富士山の頂上の方で、とてつもない力を感じたのよ。それも妖力でも、まして霊力でもない力を。」
そいつは、確かに事件だな。っと、ちょっと待てよ?
「シャドウゼロ、お前も何か感じなかったのか?」
俺が聞くと、シャドウゼロは
「膨大な魔力を感知した・・・。けど、どうでもいいと思ったから・・・。」
ああそうですね。お前はそんなやつですよ。
しかし、魔力か。
「そうなると、そいつは精霊か魔導士か・・・。ともかく、まともなやつの仕業じゃないのは確かだな。」
俺の言葉に、まちはこっくりと頷いた。
「だから、こうして調べにきたの。ひょっとしたら危険があるかもしれないから、皆を呼んだのよ。」
「ちょ、ちょっと待って!まち姉ぇが助っ人を必要とするぐらいなの!?」
すずが驚いたように聞いたが、まちはやはり眠たげな瞳で。
「言ったでしょ?とてつもない力だったのよ。」
だが、十分過ぎる緊張感を持った声でそう言った。思わず、絶句する行人・シャドウゼロ以外の一同。
まちの実力は先刻承知だ。確かに、まちにはこの藍蘭島屈指の実力がある。それほど優秀な式神使いだ。
そのまちが助っ人を頼まなければいけないほどの力の持ち主。
皆が驚愕し言葉を失うのも無理からぬことだ。
だけど、俺のそれは意味が少し違う。
「・・・そうか、面白ぇじゃねえか。」
口の端を笑みにゆがめながら、俺はつぶやいた。そしてまちはため息をつきながら。
「あなたならそう言うと思ったのよ。」
そんなことを言った。
「ほう、面白そうな話をしているな。私にも聞かせてくれないか?」
突然、富士山の方からそんな声が聞こえ、俺は咄嗟に身構えた。
そこには、白髪の赤い騎士がいた。
interrude - Side Shiro Emiya
山から下りるのに少し時間がかかってしまった。あの雪女は、気を失う直前に私を氷の檻に閉じ込めた。
干将・莫耶では破壊は不可能だった。かと言って偽・螺旋剣ではこちらにまで被害が及ぶ。
結局、少々魔力消費は大きかったが害をなす魔法の杖を使って檻を溶かした。
――しかしあの雪女、最後まで私の話を信じてくれなかったな。
私は雪女に問われ、私が何者か、何故ここにいるのかなどを話した。
私は鍛鉄の英霊・エミヤ。英霊とは生前功績をなし英雄と呼ばれ、その死後を世界に預けた者の事。平たく言えば死者だ。
何故ここにいるのかはわからない。だが、誰かに呼ばれたのではなく世界によって召喚されたのだということはわかる。
そして、世界に召喚されるということは、何か世界滅亡の危機が迫っているということ。その抑止力として、英霊は召喚されるのだ。
――その滅亡の原因を滅ぼすことによって、世界は滅亡を逃れるのだ。
そのこと全てを、雪女に話した。そして対価としてここがどこかを教えてもらった。
ここは藍蘭島という孤島。島の外とは一切の交流はなく、この島の主『海龍様』の気による結界で守られた、閉じた世界。
何故こんな場所に召喚されたのかはわからなかったが、山を降りてくる途中にあたりを見て、それが真実であることを確認した。
そして、その話を聞きだした直後、雪女は私に襲いかかってきた。
『あの子達のところへは行かせない。世界の滅亡が迫ってるなんて嘘だ。』
そう言って聞かなかった。やむなく私は、彼女を気絶させた。
彼女は恐らく人間に害なす存在ではなかったのだろう。故に、私が傷つける理由はなかった。
だが、結果的に傷つけてしまったという事実は良心が痛む。同時に、些末事と割り切るだけの磨耗も、私はしている。
所詮この身は天秤の守り手。しがない掃除屋に過ぎない。
ともかく、私はことを成すべく山を降りた。そして彼らに出会った。
まだ幼いといってもいい、少年少女たち。だが、何人かは明らかに既に達人の域を超えている者がいる。
特筆すべきはツンツン頭の少年と、少女達の中でも小さい巫女姿の少女。
少年は間違いなく戦士だろう。背負っている剣の大きさ、彼の体の動き。間違いなく天賦の才を持ち、磨き上げた者だ。
少女は魔術師か。いや、そもそもこんな孤島に魔術師という概念が存在するかどうかは怪しいが、恐らくはそれに類するものだろう。
彼女からあふれる魔力のようなもの――霊力とでも形容すればいいだろう、それはかつて愛した『あの人』に勝るとも劣らぬ力だった。
後は明らかに人外であると分かる銀髪の少女。気配は吸血鬼の真祖に近いが、どこか違う。
そして彼らは何事か話し合っていた。その内容は、明らかに私に関することだ。
私は彼らに近づいた。そして、単純な好奇心からか、それとも危惧からか。
「ほう、面白そうな話をしているな。私にも聞かせてくれないか?」
私は彼らに声をかけていた。
interrude - out
そいつは変な格好をしていた。
見た目若い感じだが、真っ白な髪をしている。肌の色は褐色。
黒い甲冑のような服の上に赤い外套を羽織っている。
何よりも重要なのは、そいつが『男』だということだ。
この島に、男は俺と行人しかいない。つまりこいつは外部から流れ着いた人間、と考えるのが妥当だ。普通なら。
だけどこいつは今富士山から降りてきたと思われる。もし島に流れ着いた『人間』であったとしたら、果たしてそんなことがあるだろうか?
答えは否。つまりこいつは、シャドウゼロと同じく人間の姿をした何者か。
「誰だてめえは!!」
剣を一瞬で抜き放ち、俺は叫んだ。するとそいつはくくくっと笑いやがった。何がおかしいってんだ。
「やれやれ、今日は同じような質問をされるな。その問いに答える代わりと言ってはなんだが、そちらもこちらの質問に答えてくれないか?
それと、人にものを尋ねるのに剣を向けるというのは、礼儀に反するとは思わんかね?小さな剣士よ。」
嫌味ったらしい笑みを浮かべながらんなことのたまいやがった。畜生、やなやつだなこいつ!!
俺はそれを受けて剣をおろす。
「(まち、今朝方感じた力ってのはこいつか?)」
小さな声で、俺はまちにたずねた。
「(わからない。今感じられる力はあの時とは比べ物にならないくらい小さいから。ひょっとしたら抑えてるのかもしれないけど。)」
そう返ってきた。
「(シャドウゼロ?)」
「(右に同じ・・・。)」
こちらも似たような答え。そうか。
けど、俺はそれはこいつだったんじゃないかって思う。だってこいつの立ち居振る舞いがおかしすぎる。
こいつは間違いなく、半端なく強い。ただ立ってるだけなのに隙が全くないし、何ていうか鍛え抜かれた者特有の雰囲気を纏ってる。
そう、ちょうどあの冷血爆炎剣士みたいに。
「いいぜ、答えてやるよ。そんかわし、そっちもちゃんと答えろよ。」
「いいだろう。この身にかけて、答えを偽るようなことはせぬよ。」
「じゃあ、さっきスバルが聞いたけど、あなたは何者?」
まちが問う。っていきなり割って入ってくるなよ。
「ふむ、どう答えたらいいものやら。事実をありのままに伝えても理解されないことは前例があるからな。今は名を名乗っておくにとどめよう。
私の名は衛宮士郎だ。」
エミヤシロー、か。変わった名前だけど、別段異常というわけでもないな。
それよりも、こいつの言葉が気になるな。『事実をありのままに伝えても理解されない』か。
まちも今はこれ以上聞く気はないみたいだし、俺も黙っておこう。
「次はこちらの番だな。この島に魔術、聖杯、あるいは世界を滅ぼせるだけの技術はあるか?」
魔術は分かるとして、聖杯?なんじゃそりゃ。しかもいきなり物騒な話だな。
「ないわね。式神使いや妖怪はいるけど、魔術なんてものは知らないし聖杯ってなんのこと?世界を滅ぼせる技術なんてもってのほかね。」
ふむ、とやつは考え始めた。求めていた答えが返ってきたわけでもなかろうに、別段気にした様子もない。
本当に一体何なんだこいつは?
「じゃあ、次はこちらの番ね。あなたは何故ここにいるの?」
「それは私にもわからない。召喚されたはいいが何をするために呼び出されたかわからなくてね、途方に暮れていたところだ?」
召喚だと?
「ちょっと待って、どういうこと?」
「質問は一つずつのはずだ。今度はこちらの番だ。」
「・・・わかったわ。」
まちが虫の好かないような顔をしてるが、俺にはよくわかるぜ。こいつはなんか人を小ばかにした態度を取りやがる。
「それでは、世界を滅ぼす、などと大きくなくていい。人の持つ力にしては大きな力を持ってる者を知らないか?」
うわ、答えにくい質問だな。この島ってそんなやつらが多いぞ?
「さっきも言ったけど、この島には式神使い、式神、妖怪っていうものがたくさんいるわ。
どこからどこまでが人の持つ力っていうのかはわからないけど、そういう意味ではたくさんいるでしょうね。」
「・・・信じられない、いや、信じたくない話だな。」
軽く頭を抱えて諦念ともとれるため息を吐くシロー。まあ、わかるぜその気持ち。
「でも事実よ。さて、次はこちらの番ね。さっき召喚って言ったけど、あなたは誰かに呼び出されたの?そもそもあなたは人間?」
まちが最も聞きたかったことをぶつけた。
だが、シローはまるで動じもせずに。
「召喚者はいなかった。恐らく世界による召喚だったのだろう。私が人間かという問いだが、答えはNo――『いいえ』だ。」
そう答えた。
「人間でなければ、あなたは何?精霊?式神?妖怪?」
「精霊、という言葉が一番近いだろう。私は英霊。生前に功を成し死後を世界に預けたもの。」
やつの言葉は、どこか自嘲の響きを含んでいた。
けど、英霊だと?何だそりゃ?
英雄に近い言葉だと思うけど、聞いたこともない。
「つまりあなたは幽霊ということ?」
「ただの幽霊ではないな。人々の信仰、そして世界の持つ膨大な力によって精霊まで格上げされたものと考えてくれ。」
なるほど、よくわからないが、シャドウゼロみたいな精霊と考えることにしよう。
と思っていたら。
「だぁー!さっきから黙って聞いてれば魔術とか精霊とか!!」
行人がキレた。まあ、こいつにゃ理解不能な話だからなぁ・・・。
「そんな非科学的なものこの世に存在しへぶぅ!?」
ヒートする行人の顔面に『撲殺黒棍棒』が突き刺さった。あ、そういやシャドウゼロに「騒いだら黙らしとけ」って言ってたっけ。
シャドウゼロは無言でサムズアップしてた。う、うん、グッジョブ、かな?
突然、シローが強力な『魔力』を放ち始め、俺は身構えた。
っつうか・・・何だこの『馬鹿魔力』!?
「私は人外の存在には寛容な方だが・・・、君が人に害なす人外である以上、存在を許しておくわけにはいかない。」
その視線は全てシャドウゼロに向けられている。シャドウゼロも珍しく驚いた顔をしている。
そりゃそうだ。こんな魔力、あっていいはずがねぇ・・・!!カデナ以上じゃねえか!!
やつはいつの間にか白と黒の短剣を取り出していて、シャドウゼロに向かって行った。
「シャドウゼロ!!」
俺は思わず叫んだが。
「大丈夫・・・。ダークスフィア。」
シャドウゼロは素早く闇の球状結界を作り出し、シローを閉じ込めた。
相手に耐性がなければ消滅させてしまうほどの術だが、シローならそこまでは至らないだろうし、何より仕方がない。
あれは本気で殺す目だった。
そう思っていたが、俺は信じられないものを見た。
闇の結界の内側から、白の短剣が伸びていたのだ。そしてそれが一薙ぎされ、結界は切り裂かれてしまう。
中から無傷のシローが躍り出てきた。そしてシャドウゼロに向かって切りかかってきた!!
が、それは間一髪で俺が間に合い、攻撃を防いだ。
もしシャドウゼロが闇球唱を唱えなかったら間に合わなかった・・・!!
「何故邪魔をする、少年。」
心底疑問の表情でシローが聞いてきた。
何故かって?んなもん決まってんだろ!!
「こいつは俺の仲間だ。仲間が殺されそうになってんなら、止めに入って当然だろ?あとな・・・。」
俺は大剣を振るい、シローは後ろに飛び退いた。そして剣を向けて宣言してやった。
「俺の名前はスバル=スカイバーグだ!覚えとけ馬鹿野郎!!」
同時に、まちが符を構え、あやねとすずが身構え、しのぶが木刀を構える。行人は相変わらず伸びてたが。
非戦闘要員のゆきのは既に隠れている。
さあ、戦闘開始だ!!
interrude - Side Shiro Emiya
驚いた。何に驚いたかというと、それは今私が切りかかった少女ではない。少年の方だ。
強者であるということはわかっていたが、それでも今のに反応しきれるとは。
私は今、間違いなく殺すつもりで攻撃をしかけたのに、少年はそれを裁ききったのだ。
たとえ私の使う剣が才能なき者が努力の果てに行き着いたものでも、英雄となるに至った剣だ。年端の行かぬ少年が防げていいものではない。
もしかしたら、この少年が存在するがために私は呼ばれたのかもしれない。
「参る!!」
木刀を構えた少女が私に向かってきた。構えは素人そのものだが・・・素早い!
木刀の一撃を干将の腹で防ぎ、莫耶の峰で当身を食らわそうとしたが、一瞬の後には私の攻撃圏内から離れていた。
「てるてるまっちょ!!」
今度は巫女の少女が精霊――式神を召喚する。てるてるまっちょとはよく言ったものだ。頭はてるてる坊主、体は筋肉質な式神だった。
「ういうい〜!!」
そしてそれは私に無骨な腕を振り下ろしてきた。だが、当然のこととして私はよける。
その先に、いつの間に回りこんだか術者の少女がいた。
「もらった!!」
少女は私の懐に潜り込むと腕を絡め取った。合気道、いや合気柔術か。
だが、私はさまざまな武芸を知っている。当然、その中には合気柔術も存在する。
流派によりその型は様々だが、共通する部分も必ず存在する。だから私には対処できる。
「なっ!?」
絡め取ったはずの腕をあっさり外され、少女は驚きの表情を見せた。余程の自信があったようだ。
確かに今の動きはなかなか素晴らしかったが、錬度が足りない。
「その程度の速さではな。」
私は干将の峰をその首筋に
「させないよ!!」
「ちょっとすず何すんのよおおおおおお!?」
叩きつけて気絶させようとしたところで、青い服の少女がもう一人の巫女を投げつけてきた。
予想外の攻撃に一瞬驚いた。そしてその隙に術者の少女には逃げられてしまった。
が、私は落ち着いて動き、飛び来る少女に当身を食らわす。これで一人。
「油断大敵だぜ。」
と、まさにその瞬間を狙っていたのか、少年がいつの間にか私を攻撃圏内に入れていた。
大剣を下から上へ振るい、その間合いを生かして私の間合いの外から莫耶を弾く。
「そいつ一本じゃこれは防げねえだろ!!」
そして、そのまま上から下へ叩きつけるように剣を振り下ろした。確かに、一本では無理だろう。
だったら、二本で防げばいい。
「・・・んだと!?」
決まった、と思ったのだろう。少年がありえないという表情をしている。
私の手の中には、弾いたはずの莫耶が存在している。だからだろう。
少年は剣に思い切り体重をかけ、後ろに飛んだ。いい判断力だ。
「てめえ・・・、今何をしやがった?」
「戦闘中に敵に手の内を教えるものがいると思うか?・・・だがまあ、少しだけ教えてやろう。私は幾つでも今の剣を取り出せる。武器を弾いたからといって安心しないことだな。」
教えることには当然意味がある。これで彼らは干将・莫耶に意識が行った。これから先、干将・莫耶に注意しながら戦ってくることだろう。
そうすれば、たとえば弓が出てきたりした場合、虚を突かれ対処が遅れることになる。それは戦場では致命的な遅れだ。
相手の動きを誘導し、自分に有利なように戦況を操作する。それが私、英霊エミヤの闘い方だ。
彼らを子供と侮る気はない。紛れもなく、彼らは強者だ。だから私は、全力を持って勝ちに行く。
「さて、そちらは一人減ってしまったが、まだ続ける気か?」
揺さぶりをかけることも、立派な戦術の一つだ。
だが、今度は私が驚く番だったようだ。
「いたたた・・・。すず!あとで覚えてらっしゃい!!」
「ご、ごめんあやね。まち姉ぇ助けるためについ・・・。」
「あやねは頑丈さがとりえだから平気でしょ。」
私が気絶させたはずの巫女は、気絶していなかった。あれは間違いなく昏倒する一撃だったはずなのに。
「へ・・・、さっきの言葉そっくりそのまま返すぜ。あやねの頑丈さは島一番なんだ。のしたと思って安心しない方が身のためだぜ。」
「ちょっとスバル!乙女に対してその評価はないでしょ!!」
少年は少女を無視した。
・・・なるほど、まだ戦力を見誤っていたか。戦力情報修正。
だが、私は負けない。幾度の戦場を越えて不敗。それが私だからだ。
interrude - out
こいつ・・・マジで強ぇ!!
あの剣も厄介だけど、こいつ自身が何よりやべぇ。
さっきのまちとの攻防を俺は見ていた。俺はこの島に来てから、まちの攻撃から抜け出せるやつを見たことがなかった。
それがこいつはあっさりと抜け出しやがった!
それだけじゃない。剣を交えて分かったことがある。あの剣は俺ぐらいじゃないと突破できない。それぐらい堅固な防御だった。
加えて、冷静な判断力と戦闘経験の深さ。英霊っつうのは伊達じゃなさそうだぜ。
はは、やばいかもしんない状況だってのに・・・なんだか楽しくなってきたじゃねえか!!
「行くぞ!!」
再びしのぶが駆け出した。先ほどの焼き直しのように、木刀の一撃が短刀に防がれる。
だが、そこからが違った。
やつはしのぶが回避する前に、木刀を滑るように短刀を動かした。
当然、剣が素人のしのぶがそれに対処できるはずもなく。
「ぐぅっ!?」
吸い込まれるようにしのぶの腹部に直撃した。たまらず、昏倒するしのぶ。
「今度こそ、一人だな。」
まるで何事でもないかのように、シローは言った。実際、やつにとっちゃ何事でもないぐらい当たり前のことなんだろうな。
何て強いやつ・・・!!
俺は口が笑みの形にゆがむのを自覚した。
「まち、あやね、すず、シャドウゼロ。悪ぃんだけど、こっから俺一人でやらせてくれねえか?」
『えぇ!?』
驚く三人、不満顔をするシャドウゼロ。
「・・・スバル、ボクも一緒に闘う・・・。」
「そ、そうだよ!!一人でなんて無茶だよ!!」
「ちょっとスバル、本気なの!?」
「あなたの悪い癖が出たみたいね。」
口々に言う少女達。だけど、俺は一人でやってみたいんだ。
この、英霊っつうめちゃ強えやつに、俺がどこまで太刀打ちできるか。
「・・・止めても無駄みたいね。いいわ、任せる。」
「ちょ、まち姉ぇ!?」
「止めないと、スバル本当に死ぬかもよ!?」
「・・・そんなことはボクがさせない。」
「あなたたちもわかるでしょ。こうなったらスバルは絶対聞かないわ。」
よーっくお分かりみたいで。
すずとあやね、シャドウゼロも、諦めたみたいだ。悪ぃな。
「おい、シロー!聞いたとおりだ!これから俺はお前に1対1を申し込む!!異論はないな!?」
シローは何か思案している様子だったが。
「いいだろう。むしろそっちの方が好都合だ。」
ま、そりゃそうだろうね。1対多よりも1対1の方がどう考えたって楽だからな。
すずが行人(まだ伸びてた)を、あやねがしのぶを回収し、安全な距離まで離れる。
これで掛け値なしに、1対1!!
「おい、シロー。俺はな、今凄く嬉しいんだ。そりゃ、お前は俺の仲間を殺そうとしてるんだから、そこは頭に来てるぜ?
けどな、まさかお前みたいな強ぇやつとまた闘えるなんて、夢にも思ってなかったからよ。」
シローに向き合い、そう告げる。こんなに楽しいのはいつ以来か。
だが、シローの方は楽しくないのか、難しい表情をしていた。
「・・・やはり、君は危険だ。気の毒だが、ここで葬らせてもらう。」
・・・へ!!やっぱ闘いはそうじゃなきゃな!!
「いいぜ、やれるもんならやってみろ!!」
俺は吼えた。そしてそれが、闘いの再開の合図となった。
シローの体が深く沈む。その次には、弾丸のようなスピードでこちらに迫ってきた。
シローの剣と俺の剣が火花を散らす!お互いの勢いに押され、俺達は共に剣を引く。
そこからは激しい打ち合い。十合、二十合、三十合・・・!
一瞬のうちにすさまじい数の手数を繰り出し、シローは俺に攻撃をしかけてくる。
俺はその全てを、剣を上手く使い防ぐ。と同時に、反撃も忘れない。
だが反撃は防がれ、シローの攻撃も俺が防ぐ。俺達の剣は激しく火花を散らし続けた。
――そういや、シローの剣って頑丈なのな。セブンスターといくら打ち合っても、ヒビすら入ってねーよ。
そんなどうでもいいことを考えながらも、俺は今を楽しんだ。
何百合目かの打ち合い。そのとき、シローの剣が大きく後ろに弾かれる。
勝機!!
俺は剣を素早く繰り出し。
「ダメだスバル!罠だ!!」
いつの間に意識を取り戻したのか、行人が叫んでいた。何を・・・――!?
シローは後ろに弾かれた勢いでぐるりと回転した。そしてそれで俺の攻撃を回避し、そのまま俺に攻撃をしかけてきた。マジで罠だったのだ!!
回避は不可能!防御も間に合わない!!万事休すか!!
そして俺は――
「はぁ、はぁ、はぁ・・・!!」
俺は肩で荒い息を吐いていた。今のはマジに死ぬかと思った!!
「・・・まさか、そんな真似ができるとはな。いやいや、完全に予想外だったよ。」
シローは俺から少し離れたところでそんなことを言っていた。
甲冑の胴体部分が、少し割れている。
あの瞬間俺は、引くこともかなわないならいっそと、あえて懐に潜り込んだ。
そして、今まで何でも見てきた技を放った。
閃空追技の閃剣・豪風斬撃。もっとも、威力はあの『閃光の勇者』サマには到底及ばないけど。
零距離から放つ斬撃は、本当ならやつの胴体を両断し、竜巻で高空に巻き上げるはずだ。
だけど俺のは所詮見様見真似。本家には遠く及ばない。
結果、シローの体を弾き飛ばし、甲冑に少し傷をつけるだけの結果に終わった。
何てヤローだ。あの激しい攻防の中で罠を張るなんて!!
本当にこいつは、英雄なんだ。
「どうやら、君と接近戦をしても埒があかないらしい。これで決めさせてもらう。」
休憩する暇も与えてくれず、今度はシローが短刀を俺に投擲してきた!
「くっ!!」
俺はそれをセブンスターで弾く。血迷ったか!?
と思ったが。
シローは再び、どこから取り出したのか同じ短刀を俺に投擲してきた。
そういやそうだった!こいつは幾つでも取り出せるんだった!!
「くっそ!!」
俺は大きく回避行動を取る。
「・翼、・・ヲ・・ズ」
シローが何かつぶやいている。と、また投げてきやがった!
馬鹿の一つ覚えか!?
俺は再度、セブンスターで弾く。
「・・・泰山・・リ・技、・・・渡・」
今度は、短刀を両手に、俺に切りかかってきた。が、防げない俺ではない!!
逆に弾き返してやった。
「唯名、・・・納メ」
すると、シローは後ろに飛ばされながら、短刀を投げつけてきた。
くどい!!俺はセブンスターを振るい、三度その剣を弾く。
「失望したぞシロー!こんなつまらない手が奥の手か!?」
だがシローはにやりと笑い。
「両雄、共ニ命ヲ別ツ」
そう、はっきり言った。その瞬間だった。
「何!?」
やつが投げた双剣が、四方八方から俺に襲い掛かってきやがった!!
まさかあいつ、そのために剣を投げてたのか!?
く、逃げ場がねぇ!!・・・だったら!!
「『橙』に砕けろ!!」
俺はセブンスターに大地の力を纏わせ、同時地面に突き立てる。
「大地槍撃!!」
そして力を解放し、幾つもの石の槍を作り出した。流石にこいつは越えられなかったか、双剣は飛んでこなかった。
「I ・・ the born ・・ ・・ sword.」
だが、障害物を作ったのがいけなかったのか。
ヤツが膨大な魔力を放ち始めた!が、今度こそ逃げ場がない!!
「今のを防ぐとは思っていなかった。が、これで終わりだ。」
そしてやつは、必殺の一言を紡いだ。
「偽・螺旋剣。」
――来る!!
その一撃は、俺の作った石の槍をあっさり貫通し、俺を貫こうと迫ってきた。
だが俺は。
「こんの・・・やろおおおおおおおお!!」
それを思い切り剣を振り下ろして打ち合った。
そのとき俺は見た。それは、剣としての用途を成さないほど捻れ狂った一振りの剣。
シローは黒い弓を持っていた。それで撃ち放ったのだろう。
その剣が持っている魔力は、常軌を逸していた。星剣であるはずのセブンスターが悲鳴を上げる。
「がああああああああああああああああああ!!」
咆哮。それで全身に力を入れ、真正面から打ち合った。
セブンスターだけじゃない。俺の体も悲鳴を上げてる。あちこち痛ぇし、服に血が滲んでる。
だけど俺は・・・!!
「負けて・・・たまるかよおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
その力に後ろに押されながらも、全力で対抗した。
「・・・まさか偽・螺旋剣すら止めるとはな。だが言ったはずだ、これで終わりだと。」
シローが言った。その瞬間、背筋に冷たいものが幾つも走った。
ヤバイ!なんだか知らないけど、このままじゃヤバイ!!
だが、俺が何かをする暇があるはずもなく。
「壊れた幻想。」
俺の視界は、爆光に覆われた。
interrude - Side Shiro Emiya
『スバルゥゥゥゥゥゥゥ!!』
少年と少女達が、目の前の光景を見て彼の名を叫ぶ。
だが、彼はもう生きてはいないだろう。
壊れた幻想。武器に内包された神秘・幻想を圧縮・崩壊させ、大爆発を起こす術だ。威力は神秘の大きさに比例する。
無限の武器を持つ私にだけ許された攻撃方法だ。
今私が放った偽・螺旋剣は英雄フェルグスが使ったとされる魔剣。蓄積された年月も神秘も申し分ないほどに高い。
一振りにして三つの丘を切り落とす剣は、私の手によって刀身を捻じ曲げられた狂った矢と化す。それは空気すらも飲み込み抉る。
そんな一撃をまさか止めるとは思ってもいなかったが、直後の偽・螺旋剣の壊れた幻想を受けて生きている可能性は考えられない。
ここに勝敗は決した。
「っっっこのやろおおお!!」
「行人!!」
少年が木刀を手に私に突進してきた。私は回避すると同時に足をかける。当然少年は転んだ。
だが彼はすぐに立ち上がり、木刀で私に切りかかってきた。なるほど、鋭い剣だ。彼も天賦の才を持っているのだろう。
「スバルを、スバルを返せえええ!!」
木刀を振るいながら叫ぶ。だが、その剣撃をいなしながら、私は告げる。
「彼は危険な思想を持ち、危険な力を持っていた。抑止力として見過ごすわけにはいかない。」
「ふざけるな!何が抑止力だ!!スバルのことよく知りもしないで、何が危険だよ!!」
・・・ふぅ。
そのため息はあきれだったのか、それとも自嘲だったのか。
私は次の一撃をいなさず、手で受け止めた。
「私達英霊が召喚されるには二通りの道がある。一つは、聖杯によって魔術師が召喚する。一つは世界そのものによって召喚される。
細かな説明はしても無駄だろうから、単純に説明しよう。今回は後者だった。そしてその場合の目的は、『世界滅亡の抑止』だ。」
世界に何らかの危機が迫った場合、私達は召喚されそれを防ぐ。――危機たる人物・あるいは人間達を殺すことによって。
「彼一人の死と世界の滅亡。天秤に乗せればどちらが大事かなど火を見るよりも明らかだろう。」
「ぐ・・・。そ、それでも!!」
「そんなの・・・おかしいよ。」
いつの間にか、最初に非難していた小さな少女が私の足にすがっていた。
「スバルが世界を滅ぼすとか、そんなことありえないよ。だってスバルは優しいんだよ。」
震えながら涙を流しながら、少女は言葉を紡ぐ。
「少しぶっきらぼうなところはあるけど、優しいんだよ。
くまくまとだってすぐ仲良くなれたし、臆病なはりはりを驚かさないように気を使うし、村の皆にも最初は誤解されてたけど、仲良くなれたんだよ。」
・・・私は人から憎まれたりするのにはもう慣れてしまっている。
助けられなかった人から恨みを言われたこともあった。助けた人から罵倒されることもあった。
その末に、私は磨耗してしまったのだ。正義の味方を目指していたのに、いつの間にか人々から憎まれる悪者になっていた。
だから、いつの頃からか私は憎まれることが当然になっていた。
だけど――。
「そんなスバルが、世界を滅ぼすなんて大それたことするはずがないしできないよ!ねえ、できないんだよ!!」
こんな風に涙を浮かべ悲しむ子供に、俺は非情になれなかった。
だが、今は体を剣にして立ち向かう。
「――すまない。だが、それが私のやるべきことだった。私を恨むのはかまわない。むしろそれが必然だ。」
まっすぐに少女に、そして少年と、他の少女らにも告げた。
「・・・お前達・・・さっきからスバルを勝手に殺すな。スバルはあの程度じゃ死なない・・・。」
何だと?
「そっちが英雄なら・・・スバルは『黒白の双子』の片割れ、『豪腕の破壊者』だ。そう簡単には死なない・・・。」
銀の少女が淡々と言う。それは・・・称号か?
「それに・・・スバルがボクを残して逝くはずがない・・・。」
その言葉には、揺るがぬ信頼が含まれていた。
「へへ、わかってんじゃねーか、シャドウゼロ。」
そしてそれに呼応するかのように、爆炎の中からあの少年の声が聞こえた。
まさか!?壊れた幻想さえも耐え切ったというのか!!
炎の中から、満身創痍のあの少年が現れた。
interrude - out
ったくよー、あきれ果てた威力だぜ。
俺はあの瞬間、咄嗟に剣に『緑』を纏わせ、即座に解放した。その爆風であの爆発を押し返したのだ。
もちろん、それでも押し返せる威力じゃなかったから全力で防御した。
どうやらあれは魔力の爆発だったらしい。じゃなかったら俺は今頃バラバラだぜ。
それでもこの俺をこんだけ傷だらけにするっつうんだから、どういう威力だよ、ほんと。
ともかく、俺は生きている。そのことにシローはひどく驚いていた。
「さて、仕切りなおしだ・・・ぜっ。」
膝ががくんと折れた。くそ!やっぱダメージでかかったか!!
「・・・全く、君には驚かされ通しだ。だが、勝負あったようだな。」
言ってシローは例の双剣を取り出す。
・・・どうやらそうみたいだな。
「いや、まだ終わりじゃない!!」
行人が鋭く叫び、俺とシローとの間に割ってはいる。
「お、おい行人!!」
「スバル!ここからは僕も一緒に闘う!!」
「ばっかやろう!死ぬぞ!!?」
「そんな死にかけで、何言ってんのよ!!」
ばちーん!と俺の背中に平手打ちが食らわされる。
「いってーな!ってゆきの、お前何出てきてんだよ!!」
「何ってへろへろで情けないスバルを守りに来たんじゃない。」
「ばっ、何言ってんだお前!俺はこれからがいいとこなんだよ!!」
「じゃあ、スバル殿が守ってやればいいでござるな。」
しのぶ!!・・・お前起きてたのか。
「私達にも手伝わせてよ、スバル。」
「あんたがどう思ってるかしらないけど、私達はもう同じ島に住む仲間なんだからね。」
すず、あやね・・・。
「さっきはそっちの言い分を聞いてあげたんだから、今度はこっちの意見を聞きなさい。」
まち。
「・・・スバル、良かった本当に・・・。ボクも一緒に闘う、だからもう大丈夫・・・。」
・・・シャドウゼロ。
・・・へへへ、この馬鹿どもが!!
「いい仲間に恵まれているようだな、少年――いや、スバル。」
ようやく俺の名前を呼んだシロー。そうだ、それが俺の名前だ。覚えとけこの野郎。
「さて、一緒に闘うとして、どうしたもんかね・・・。」
仲間が増えたからといって、シローの馬鹿強さがどうにかなるものでもない。
俺も全身傷だらけなために満足に動くこともできない。
「皆、聞いて欲しいことがあるんだ。」
そう言ったのは行人だった。何だ?
「僕、あの人を見てて気づいたんだけど、あの人の攻撃って基本カウンターなんだ。以前北の主に同じようなことやられたことあるから分かったんだけど。」
それは本当か!?
「うん。あの人は手数で攻めてるときは当てる気のない攻撃しかしていない。それで焦れてこっちが手を出したときに、必殺の一撃を決めてくるんだ。」
気づかなかったぜ・・・。
「それでスバル、皆。僕に作戦がある。」
おう、何だ?
「今度は僕に一騎打ちさせてくれないかな?」
・・・はぁ!?
「ちょ、ちょっと行人様!?」
「さっきのスバルの見てなかったの!?し、死んじゃうよ!!」
「話は最後まで聞いて!!ただの一騎打ちじゃないよ。スバルは僕より強いのに敵わなかった。そんな相手に無謀に一騎打ちをしかけるほど、僕は馬鹿じゃないよ。」
・・・いやー、やりそうな気もするけどな?
「と、ともかく!!基本は僕の一騎打ちなんだけど、そのところどころで皆が邪魔をするんだ。それで向こうに隙を作る。致命的に大きな隙ができたら、スバルが決める。」
なるほどな・・・悪い作戦じゃないかも。
「よし、じゃあそれで行こう!シャドウゼロ、ちゃんと行人のサポートしてやれよ。」
「・・・わかった・・・。」
こいつ俺の言うことじゃないと聞かないからな。憮然としてたけど、まあ同意したからおっけーだろ。
さあ、戦闘再開だ!!
interrude - Side Shiro Emiya
作戦会議が終わったようだ。先ほど木刀で私に切りかかってきた少年が前に出てくる。
「ここからは僕が相手だ!!」
スバルが最初にやったように、私に木刀の切っ先を向けた。
ふむ、軽くもんでやるか。
「来たまえ、剣士見習いの少年。」
「む・・・。僕の名前は東方院行人だ!!」
叫んで少年が向かってくる。東方院行人、か。私は彼の名も記憶した。
干将・莫耶の腹で彼の木刀の一撃を受ける。先ほどのスバルに比べれば軽い一撃だが、十分な鋭さがある。油断は禁物だ。
私は干将で軽く牽制の一撃を繰り出す。行人はそれをしっかりと目で見て避け、木刀を振るう・・・?
何だ?違和感があるぞ。
再び、今度は莫耶で牽制を仕掛けるが、同じことの繰り返しになる。
こいつ・・・まさか!?
『ふふふ、行くでござるよ!!』
突然、私の周囲から不自然に共鳴する声が聞こえた。
それを見て、私は思わず目を剥いた。
そこには八つ身に分身した少女がいたからだ。
『多方陣、影の太刀!!』
八人の同じ姿をした少女は、一斉に襲い掛かってきた。全て実体がある、幻影じゃない!!
「拙者は元千陰流の忍者。」
「そして現行人殿の弟子。」
「しのぶでござる!!」
この少女も只者ではない。しのぶ、その名を記憶に刻んだ。
八の太刀筋は、しかし全て同じだ。読みやすい。私は全てあっさりかわし、防ぎ、いなした・・・!?
「くっ!!」
まさにそのときを狙って、行人は突きを繰り出してきた。今の攻撃全てがフェイクか!!
私は身を捻り、かろうじてかわす。行人は舌打ちをした。
再び打ち合いになる。すると今度は。
「えーい!!」
先ほどの巫女とは比べ物にならないほどの早業で私の腕を絡めとり、私の体を投げ飛ばした。
私は空中で体を立て直し、着地した。
「すずー!投げちゃったら牽制にならないよー!!」
「うにゃ!?ご、ごめーん!!」
あの少女の体術。非常にレベルが高い。彼女もまた、武術において天賦の才を持っている。
すず。その名を記憶にとどめる。
これではっきりした。彼らの作戦は、行人が前衛となり、他の皆で隙を作る。
通常だったらただそれだけの作戦と言い切れるだろうが、そうも行かない。
まずは全員の身体能力の高さ。はっきり言って異常としか言えない。あれだけの能力をもってして、私に隙を作るのみに徹されたら、対処しきるのは難しい。
そして、行人の目の良さ。私にできるわずかな隙を逃さず捕らえ攻撃してくる。
しかも行人は私の動きをトレースし、私が攻めにくいように攻撃してきている。
恐らく彼は、私の戦闘スタイルの基本を見抜いているのだろう。即ち、防御から攻撃に移るという絶対則を。
私は剣は才能なきものが狂おしい努力の果てにたどり着いた無骨な剣。一流の者と闘うには工夫が必要になる。
それが防御から攻撃に移るというスタイルだった。
そしてそれを見抜いているからこそ、彼は自分に隙を作るような攻撃をしない。この歳でなんという技量か!
「全くすずったらだめだめねぇ。私がお手本を見せてあげるわよ゛っ゛っ゛っ゛!?」
突然背後に気配が生まれたので、私は思わず攻撃をしかけてしまった。莫耶の柄でみぞおちを思い切り突いた。
む、や、やりすぎたか?その少女はばたりと倒れ。
1秒もしないで起き上がった。――そういえば、先ほどスバルが頑丈だと言っていたな。
名前は確か、あやね。
「い、痛いじゃないのよ・・・。」
「す、すまない。いきなり背後に現れたからつい。大丈夫だったか、あやね。」
戦闘中だというのにそんな軽口が漏れた。
「あら・・・私の名前覚えてくださったのね?そう、私はあやね。この藍蘭島一の美少女と評判のぶきゅる!!?」
彼女の頭を踏み越えて、銀髪の少女が躍り出る。その手には、闇の棍棒。
私はそれを干将・莫耶で受け止める。
「そういえば、君の素性も気になるところだったな。君は何者だ。吸血鬼か?」
少女は一瞬頭にクエスチョンマークを浮かべた。ふむ、違うのか。
「ボクは闇の精霊『暗黒眼シャドウゼロ』・・・。」
ほう、闇の『精霊』、か。通りで真祖に気配が似ているわけだ。
「お前はスバルを傷つけた・・・。絶対に許さない。」
瞬時、瞳の色が紅から紫に変わる。私はそれを確認すると後ろに飛び退いた。
「ダークスフィア。」
直後、私の居たところを少女――シャドウゼロごと闇が包んだ。あやねも巻き込まれていたが――頑丈だから大丈夫だろう。
そして背後から刺突。私はそれを見ずに、気配だけで感知し防いだ。
「へへへ、やっぱりだめか。」
行人は軽く笑いながら再び私と相対した。
今度はそこへ、先ほどのてるてるまっちょと、龍の形をした式神、こうもり三匹を使役したまちが割り込んでくる。
「今度は私と踊りましょう。私の名前はまち。」
まち、か。覚えておこう。
彼女は先ほどのように腕を絡めたりはせずに打突で攻撃をしかけてきた。そしてそれに合わせて式神たちも複雑に攻撃を組み合わせてくる。
なるほど、これが彼女の真骨頂か。
そして隙を見ては行人が攻撃をしかけてくる。また、先ほどの少女達(あやねも平気だったようだ)も、出ては入りを繰り返す。
この身は英霊。この程度で負ける気はしない。が、このままでは勝てる気もしない。
ならばと、私は次なるカードを切る。
「投影開始。」
――創造の理念を鑑定し
――基本となる骨子を想定し
――構成された材質を複製し
――製作に及ぶ技術を模倣し
――成長に至る経験に共感し
――蓄積された年月を再現し
自身の二十七の魔術回路に設計図を流し込む。
「工程完了全投影待機。」
――この世に幻想を結び、剣と成す!!
「全投影連続層写!!」
私に許された唯一つの魔術・投影。それを駆使し、二十七の黒鍵を同時に発射した。
「きゃあ!?」
「何これ!?」
それは全て、少女達の足元に突き刺さる。
だが、行人は。
「うおおおおお!!」
その剣群に物怖じもせず、私に一太刀入れるべく突っ込んできていた!
「くぅっ!!」
私は大きくのけぞることでその攻撃を回避した。
「グッドだぜ、行人!!」
そのとき、スバルの声が響いた。
interrude - out
シローがどんなマジックを使ったか、虚空に27の黒い剣を出現させた。それが皆に降り注ぐ。
一瞬肝を冷やしたが、どうやらあれを当てる気はなかったようだ。それは全てみんなの足元に突き刺さった。
すずの足元に5本、まちにも5本。式神それぞれに1本ずつ、八人の分身しのぶとあやねにも1本ずつ。
行人には3本の剣を投擲した。だが行人はまるで物怖じせずに、飛び来る剣の弾丸に突っ込んでいった!
やっぱお前は面白いぜ!!
「くまくま!やってくれ!!」
行人は絶対やってくれる!あいつはそういうやつだ!!
ぐる〜!!
くまくまは俺の指示に従って、俺をシローに向かって投げつけた。視界の中では行人が切りかかり、シローが大きくのけぞっている。見えた!!
「グッドだぜ、行人!!」
俺の声に反応し、シローが俺を見る。即座に体勢を立て直そうとしている。
させねえよ!!
「雷光矢!!」
既に剣に纏っていた雷を解放し、矢としてシローに打ち込んだ。
シローは双剣でその雷を切り払った。
「ぐあ!!」
が、それは剣を伝いシローの体を間違いなく焼いた!見るまでもなく、シローの動きが鈍る。
よっしゃ、行くぜ!!
「『緑』に吹き巻け、竜巻唱!!」
狩り物競争のときのように、俺は後ろに竜巻を放つ。それによりさらに加速する。
加えて!!
「『赤』く燃え上がれ!!」
豪!と音を立ててセブンスターが火を噴く。これがくまくまの協力によってなし得た俺の新必殺技!
「メテオブレイク!!」
行人は雷光矢を放った時点で退避している。障害物はない。
俺は降り注ぐ隕石のごとく、一直線にシローに――!?
「熾天覆う七つの円環!!」
シローは直撃の寸前、何事か叫び、それに呼応するかのように7枚の花びらみたいなのが現れた。そしてそれが俺の攻撃をはばむ。
これは、こいつの盾か!!
「ふぬうううううぅぅぅうぅぅぅぅぅ!!」
「ぐっっっっぅぅぅぅぅぅ!!」
先ほどとは真逆の攻防が繰り広げられる。俺は花弁を突破すべく火力を上げ、シローは突破させまいと盾に魔力を注ぐ。
パリンと音を立てて、花弁が割れる。二枚、三枚・・・。
こいつはいけるか!?
だが、そこまで行ったところでセブンスターの火力が急速に衰える。く、使い切っちまったか!!
シローがにやりと笑うのが見えた。
このまま俺が勢いを失えば、こいつは俺を切り捨てる。そしてそれはもう目前に迫っている。
――畜生、負けたくねえ・・・。負けたくねえ!!
ああ、俺は負けたくねえ。だからまだ諦めねえ!!
安○先生も言ってたぜ、「諦めたらそこで試合終了ですよ」ってこんなときに妙な電波を受信するな、俺!!
俺の最後の一撃・・・見せてやる!!
「『虹』色に輝け!!」
俺はセブンスターの真の力を解放した。途端、星剣から七色の光があふれる。
星剣『セブンスター』。その身に七つの属性を宿す剣。そしてそれら全てを統べたとき、真の力・星の光を生み出す!!
「なんと・・・!!」
シローが驚愕するのがわかる。そりゃそうだ、こんなヤバイ魔力を持った剣、そうそうねえからな!!
体に力がみなぎってくる。と同時に、体にかかる負荷が何倍にも増す。
これを撃ったら、俺はもうまともに身動きがとれないだろう。
だからこれが俺の正真正銘最後の一撃!そして最強の必殺技!!
「スター・・・」
俺はその場でぐわっと一回転する。
「フィニイイイイイィィィィィィィィッシュ!!!!」
そして勢いを乗せ、大上段から七色の光の剣をたたきつけた。
「く・・・ぉぉぉぉぉおおおおおお!!」
シローも負けじと魔力を込めるが。
パリンパリンと、さらに二枚割れる残り二枚!
「もっと・・・もっと輝けぇぇぇぇぇぇぇえええ!!」
俺の意思に呼応するかのように、さらに輝きを増す星剣。そしてさらに一枚割れる。
これで終わりだ!!
だが、シローはそこでとんでもない手段に出やがった。
「ならば・・・壊れた幻想!!」
花弁が爆ぜる。爆光が俺の視界をふさいだ。
流石に先ほどのぐるぐる剣ほどの爆発ではなかったが、俺は完全に視界をふさがれた。
これに乗じて俺を殺る気か!?
そして俺の予想通り、爆煙の中から白と黒の双剣が現れた。俺はそれをセブンスターで受け止める。
「まだだ・・・まだ私は負けていない!!」
すげえ気合だ。だがシロー、言ったはずだぜ!!
「これで・・・終わりなんだよおおおおお!!」
ざんと音を立て、いやそんな音がするはずがない。やつの武器は砕け散ったのだから。
つまりそれは音もなく。
俺の剣はシローの双剣ごと、シローの体を袈裟切りにした。
どさりと、シローは地に伏した。
ここに、勝敗は決した。
interrude - Side Shiro Emiya
私は――負けたのか。斬られた痛みが来るまで、そのことを理解できなかった。
損傷状況――重大、戦闘行為は不可。
魔力――干将・莫耶の連続投影、偽・螺旋剣から壊れた幻想、全投影連続層写、熾天覆う七つの円環とそれに対する追加魔力使用、及び壊れた幻想。流石に枯渇寸前だ。
完膚なきまでの勝敗だ。私は敗れのだ。
「っつぅ・・・!?」
スバルが剣に纏った七色の光を解く。それと同時にスバルはうめき、倒れてしまった。
『スバル!!』
彼の仲間達が、彼に駆け寄った。
ああ、彼らはあんな戦いを見ても、彼を仲間だと思っていられるのか。
――私の危惧は、どうやら完全に見当違いだったようだな。
あれだけいい仲間に囲まれているのだ。道を踏み外すようなことがないとは言えないが、抑止の対象にはなりえない。
ふ、今回の召喚は、いつにも増して情けないな。
「・・・よぉ、お互いボロボロだけどよ・・・、今回は俺の勝ちみたいだぜ。」
「ああ、そのようだな・・・。ここまでやられては、これ以上の現界は不可能だろう。」
先の一撃は、致命傷ではなかった。が、魔力も尽き回復の手立てもない今、私はこのまま『死』を向かえ、座に戻るだろう。
「・・・今、なんつった?」
スバルが何か怒りのような感情を込めて、私に問いかけてきた。
「これ以上存在していることは不可能だと言ったのだ。命拾いしたな、少年。」
「・・・っざけんな!!」
スバルが怒りの咆哮を上げ、体を起こした。何を怒る必要がある?君の命は助かるのだぞ?
「んなこと聞いてねえ!!勝手に現れて命狙って勝手に消えるだぁ!?てめえ何様だよ!!」
そんなことを私に言われても困るのだが。それに、命を狙った相手が消えるのに、何の不満がある?
「そんなこと俺がわかるわけねえだろ!!」
理不尽だな。
「ああ、俺だってよくわかんねえよ!お前は人を小ばかにして嫌味ったらしくてむかつくやつで、おまけにシャドウゼロや俺を殺そうとした悪もんだよ!!」
随分な言われようだ。
「だけどよぉ・・・俺はお前に消えて欲しくねえんだよ!!お前と闘ってて楽しかったんだよ!!悪いかコラ!!」
・・・く。思わず苦笑が漏れた。
ああ、なんだ。こいつは危険なんじゃない。やっと理解できた。
こいつは太陽みたいにバカなやつなのだ。
本当に、今回の私はどうかしていたようだ。
「ありがとう、そう言ってくれると幾分か気が楽だ。」
「む、そ、そりゃあどうも・・・。ってそうじゃねえよ!!何かお前の消滅を防ぐ方法はねえのかよ!?」
英霊の消滅を防ぐ方法か・・・。なくはない。
だが、それには問題がある。
方法の一つは、生きた人間から魔力を奪うという方法。要約すれば『魂食い』だ。
そんなことを、私はしないししたくはない。彼らも望むところではないだろう。
そうすると残る方法はあと一つ。魔術師と契約することだ。
ただし、どんな魔術師でもいいというわけではない。
聖杯があるならともかく、外部からの魔力供給がないこの状況下では、極めて強力な魔力を持った魔術師でなくては不可能だろう。
「だから、無理だ。この近辺に優秀な魔術師がいるのか?」
それを聞き、皆一斉に押し黙る。・・・行人だけは「魔術とか何言ってんの?」とか言ってシャドウゼロに殴られているが――今なら彼女の気持ちもなんとなくわかる。
「優秀な魔術師はいないけど、優秀な式神使いならいるわよ。」
まちが、その沈黙を打ち破った。
そうか。確かに彼女は優秀な式神使いだろう。その体からあふれる霊力がそれを証明している。
だが。
「君は魔力を持っていないだろう?」
そう、彼女が持っているのはあくまで『霊力』。この体を構成する『魔力』の代わりになるだろうか?
「そんなこと、やってみなくちゃわからないでしょ。」
相も変わらず眠たげな瞳で、まちはそう断言した。・・・確かにな。
だが、まだ問題があるぞ。
「私は契約するとは一言も言っていない。無理に現界する必要もなさそうだしな。」
「お前は負けたんだろ。黙って勝者の言うこと聞いてろ。」
スバルがきっぱりと言い放った。それも真理だな。
私は、甘んじて一か八かの契約を受けることにした。
まちが私の周りに陣を描く。それは魔法陣のようにも見えるが、どこか違う。
これが恐らく、『式神契約』とやらの陣なのだろう。
「告げる、汝が身は我の下に、我が命運は汝の剣に、・・・え〜っと。」
「『我が意、我が願い誓うなら』だ。」
「そ、そうだったわね。我が意、我が願い誓うなら・・・。」
私の教えたとおり、詠唱をするまち。・・・大丈夫だろうか、こんなので。
「・・・我が命運、全て汝が剣に。応えよ、天秤の守り手よ!!」
まちが詠唱を終える。と同時に、式神契約の陣が淡く輝きだす。
そして、この身にあふれる魔力――ではなく霊力。
少し勝手は違うが、現界するのに問題はないようだ。
「我、汝の願いを受けよう。契約は今樹立した。これよりこの身果てるまで、汝が剣と盾となり汝を守ることを誓おう。」
私が応答の祝詞を告げることで、契約は成立した。傷も見る間に塞がっていく。
「・・・どうだ?」
スバルが恐る恐る聞いてくる。見れば皆一様に同じ目をしていた。
「うむ、問題ない。霊力の供給も滞りなく、現界に支障はない。」
「ってぇことは!!」
「ああ、消滅は避けられたようだ。」
『やったー!!』
全員がわっと歓声を上げる。・・・おかしなものだ。
先ほどまで敵として戦っていたのに、まるで我がことのように喜んでいる。
ああ、この島は何て優しい島だろう。
「それでは改めて、これからよろしく頼む。」
「ああ、こっちこそな!シロー!!」
「スバル、契約したのは私よ。」
この日、鍛鉄の英霊エミヤは、式神・衛宮士郎となった。
interrude - out
お・ま・け
その日の晩。士郎はお詫びの意味も込めて、これからお世話になる海龍神社に皆を招き、料理を振舞った。
その一場面。
「う、うますぎる・・・。」
「こんな美味しいご飯、食べたことないよ・・・。」
スバルと行人が感動の涙を流している。他の少女達も同様に、恍惚の表情でため息をついている。
「それほどでもないと思うのだがな。」
流石にオーバーすぎるリアクションに、やや控えめな意見を言う士郎・エプロン姿。
長身で色黒、白髪頭で赤い外套・黒い甲冑の上にエプロンというのはどう見たって似合わない。
なのに不思議と似合ってしまうのがエミヤクオリティー。
「いや、シロー!お前の料理は世界一だ!!お前に剣を向けた俺を許してくれ!!」
「感動しましたよ士郎さん!!師匠と呼ばせてください!!」
おかしなテンションになっている二人におされ、流石の英雄もどうすればいいかわからなくなった。
「・・・スバルを傷つけたことは許さないけど・・・、この料理に免じて、少し許す・・・。」
シャドウゼロはそんなことを言っていた。
「うふふふ、これはとんだ拾いものだったわね。これからご飯が楽しみね。」
「は!!ということは私が家事の役目から解放される!!?」
「自分の分は自分で作りなさい、あやね。」
「ひどぃ゛!??」
まちとあやねもこんなだし。
「はぇ〜、しろーさん今度豆大福作ってー。」
「ゆきのははにーとーすとー。」
「うちは羊羹ー。」
すず、ゆきの、しのぶも完全に自分達の好物に意識が行っている。
ある意味、士郎の最強の武器は、料理なのかもしれない。
「しかし、何か忘れているような気がしてならない・・・。」
「そういえば士郎さん、富士山から降りてきたよね。つららさんにはもうあった?」
「つららとは?」
「富士山の頂上に住んでる雪女よ。子供みたいな格好してて人懐っこいから、会ってればすぐわかると思うけど。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。」
その頃のつらら。
「くすん、くすん、いーですよーだ。どうせ私はみちるちゃんと同じ忘れられキャラですよー。」
娘であるはずのみちるの悪口をいいながらいじけてた。
後日、士郎がお詫びのカキ氷を持って山に謝りに行ったら、大層気に入られたことは言うまでもない。
てことでやっちまいました「Fate/stay night」とのクロス。
終盤あたりがgdgdなのは勘弁してください。戦闘パートで全力使い果たしたんです。
そしてこのネタやりたかった一番の大本、まちとの式神契約は完遂。満足したので寝ます。
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