2008/10/06
なんだかんだで小ネタ2
1週間休むとか言ってたくせにね。
でもしょうがない。この話がやりたくってやったんだから。
お題:剛剣士・スバル=スカイバーグを単身『藍蘭島』に放置してみた2
おっす、俺スバル!いやー、てーへんなことになったなー!!
何が大変かって?それが聞いてくれよ!!
俺は謎の大波に巻き込まれて『藍蘭島』という島に流れ着いたんだ。
この島は周りを大渦に囲まれているために外界との交流が一切不可能。
そしてこの島にはほぼ女しかいない!!男は俺と東方院行人っていうやつの二人だけ!!
必然的に俺たちは女どもの取り合いの対象になっちまうってわけだ。ふ、モテる男は辛いぜ・・・。
まあ、その辺はこれまでの経緯っつうかあらすじだな。詳しくは前回を読んでくれ。
それはもう理解してるからいいんだよ。
だけどな?
「これより、第二回『婿殿争奪戦』執り行う!!」
この状況は一体なんなんだよ!!!!
あ、ありのままに今起こったことを話すぜ。
『俺はゆきのの家で寝ていたと思ったら、簀巻きにされておばばの家の前に運ばれていた。』
な、何を言t(ry
とりあえず、状況がつかめないのでおばばに猛講義する。
「おい婆ぁ!こりゃ一体全体どういうこった!!」
「どういうこともこういうこともない。見た通りじゃ。」
「俺が聞いてんのはそういうことじゃねえよ!何でそんなわけのわからん大会開いてんだよ!俺は断ったぞ!?」
だがおばばは俺の言葉には取り合わず
「ではるーるを説明する!!」
「人の話聞けよ!!」
なお無視された。そしてそんな俺の味方は誰もいない。なんてアウェー戦だ!!
「此度の婿殿争奪戦は『狩り物競争』にて執り行う!!」
『狩り物競争』?『借り物競争』じゃないのか?
「スバルや。お主は『狩り物競争』は初めてじゃろうからるーるを説明してやろう。」
そしておばばは『狩り物競争』のルールを説明した。
・参加者それぞれに獲物が設定されており、4人の獲物の持ち物を奪って1番に西の大楠に手をついたものの勝利とする
・当然参加者が他の参加者の獲物になっており、持ち物を奪われたものは失格とし以降の関与を認めない
・時間制限は無制限である
「ま、こんなところじゃの。おおそうじゃ、これがお主の分の獲物表じゃよ。」
おばばは俺に獲物と奪うべき持ち物が書いてある紙を渡そうとした。
が。
「俺が参加する意味あんのかよ?」
「大有りじゃ。お主、自分の連れ合いは自分で決めたいんじゃろ?」
「それがどう関係するんだよ。」
おばばは俺の言葉ににやりと笑い、皆に宣言した。
「勝者には行人との月見亭一晩宿泊権、もしくはスバルとの結婚の権利を与える!!」
なんだとぉ!?
「おい婆ぁ!!俺は断るって何度も言って」
「嫌なら自分が優勝すりゃあええんじゃ。かつてこの島に流れ着いたばかりの頃の行人はそうしとったぞ。」
行人の名前を出されて、カチンときたぜ。
「・・・上等じゃねえか。やってやるよ、『狩り物競争』!!」
俺はおばばから紙切れをひったくった。それを見ておばばは満足そうに頷いた。・・・くそ、いいように踊らされてるな。
だが絶対ギャフンと言わせてやるからな!!
「それでは、わしは行人の所に行って説明をしてやってこよう。説明が終わり次第煙花火が上がり、それが開始の合図じゃ。皆の者の健闘を祈る!!」
キャーキャーと言う、女特有の叫び声が上がる。皆テンション高ぇな。
だが、悪いが俺は負けねぇぜ!!俺の獲物になったやつ、運が悪かったと思いな!!
さて、それじゃ俺の獲物を見ようか。
・『スバル』の持ち物は『剣』
おお、そう言えば自分の持ち物聞いてなかったな。
さてさて、気を取り直して俺の獲物はっと。
・『りん』の『髪留め』
・『しのぶ』の『木刀』
・『まち』の『箒』
・『行人』の『木刀』
・・・?大半が知らない名前なんだが。
ていうかよくよく考えれば、俺この島の住人で名前知ってんのって、ゆきの、かがみちゃん(そう呼ばないと怒るのだ)、行人、すずの4人だけだな。
・・・やべぇ、まずったかも。
しょうがない。まずは行人を狙って、あいつに吐かせるか。
と思っていたら。
「あ、スバル見っけた〜。」
のんきそうなゆきのの声が聞こえた。そちらを見ればくまくまに乗っかったゆきの。
「おう、ゆきのか。お前も参加するのか、『狩り物競争』?」
「あったりまえじゃない!!」
子供が参加して楽しいものでもないと思うんだが・・・。景品が景品だし。
「なっ!!れでぃーに向かって失礼ね!これでも私11歳だよ!?」
「うぇ!?俺と2つしか違わねーじゃん!!」
どう見たって8、9歳だろ!?下手したらあの生意気剣士より年下に見えるぞ!?
・・・でも考えてみりゃ、かがみちゃんがああだしなぁ。そういうこともありうるか。
「で、スバルの獲物は誰だった?」
「あ〜、それがよう、知らないやつばっかで困ってるんだ。知ってるの行人しかいねえ。あ、ゆきのは違ったぜ。そういうゆきのはどうだ?」
「ゆきのもスバルは獲物じゃなかったよ。」
ふむ、なるほどねぇ。
「なら、手を組まねえか?俺一人じゃこの島の地理には詳しくないし、誰が誰かもわかんねぇ。その点、ゆきのがいれば心強ぇ。」
「ゆきのもそのつもりで来たんだよ。スバルは力だけは凄いから頼りになると思って・・・てどうしたの?」
思わず俺はずっこけてた。『だけ』は余計だ!!
「まあいい。そんじゃ、いっちょ共闘といこうや!!」
「おー!!」
天高く、拳を掲げる俺たち。
「あらあら、面白い話をしていますわねぇ。」
と、そこへ一人の女が声をかけてきた。
「あ、ちか姉ぇ!!」
「初めましてですわ、スバルさん。私、『ちかげ』と申します。」
めがねをかけた女が、ぺこりとお辞儀をした。
「おう、俺がスバルだ。何か用か?」
「ええ、私たちもあなた方と共闘しようと思いまして。」
共闘・・・てことは、ちかげも参加するのか?
あと、『たち』って?
「それはこの・・・あらら?」
ちかげは後ろを振り向くが、そこには誰もいない。何だ?
「ちょっと梅梅さん、隠れてないで出てきてください。」
「え、えっとそのデスネ・・・。」
くわ〜。
「と、遠野サン!そんな、後生デスカラ・・・。」
ちかげは木の陰から二人・・・いや、一人と一匹を引っ張り出してきた。
「こちらの方々とはもう手を組むことになっていますの。ご紹介します。『梅梅』さんと河童の『遠野』さんです。」
一人の方は恥ずかしいのかうつむいてこっちを見ようとしない。ふ、俺がかっこいいからって、照れるなよ・・・。
「梅梅は単に恥ずかしがり屋なだけだよ。」
とゆきのが突っ込みを入れてきた。
んでもって一匹の方・・・どうみてもモンスターです。本当にありがとうございました。という電波を受信した。
それは何というか、全体的に緑だった。甲羅を背負い、頭に皿がある。
『カッパ』という名前のモンスターなのだろうか。
「遠野さんは参加者ではありませんが、梅梅さんの手助けをしたいそうですわ。この三人が今の私たちの組ですの。
あ、ちなみにここにいる全員スバルさんもゆきのちゃんも獲物には入っていませんから、ご安心ください。」
ふむ・・・、悪くないかもな。
だが。
「俺があんたらと組むメリットはあんの?」
「もちろん。多分、スバルさんの獲物にもまちさんの名前があると思いますけど、まちさんはご存知ですか?」
まち?・・・ああ、確かにあるな。
「いや、知らねぇ。そいつがどうかしたのか。」
「実は、私たちの獲物にもありますの。ゆきのちゃんのにも書いてあったんじゃありません?」
「うん、入ってるよ。」
何!?獲物かぶってんじゃん!!
「じゃあ、俺とあんたら・・・それどころかゆきのと組むことすらまずいじゃん。」
「そうではありませんの。実はこの『狩り物競争』、強い者ほど狙う側の人間も多くなりますの。そしてまちさんはこの島でも屈指の実力者。
正直、前情報もなしにではスバルさんと言えども苦戦を強いられるかもしれませんわ。」
む・・・、正論だ。
「だけどそれは向こうも同じじゃん。俺がどういう戦い方するか知らねえだろ?」
「・・・スバルさん?あなたは自分が何を背負っているかお分かりですか?」
おう、俺のもはや相棒とも言うべき星剣『セブンスター』だ・・・て。
「は!?俺戦い方もろバレじゃん!!?」
『気づくの遅!!』
「い、いやだけど、剣を使うにしたって戦い方なんて色々あるわけだし」
「そんな大きい西洋剣背負ってて、自分が所謂剛剣士だとバレないとでもお思いですか?」
バレてる!!?
「はぁ・・・。ともかく、そんな有様ではまちさんに一太刀入れることも難しいかもしれませんよ。だから私たちと協力しようと申し上げているんですの。」
「だ、だけどよ。あんたらが助けになるとは限んねえじゃん。」
「そこはご安心を。梅梅さんはこの島で1、2を争うほどの身のこなしを持っていますし、遠野さんは見ての通り河童、妖怪です。
私も少しばかりの忍術の心得と、何より策士としての力があります。悪い話ではないでしょう?」
「む、むむむ〜・・・。」
確かに、そこまで悪い話じゃないかもしれん。いやだがしかし・・・。
「スバル、ちか姉ぇたちと共闘しようよ。」
「ゆきの?」
「ちか姉ぇたちの実力は信用できるから。だから協力してもいいと思う。」
そ、そうか。
「じゃあ、よろしく頼むわ。ちかげ、梅梅、モンスター。」
くわぁ!!
「も、モンスターじゃなくて遠野サンですヨー!!」
「はは、悪ぃ悪ぃ。遠野。」
そして俺たちは手を組むことになった。
この直後、すずの家の方で煙花火が上がった。呼応するように村中で歓声が上がる。
そして何人かの女たち(結構多数)が、俺たちに襲い掛かってきた!!
「そうか、お前らも相当な実力者だから、狙う人間も多いって事か!!」
「信用いただけまして?」
おうよ!!
答えると同時に、俺は鞘に収めたままの剣を構える。
「(お前ら、俺が合図したら思いっきり飛べ!!)」
「(あ、あれをやるんだね。)」
「(何ですの?)」
「(いいからいいから、皆言われたとおりにして。)」
そして俺は、目で合図を出しながら
「大震撃!!」
剣を地面に突き立てた。途端、強烈な振動が地面を伝い、こちらに向かってきている女たちが倒れる。
「よっしゃ!この隙に」
「逃げますよ!!」
「は?」
「呆けてないで、スバルも走って!!」
俺はゆきのにつかまれて走り出した。
「おいおい、どういうことだよ!?今の隙に持ち物強奪しときゃよかったじゃん!!そうすりゃあいつら失格なんだろ!?」
「あの人数を相手に仕切るのは骨ですの!私たちも持ち物を奪われたら失格なんですから、大勢を相手にするのは危険ですの!!」
なるほど、そういうことか。確かにちかげは、策士としてはかなりきれる方のようだ。
「ひゃややや、スバルサン凄いですヨー!!」
くわぁ!!
梅梅と遠野(多分)が俺を褒める。ふ、当然だぜ。
「スバル、余所見してると頭ぶつける」
ゴイン!!
「ぐあ!?星が見えた!!」
「って、もう遅かったか。」
そして俺たちは、人気のない森の奥まで来たところでいったん移動を止めた。
「先ほどのスバルさんのお手前、お見事でしたわ。」
ちかげが俺を褒める。ふ、お前にも俺のかっこよさが分かるか。
「まあそれはさておき。」
スルーされた。
「それぞれの獲物をしとめる作戦を立てていきたいと思いますの。こういう場合、簡単なところから攻めていくのが定石ですわ。
いきなり強敵とあたって敗退したのでは目も当てられませんから。」
「逆に強敵を後回しにしておけば、皆が狙うから疲れるだろうし、そうなれば勝機も出てくるはずだよ。」
ふむ、なるほどね。この『狩り物競争』というもののルールを存分に生かした作戦だな。
だが。
「何だかちまちましてて男らしくねーなー。もっとどどーんと、ばばーんと、敵をやっつけるみたいな作戦は出ねーのかよ。」
「そうは言いましても。私が立てている作戦はより確実に勝てるためのものですの。スバルさんの考えている方向性だと、逆に勝率はどんどん下がっていきますわ。」
むぐ。
「それに、今回の景品にはスバルさんとの結婚権も含まれているそうじゃありませんか。島に来たときのスバルさんの口ぶりでは、まだ結婚したくないのでしょう?」
むぐぐぐ。
「なら、この競争で優勝して、結婚権をなかったことにしたいんじゃないんですの?」
「だぁーもうわかったわかった!!それでいいよ!!」
くそう、口ではちかげに勝てなさそうだ。
「それでは、まずは皆さんの獲物を確認しましょう。」
俺は島民の名前をほとんど知らない。なので、要注意人物の名前を覚えることにした。
「やはり、この中で強敵というべきは、まちさんを初め、りんさん、しのぶちゃん、あやねさん、すずちゃん、そして行人さんですね。」
すずがこのリストの中に入っているとは。そういえば俺を助けたのはすずだったな。案外凄いのかもしれん。
「それにしても・・・スバルさんの獲物は厄介な人ばかりですね。」
「ああ、今言った中に全部入ってたな。」
行人は一度戦ってるから大体の力量はわかる。確かに、あいつは強い。
とすると、皆が強敵と認める『まち』、俺が強いと認める行人以外の二人から攻略すべきか。
「スバルさんのために、それぞれの人の戦い方を説明します。
まずまちさんですが、何体もの式神を操り、本人の体術もすさまじいものです。はっきり言って1対1で勝つのはかなり厳しいでしょう。」
式神?使い魔みたいなもんか。
「次にすずちゃんですが、軽い身のこなしと柔術が武器です。特にあの身のこなしは、かなり驚異的です。まちさんと同等に強敵だと考えていいでしょう。」
あのすずがそこまでの強者なのか。何だかうずうずしてきたぜ。
「あやねさんはまちさんの妹ですが、巫女としての能力はそれほど高くありません。その代わり、打たれ強さはこの島一と言っていいでしょう。
ただ、性格的な面でかなり油断が多いですから、あまり強敵ではないでしょう。」
ふむ、この競争には向いていないスキルだな。
「りんさんは大工の娘さんで、不器用な代わりに力持ちです。スバルさんと同等の腕力を持っていると考えておいてください。」
マジか?そんな女が存在するんだなぁ。
「そして、しのぶちゃんは元忍者の現侍見習いです。私の従妹でもあるのですが。
剣の腕は初心者ですが、行人さんの稽古の下メキメキと力をつけていってるそうですからね。油断は禁物です。」
ほぉ、行人の弟子か!!そいつは面白そうだ。
さっきから話を聞いてたら、どいつもこいつも面白そうじゃないか。
「なあ、やっぱり正面切って戦いたいんだけど。」
剣士としての血が騒ぐ。ていうかここで血が沸かなかったら男じゃねえ。
「ダメですわ。確実に勝利を。」
だが、ちかげは俺の意見を一蹴した。ちっ、わかったよ。
そして俺たちはまず、雑魚狩り(こういうと聞こえは悪いが、分かりやすいだろ?)をすることにした。
「梅梅っち、覚悟ー!!」
「ひゃやややや〜ん!!」
梅梅が囮になって、崖に追い込まれたフリをする。
「さあ、梅梅っち!観念しな!!」
「あ・・・あの、皆さん・・・。ご、ごめんなさいデスヨ!!」
『なぁ!?』
梅梅は崖の少ない足場を軽やかに上っていく。ほー、確かに素晴らしい身のこなしだ。
さて、ここで俺の出番だ。
「わりぃなお前ら!!とぅ!!」
「あ、新入りの悪がき!!」
俺ってそういう認識!?ともかく俺は崖の上から飛び降り、剣を抜き放ち。
「大震撃・強!!」
落下の勢いのまま地面に剣を突き立てた。そしてそこを中心に、巨大な揺れが広がる。
「きゃぁ!!」
たまらず倒れる女たち。
「いまだ!ゆきの、くまくま、遠野!!」
「はぁーい!!」
ぐるー!!くわぁ!!
倒れた女たちにゆきの、くまくま、遠野が殺到する。そしてあっという間に持ち物を奪ってしまった。
これにて雑魚狩り終了!!
「いや〜、ほんとあっという間に終わったな。」
俺はちかげの作戦に脱帽した。
「ええ、これもスバルさんの協力があったおかげですわ。感謝してますの。」
いや〜、それほどでもあるけど。
「さて、残りはこの強敵りすとの面々だけですわ。楽なところから順々に攻めて行きましょう。」
「するってぇと、次は・・・『あやね』ってやつか?」
ちかげはこくりと頷いた。
「ただ、あやねさんを罠にかけるのは難しいと思いますの。あやねさんの疑心暗鬼っぷりは見事なものですから。」
それ絶対褒めてないよな。
「じゃじゃじゃあ、どうやってあやねお姉さまの持ち物を奪うデスカ?」
ガチンコ勝負だったら絶対負けない自信あるんだけどなー。
「ええ、あやねさんにはスバルさんに直接対決していただきますわ。」
お!?
「だ、大丈夫なのちか姉ぇ!?」
「ええ、あやねさんは小細工は得意ですけど、真っ向からの力勝負は苦手でしょうからね。スバルさん、自信の方は?」
「任せとけ!!」
どん、と胸をたたく。ガチンコなら、絶対負けない自信があるぜ!何せあの子供剣士に「参った」って言わせたことがあるくらいだからな!!
方針が決まったところで、俺たちは一路『あやね』を探すことにした。
そして見つけた。『あやね』はツインテールのロリ巫女だった。少々目がきついな。
隣には、何故かすずがいた。
「・・・まずいですわね。恐らくあやねさんはすずちゃんと共闘していますの。」
それのどこがまずい?
「先ほどもお話したとおり、すずちゃんはまちさんと同等の実力者ですの。でも、まちさんに比べて隙が多い。それがすずちゃんとまちさんの差です。
けど、その隙をあやねさんが補っている。つまりあの二人を相手にするのは、まちさんを相手にするのと同じか、それ以上の危険があるということですの。」
・・・へぇ。
俺は目が細くなり、口が笑みの形になるのを自覚する。
「す、スバル?」
「スバルさん・・・?」
「へへ・・・悪ぃなお前ら。やっぱ俺、こんな面白そうな戦い目の前にぶら下げられて、退けるほど腑抜けちゃいねーんだよ。」
「だ、ダメです!いったん距離を置いて作戦を立て直して」
だが、俺はちかげに皆まで言わせず。
「よう、お二人さん。悪いがここは通行止めだぜ。」
すずと『あやね』の前に立ちはだかった。
「スバル!!」
「あら、あなたが新しく島に流れてきた?」
「おう、スバル=スカイバーグだ。」
何度目になるかの自己紹介。『あやね』はそれを受けて。
「私はあやねよ。よろしくね、スバル『様』。」
さ、様〜?俺は何だか背中がむずがゆくなった。
「なあ、その『様』ってのやめてくんないか?何か背中痒くなる。」
「あらそう?それじゃあスバル『ちゃん』は」
「もっとやめい!!・・・普通にスバルって呼べばいい。どうしても何かつけたいんならせめて『君』ぐらいにしてくれ。」
「ちぇ、わかったわよ。で、何の用?・・・て聞くのは野暮かしらね。」
そうだな。
俺は鞘に収めた剣を構える。
「お前らは俺の獲物じゃあないんだが、ちょいと世話になってるやつらがお前らの持ち物が入用でね。悪いがここで失格になってもらうぜ。」
「あら、自信家ね。でも、そう上手く行くかしら。」
あやねも徒手空拳で構える。へぇ、素手で戦うのか。
「じゃあ、俺も素手にした方がいいか?」
「遠慮なさらないで。そう簡単には負けないから。」
上等!!俺たちはにらみ合い・・・。
次の瞬間!!
「あやね、逃げるよ!相手が悪すぎる!!」
「ぐぎゅ!?」
すずがあやねの首根っこつかんで全力で逃げ出してた。・・・て、はい?
「あ、こらすず!逃げんな!!」
「だってスバル強すぎるんだもん!まち姉ぇもいるのに相手してられないよ!!」
すずの獲物にも『まち』がいるのか。
「スバルさん!追ってください!見失ってしまいます!!」
お、おう!?
俺は走り出し。
「でえええい!!」
突然降ってわいた謎の女に足止めされてしまった。ち、何者!?
「りん姉ぇ!?」
ゆきのがその人物の名を叫んだ。そうか、こいつが俺の獲物の!!
「拙者もいるでござるよ!!」
突然背後から声が聞こえ、反射的に剣を盾にしてガードする。そして衝撃が響く。
「しのぶちゃんも!?」
それは俺がこの島でも見たことのない格好をした――恐らく『侍』姿の女だった。余談だが、頭に牛らしき畜生を乗せていた。
へぇ、俺の獲物が二人もそろってやってくるとはね。
すずとあやねはすっかり見失ってしまったが、代わりに鴨が葱をしょってやってきた。
「その様子じゃ、そっちも共闘してるって感じだな。ええっと、『りん』と『しのぶ』であってるな?」
「おう。あんたは新しく島に流れ着いたっていうスバルだな?」
「いかにも。俺がスバル=s(ry」
て略してどーする!?
「何でも、おばばさまに対して不忠を働いたそうだな。武士の風上にもおけぬ!!」
鼻息荒く言うしのぶ。
「あたしもその辺のことはちょっといい感じ持ってないんだよな。まあ、そういう気性も嫌いじゃないけどさ。」
どうやらこいつらは、俺のことを『新入りの悪がき』と称した連中と同じタイプらしい。ふん、何とでも言えよ。
「あたしらの獲物はゆきのと梅梅っちなんだけど・・・。」
「忠義によって、お主の分も狩らせてもらう!!」
へ、お前ら上等だぜ。
「まとめてかかってこいよ。返り討ちにしてやんぜ!!」
俺は剣を一振りし、叫んだ。
しばし緊迫した空気が流れ・・・。
くまちょっぷ。
「あうっ!?」
くまくまの一撃を受けて、しのぶがすっ飛んだ。
ってこら、ゆきの。
「邪魔すんなよ、今いいとこだったんだから!!」
「いいとこだったじゃないでしょ!目的を忘れないでよ、スバルのとり頭!!」
んな!?
「とり頭はねーだろ、とり頭は!!俺は三歩前までの記憶はちゃんと覚えてるぞ!!」
「そういうところがとり頭だって言ってんのよ!!スバルのバカチン!!」
「ひどくなってる!?」
そしてしばしぎゃーぎゃー言い合う俺ら。なだめる梅梅。あきれる遠野。観察するちかげ。
気絶したしのぶを担いでりんが逃げたのに気がつかなかったのは、言うまでもない。
「全く、スバルさんには勝手な行動を慎んでいただかなければ困りますわ。」
「へへ、悪ぃ悪ぃ。」
あの後あちこち探したが、結局獲物は見つからず。
気がつけば夜になっていた。
今俺たちは一日走り回って汗だくになったので、温泉に向かっているところだ。
俺は別に平気なのだが、同行する女たちが『汗かいたままなんて死んでも嫌だ』と口をそろえて言うので、仕方なしにだ。
「温泉につかりながら、ゆっくり作戦を立て直さなければいけませんわね。とは言っても、優勝は早いもの勝ちですから、あまりゆっくりしている暇はありませんけど。」
「おいおい、あんま焦るのはよくねーぞ。じいさんも言ってたぜ、『急いでいるときほど落ち着け、結果的にそれが一番の近道だ』って。」
「・・・誰のせいだと思ってるんですの?」
だーかーらー、それは悪ぃって何度も謝ってんじゃん。
「はぁ、飛んだ計算みすですの。まさかスバルさんがこうも言うことを聞いてくださらないなんて。」
「ていうか、スバルって見た感じから言うこと聞いてくれなさそうだよね。」
ほっとけよ。
「で、でも、昼間の剣は凄かったデスヨ!雑技団でも剣を使う人はいたデスけど、あそこまで使える人はいなかったデスヨ。」
お、梅梅わかってんじゃん!そーそー、俺の剣は実戦で鍛えたもんだからね。大人でも俺には勝てなかったんだぜ!!
大体じーさんが『男たるもの剣の一つも使えんでどうする』とか言って幼少期から叩き込んでたんだからな。何度キレーなお花畑を見たことか・・・。
「た、大変な幼少時代だったデスネ・・・。」
梅梅が冷や汗をたらしている。うむ、そう思うだろ?
そんな話をしていると、温泉にたどり着いた。
「お、ここか。じゃあ俺はここで見張りしてっから。」
「え、スバル一緒に入らないの?」
・・・おいゆきの?お子ちゃまだっつっても、ちゃんと恥じらいは持たなきゃだめだぞ?
なんてことを思っていたら。
「行人さんもそうですけど、男の方は皆そうなんですの?」
なんてことをちかげが言い出した。
「おいおい、お前ら正気か!?男と女が一緒の風呂に入るかよ普通!?」
「入らないんですの?」
ずるっとこけた。こやつら。そういえば男がいない期間が長かったんだったな。
全く、俺のいたとこではありえない話だ。もし覗きでもしようもんなら、『炎散陣』と『聖光爆』同時に食らってもおかしくないぞ。
ましてや、一緒に入ろうもんなら『炎の裸王』と『セクハラ貧乳』を同時召喚されるかもしんない。
・・・まあ、だからといって一緒に入ろうと言われても困るんだけどね。
「ともかく、俺は一緒には入らん!!」
『ええー!!』
「声をそろえて残念がるな!!梅梅を見ろ、あれが正しい反応だ!!」
ちなみに、梅梅はというと先ほどから顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。
「いいからいいから♪」
「よくないと言っとろーが!!」
「しょうがないですわね。とう。」
びす。
「う。」
ばたり。
「脱力のつぼを押しましたの。さ、今のうちに服を脱がしましょう。」
「わーい!!」
「や、や め ろ お お お お お!!」
力の入らない俺は、抵抗空しくひん剥かれてしまいましたとさ・・・。
「もうお婿にいけない・・・。」
「だいじょーぶ!貰い手がいなかったらゆきのがもらったげるから!!」
「幼女にもらわれても嬉しくないわ!!」
「よ・・・!?っくまくま、やっちゃえー!!」
ぐるー!!
ばしゃあ。
「あっちー!!ちくしょう、お返しだ!!」
きゅどん。どばあ。
『あっつー!!』
「あ、悪ぃ。」
「威力を考えてください!!!!」
とまあ、そんなこんなで一緒に温泉入ってるんだが・・・男として大切な何かを失った気がする。深く考えるのはやめよう。立ち直れなくなる。
「それにしても、スバルさんは行人さんみたいに、鼻血を吹かないんですのね。」
・・・行人、お前のリアクションはどれだけベタなんだ?
「あー、それは何て言うか・・・ほれ、俺妹いるから免疫あるんじゃないか?」
「スバル、妹さんいたの?」
「ああ、話してなかったっけ。カデナっていう双子の妹がいるんだ。これがまた根暗なやつでさー。そのくせ銀髪根暗野郎にべた惚れしやがって。
兄さん悲しいですっ!!」
「スバルさんからはとても想像できませんね・・・。」
「あ、でも行人さんにも妹さんがいるって話きいてマスヨ。」
「え、そうなの?」
妹いるくせにどんだけ女に弱いんだ。精神鍛錬が足りてない証拠だ。野菜食え野菜。
「うん、確か『美咲』ちゃんっていうんだよね。」
「そーそー、確かそんな名前。」
「あんときゃ凄かったなー。旦那の恋人だーなんてまち姉ぇが言い出してさ。」
「そんなことがあったでござるか。いやはや、何でそのとき拙者は村にいなかったのか・・・。」
「それはしのぶちゃんが武蔵にあこがれて侍になるなんて言い出したからですの。」
「なんだそりゃ。影響されやすすぎだろ。」
「ち、ちーちゃんそれは言わん約束やて!!」
はっはっはっはっはっはっはっはっは。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
『何でいるの!?』
び、びっくりした!いつの間にかすず、あやね組とりん、しのぶ組と合流してた!?
「あ、み、皆!スバルの剣を取って!!まずはスバルを失格にさせないと!!」
すずが叫んだ。しまった!!
「ははは、速さのことなら拙者に任せい!!」
と、とてつもないスピードで走り出すしのぶ。こいつ、アサシンか!!
そして俺の剣のところへ行き。
「スバル敗れたr・・・あれ?」
俺の剣を持とうとして、持てなかった。
「何でござるか!?これ、物凄く重いでござる・・・!!」
・・・あ。
「そーいや、どのみち俺の剣ってそんな軽くなかったわな。」
俺は悠々と近づき、剣をひょい――というほど軽々ではないが、難なく持ち上げた。
「お、お主、反則ではないか!?」
「反則じゃねーだろ。ルール上これが俺の持ち物なんだから。」
「で、でもそれだと誰もあんたの持ち物奪えないじゃないか!!」
「文句はあのばあさんに言いな。あの人がそこまで考えてなかったんだから。」
全く、俺自身普通に持ち歩いてたからすっかり忘れてたぜ。この剣、確か200kgだか300kgだかあるんだよな。
何でも、隕鉄による重力と概念によるうんちゃらかんちゃらとかでそうなってるらしい。俺も詳しいことは知らん。
「だ、だったらしのぶちゃんのを!!」
「わ、私りんの!!」
「させないよ、くまくまー!!」
ぐるー!!
『あっつー!!』
「ゆきの、サンキュー!!」
ぐっ!!
「えっへん!!」
「はわわわ、あやねお姉さま、ごめんなさいデスー!!」
「な、梅梅!?」
「させないよ!!」
ざばあ!!
「あついデスー!!」
くわぁ!!(訳:梅梅!?このぉ、お返しだ!!)
「あ、と、遠野さん温泉の中で雷は!!」
くわ!!(訳:妖術・河童雷!!)
ばちばちばちばちばちばちばちばち!!
遠野の放った電撃は、温泉を伝い敵味方の区別なく襲った。
結果、立っているのは俺一人。
「な、なんでスバルは立ってんのよ・・・。」
感電してお湯に浮いてるあやねが、悔しそうにつぶやく。ああ、そういやあやね打たれ強いんだったな。
「体質でさ。魔力とかそういったのって俺にあんまし効かないんだ。結構素通りするらしい。」
ま、それでもちっとはダメージあるんだけどね。ビリっとはきたぜ?電気マッサージ代わりくらいだけど。
さってと。今ここで立っているのは俺一人。つまり、こいつらの持ち物を奪ってしまえば、ここは俺たちの勝ちってことだ。
そのことがわかっているらしく、敵対勢力は皆一様に悔しそうだったり、無念そうな顔をしている。
けど。
「やっぱやーめたっと。」
「え、ス、スバル・・・?」
「ち、ちゃんす、なんですよ?」
ゆきのとちかげが不思議そうに、不満そうに言ってくる。そうは言ってもさ。
「こんなんで勝っても面白くないし、男らしくない。」
それに何より。
「こんな面白い連中と戦り合える機会なんてそうそうねぇ。確かに勝ちたいけど、俺はその過程が大事だと思う。
じいさんが言ってたんだ。『試合に勝って勝負に負けるぐらいなら、試合に負けて勝負に勝て、それ以上に試合も勝負も勝て』ってさ。」
とどのつまり、俺はこいつらを認めたんだ。面白いやつらって。
そんな相手にこんな卑怯な手を使うのは、俺自身が許せねぇ。
「スバル・・・。」
「あなたがそこまで言うんなら、私は何も言いませんよ・・・。」
「スバルさんのおじいさんは、とても素晴らしい方ナンデスネ。」
ゆきのもちかげも梅梅も、穏やかな表情で許してくれた。すまねえ、それとサンキューな。
「スバル、その、悪かったな。昼間はあんなこと言っちまって。」
「拙者も修行が足りなかった。このような真の武人に対しあのような非礼を。」
よせよ。俺は俺が正しいって思ったように行動してるだけだ。んなこと言われると照れちまうじゃねえか。
「はは、スバル顔真っ赤だよ。」
「やっぱりスバルちゃんって呼ぼうか?」
すず、あやね、うるさいよ。ちゃん付けはやめてくれ、マジで。
ところでさ。
「せっかくいいこと言ってくれてるとこ悪いんだけどさ。皆お湯に浮いた状態って様にならないと思うんだ。」
『それを言わないで・・・。』
ぷかぷか浮かびながら、皆涙目だった。
結局俺が皆を回収し、服を着せる羽目になった。結構恥ずかしかった。
そして、今晩はお互いに不戦の協定を結び、この日は就寝と相成った。
舞台は決着の二日目に移る。
**********
・・・そういや、俺のターゲットでもある行人はどうしてるんだろう?
あいつもおばばに無理難題を課されているんだろうか。ありうるな。たとえば島の最強四人衆を倒せとか。
はてさて、明日は行人ととも見えることになるだろうが、どうなることやら。
――昼間の行人――
「東西南北の主を倒せって・・・何だこれ!!図ったなあのばばあーーーーーー!!」
「行人クン、時には男は諦めることも肝心だよ。」
「・・・からあげさん、深いですね・・・。」
続きはまた後日。
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