2008/07/30
手抜きって言うな
これでもオーバーヒートした頭で一生懸命頑張ったんだ。
Side Fate Testarossa
前回の『ジュエルシード』封印のとき。
私はあの少年についていくのが精一杯だった。もしお兄ちゃんの援護射撃がなかったら、あっさりやられていただろう。
私は強くなりたい。私の願いをかなえられるだけの力が。
大事な人たちを守れるだけの力が。
だから、あの次の日。私はお兄ちゃんに言った。
「私に戦い方を教えてください。」
それを聞くとお兄ちゃんは渋い顔をした。
「・・・フェイトちゃんはもう十分過ぎるほど戦う力を持っている。俺に教えられることなんてないと思うけど。」
「でも、お兄ちゃんの方が強いです。私はもっと強くなりたい。」
私は瞳に意志をたたえて言った。お兄ちゃんは私をまっすぐに見たまま言った。
「正直俺はフェイトちゃんには戦ってほしくない。戦いってのは傷つけ傷つけられることだ。そんなことにフェイトちゃんを巻き込みたくない。」
――お兄ちゃんの優しさは痛いほどわかる。傷つくことは嫌だし、傷つけることも好きではない。あの少年の背を斬った時の感触はまだ気持ち悪いほど残っている。
私自身、その覚悟があるかと言われたら正直自信がない。
だけど、大切な人を失うのはもっと嫌だ。アルフも、お兄ちゃんも、そしてあの人も・・・。
「私は、大切なものを守れるだけの強さが欲しいんです。」
だから、揺るがない。
しばらく私たちはお互いを見合っていたが、やがてお兄ちゃんがため息をつきながら視線を外した。
「条件がある。絶対に無理はしないこと。訓練のときでも、戦いのときでもだ。そして、自分のことを第一に考えること。
これが守れないんだったら、俺はフェイトちゃんに戦いを教える気も、戦いに参加させる気もない。」
――守れるとは言いがたい。だけど、私は強くなりたい。
だから。
「約束はできないけど、善処はします。」
そう答える。
それを聞いてお兄ちゃんは少し悲しそうな表情をした。
「・・・わかった。それじゃあ、朝ごはんを食べ終わって1時間経ったら訓練を始めよう。食後すぐの運動は体に悪いからね。」
でも、そう言ってくれた。
・・・そんな顔をさせてしまって、ごめんなさい。
ゴチャマゼクエストSS 『異邦見聞録』 〜麻帆良学園都市・外伝〜
魔法少女リリカルなのは
雷鳴・剣と杖
第九話・大地の力、フェイトの思い
Side Daichi Ohzora
「さて、戦い方を教えるということだが・・・。」
食後1時間経ってから、俺たちはマンションの屋上に出た。
すでにフェイトちゃんはバリアジャケットを着込み、アルフに頼んで結界は張ってある。
「前にも言ったと思うが、俺は彼のスピードについていくことはできない。彼ほどのスピードが出せないからね。だから、そこをまず理解してほしい。」
フェイトちゃんが戦い方を教えて欲しいと言った理由は想像がつく。十中八九アキラ君だ。
彼の魔力も何も使わずでのあのスピードは、知らないものにとったら脅威以外の何ものでもないだろう。おまけに、前回は最後に奥の手らしきものを出そうとしていた。
警戒するのは当然なのだが、俺としては複雑な気分だ。こんな年端も行かない幼子が戦いの思考をするなんて。
「でも、あんたはあのガキの剣を全部防いでたじゃないか。十分ついていけてるんじゃないのかい?」
アルフが疑問を挙げる。ふむ、それについて説明しようか。
「あれはただ単に、彼の行動を視覚情報を元に先読みして、剣が振るわれるところに剣を置いてただけだよ。」
「先読みって・・・。」
あの速さで?という驚きが、アルフ、フェイトちゃんともに顔に浮かんでいる。
当然かもな。俺の反射速度は半端じゃない。思考速度もだけど・・・。
だがそれにはタネがある。
「話は変わるが、人間の情報処理は脳内の電気信号で行われているってことは知ってるか?」
「知ってますけど、それが何か・・・?」
フェイトちゃんはまだ気づいてないようだな。
「俺の『具現心術』がなんだったかって覚えてるか?」
「え、それは確か『電子の大量・精密操作』じゃ・・・あ!!」
どうやらフェイトちゃんは気づいたらしいな。
「え、え?どういうことだい?」
アルフはまだ気づいてないみたいだけど。まあ、イヌ科だしね。
「つまり、お兄ちゃんは『具現心術』を使って脳内の電気信号を操作している。」
「ご明察。正確には各種感覚神経や運動神経もだけどね。それによって反応速度・思考速度を水増ししてるのさ。」
元々いいってのもあるんだけどね。
「これができれば絶対反応できるってわけじゃないけど。慣れも必要だしね。だけど、ある程度有利になることは間違いない。」
はー、と感心する二人。おいおい、話の本題はこれからだぜ。
「そして、これはひょっとしたらフェイトちゃんにもできるかもしれないぞ。」
『えっ!?』
驚く二人。いやいやフェイトちゃん、電気のくだりで気づこうよ。
「フェイトちゃんの魔法は電気だろ?つまり、上手く操作すれば俺と同じことができるかもしれないってこと。」
『あっ!!』
そういうことだ。だからこそこの話をしたんだ。
ただ、そう簡単にできるとは思えないけどね。この技術は電子の精密な操作が要求される。
下手に大量の電流を流したら脳回路を焼いて廃人になりかねない。
「ただし、できるかもといってもかなり危険だ。慎重に術を構築して、発動時には絶対失敗しないように術式を組む必要がある。決してあせらないこと。いいね?」
「はい。」
素直に返事をするフェイトちゃん。うん、素直でよろしい。
さて、これは一朝一夕でできることではないから、この話はここまでにしよう。
「訓練に話を戻すが、俺では彼をシミュレートすることはできない。どっちかっていうと、フェイトちゃんの方が彼の戦闘スタイルに近いしね。
だから、俺が教えられるのは戦闘の基本である『相手の攻撃にどう対処し、どう相手に攻撃を加えるか』という思考だ。」
頷く二人。
これはどんな戦闘スタイルを持つものでも基本的な姿勢だ。どう相手のスタイルを崩し、こちらの意図するとおりに事を進めるか。
戦いとは、一面的に見ればそういうものなのだ。
俺の場合そこに『策にはめる』とか『罠にかける』とか、逆に『火力で押す』とか色々と選択肢があり変幻自在なのだが、それは難しいだろう。
だから、ここはその思考という一点のみ教えるのが正しいだろう。
「これから俺と模擬戦をしてもらう。2対1だ。俺は色んな手法で攻めるから、それを防いで何とか反撃の糸口を見つけ出してくれ。
それが終わったら、反省会。戦いは体動かすだけじゃないからね。座学も必要だ。
さて、何か質問はあるかな?」
フェイトちゃんがおずおずと手を挙げて
「あの、2対1で大丈夫ですか?いえ、あの、お兄ちゃんは確かに強いと思うんですけど、流石に2対1は・・・。」
「そこんとこは大丈夫。多分まだ2対1でもいけると思う。・・・けどまあ、確かに『Cross Square』だけじゃきついかな?」
『天雷』は・・・ちょっと危険かな。あれは火力重視の剣だし。
だったらやはり使うのは。
「じゃあちょっと待っててくれ、準備するから。」
そう言って、俺は『Cross Square』を出す。
そしてさらに。
「怨嗟ヲ縛ル地獄ノ雷、鎖ヲ集メ刃ヲ成セ!汝ノ名ハ『縛雷』!!」
詠唱とともに、地に向けた俺の左掌に雷が集まってくる。
それは鎖を成し刃と成り、一振りの赤い長剣となる。
「あ、それってこの間の。」
「ああ、俺の二段媒介の一つ、『縛雷』だ。動きが結構トリッキーだから、十分に気をつけてくれ。」
言いながら俺は剣を振ってみたり、鎖を持ち回転させてみたり、準備運動をする。
「・・・よし、問題ないな。じゃあ、これから模擬戦を始める。制限時間は1時間。一発でも俺に攻撃を加えられたら終了。
それじゃあ、そっちから始めていいぜ。いつでもきな。」
言って俺は剣を左手に構える。それと同時に、フェイトちゃんがバルディッシュを握る力を増し、アルフが四肢に力を込める。
そして、俺たちの戦闘訓練が始まった。
Side Alph
まずはフェイトが突撃した。バルディッシュを振りかぶり、振りぬく。
それを大地は難なく受ける。あの剣――『縛雷』っていったか、強度はかなりあるらしい。
おまけにあの鎖。あれに絡めとられたら終わりだ。多分抜け出す前に電撃で意識を奪われる。
厄介この上ない武器だ。どう対処すればいいのか。
(フェイト、あたしが近接にでるから、フェイトは遠距離から攻撃して。)
考えるにも、まず相手の手札を見なければ話にならない。あれで一体、どんな攻撃をしてくるのか。
それを見るため、フェイトに念話を送る。
(大丈夫?お兄ちゃん、強いよ。)
(大丈夫だって。あたしは遠距離より近接の方が得意だしね。)
念話を終え、フェイトは空へ上がり、あたしが前衛に出る。
あたしは一瞬のうちに人型へと姿を変え
「りゃあ!!」
拳を振るう。大地はそれを縛雷の腹で受け、少し驚いた表情をした。
「へぇ、人型にもなれるんだな。」
そういえば、大地の前で人型になるのは初めてだったか。
ともかく、あたしの全力をこめた拳はあっさりと防がれてしまった。随分と頑強な剣だ。
と、その剣から伸びている鎖があたしの周りに集まり始めた。あたしは慌てて飛びのく。
あんな使い方もできるのか。迂闊に近寄れないな。
「フォトンランサー・ファランクスシフト!!」
あたしが飛びのくのと同時に、フェイトが自身の持つ最強の攻撃魔法を放った。
いきなりかい!?と思ったけど、あの鉄壁具合だ。下手な射撃魔法じゃ縛雷に弾かれるのがオチだ。
でもこれなら・・・。
だが大地は、まるで焦らず縛雷の鎖を持った。そしてブンブンと剣を円状に振り回す。
それによりできた簡易の盾で、降り注ぐフォトンランサーは全て弾かれてしまった。
なんて頑強なんだい。しかも剣だけじゃなく、鎖まで頑丈だとは。もはや驚きを通り越して呆れてくる。
フェイトのフォトンランサーがやむ。それと同時に、大地は縛雷を鎖鎌の要領でフェイトに投げつけた。
「フェイト!!」
あたしはあわててフェイトに近寄ろうとしたが、フェイトはそれを急速回避した。
ふう、危ない・・・。
「油断大敵だな、アルフ。」
ほっとするのもつかの間。いつの間にか大地があたしのすぐ近くまで寄ってきていた。
あたしは慌てて拳を引くが。
「遅い!!」
大地の手から放たれた強烈な電撃でノックアウトされてしまった。
その後フェイトも3分持たずに気絶させられてしまったそうだ。
対大地模擬戦、第一戦。あたし、2分でKO。フェイト、5分でKO。
実に情けない結果に終わってしまった。
Side Fate Testarossa
私は今、部屋の床に正座をしています。
隣ではアルフも人間形態になって正座している。けど、かなり足が痛そう。
「君たちは馬鹿正直すぎる。」
何故そんなことをしているかというと、お兄ちゃんが正座をしているから。
その状態で講義をされると、なんとなくつられて正座になってしまう。
今お兄ちゃんは、さっきの模擬戦でわかったことを分析し、評価を下している。
「いいか?まずアルフ。俺がフェイトちゃんに剣を投げたとき、目線を俺からそらしたよな?確かに主人を心配するのはいいが、それでお前がやられてどうする。」
しゅんとうなだれるアルフ。
「そしてフェイトちゃん。最初のフォトンランサー・ファランクスシフトは確かに凄い。けど、使いどころがまずい。
あれは相手が動けなくなったところで使う極め技だ。あんなところで使ったら相手のレベルが一定以上なら防ぐかよけるかされて反撃されるだけだ。」
実際、縛雷を使ってあっさり防がれた。まさかあんな方法で防がれるとは思ってもみなかったのだが。
「そしてアルフがやられたあと。機動力を活かした戦いというのは確かにフェイトちゃんらしいといえる。が、戦法がない。」
お兄ちゃんが言っているのは、ただ単に高速で攻撃しに行っているだけという意味だ。
「単調な高速攻撃だったら俺やアキラ君レベルだったら間違いなく防がれる。だから、フェイントを組み合わせるなり、死角から攻撃するなりして、『当てる』ことが大事だ。」
私はうなずく。
それにしても、お兄ちゃんはやはり凄い。あれだけの戦闘を涼しげな顔でこなし、私たちの動きをしっかりと見ている。
いつか私も、そのレベルにいたれるときが来るのだろうか。
それがいつの未来なのかはわからないが。
私はいつの間にか、お兄ちゃんの――大地さんの隣に立って戦う姿を夢想していた。
Side Daichi Ohzora
初めはお粗末だったフェイトちゃんとアルフの戦い方。
それは見る見るうちに成長していった。訓練三日目にして1時間持ちそうなほどだ。
アルフはこちらの防ぎにくいタイミングで攻撃してくるようになった。フェイトちゃんの攻撃はだんだんと読めなくなってきた。
恐ろしい成長速度だ。まさに『天才』。
(ま、元の世界でさんざ『天才』って言われてた俺が言うのもなんだけどさ。)
高速思考の中で苦笑する。
と、フェイトちゃんが中距離からフォトンランサーを撃ってきた。俺は縛雷でそれを弾く。
1、2、3、4、5・・・?、6・・・
そして7個目のランサーを弾いたとき、その影からアルフが現れた。
「もらったぁ!!」
アルフは大きく振りかぶる。――詰めが甘いなアルフ。そんな大振りじゃ、俺には反応時間がたっぷりあるぞ。
そう思い、アルフの攻撃を縛雷で防ぐ。
だが、アルフの存在自体が――
「チェックメイトです。」
フェイントだった。
俺は後ろからバルディッシュのサイズフォームを突きつけられていた。
――なるほど、5発目の影に隠れていたか。
違和感には気づいていたが、俺はあえて無視した。おまけした、とも言う。
「OK、終了だ。二人とも、よく成長したな。」
俺は縛雷を消す。それと同時にフェイトちゃんがバルディッシュの刃を消す。
時間は――58分。1時間以内だ。
最後の一発。あれは確かにすばらしかった。俺だからこそ気づいたものの、普通は見逃すか、気づいても対処しきれないだろう。
「フェイトー!!あたしたちやったんだね!!」
アルフがフェイトちゃんに抱きつき喜ぶ。フェイトちゃんはちょっと困ったような、それでも嬉しそうな顔をしていた。
たかだか模擬戦で、だが。それでも二人は今ひとつのことを成し遂げたのだ。
「ああ、よくやった。」
俺はアルフとフェイトちゃんの頭を撫でてやる。それでくすぐったそうな表情をする二人。
「これでレベル1クリアだ。」
もっとも、次の俺の発言で二人とも凍りついたが。うん、確信犯だよ?
「さて、レベル2からは弾幕シューティングゲームだよ。やったね!!」
「ちょ、何それ!?あたしは聞いてないよ!?」
「そりゃあ言ってないもんね。」
いけしゃあしゃあと言い放つ俺。フェイトちゃんは何か停止してるし。
やっぱり、この訓練ハードすぎたかな?とも思うが、二人のレベルを考慮して・・・うん、許容範囲だ。
さて、それじゃあ準備しないとな。
俺は右手を空に向け、高らかに詠唱する。
「空ヲ飛ビ交ウ数多ノ雷、我ガ手ニ集イ刃ヲ成セ!汝ノ名ハ『天雷』!!」
結界内部を一条の閃光が切り裂き、俺の手に収まる。
青の大剣・『天雷』。
「さて、この剣を見るのは初めてだな。この剣は俺の力の一つで名前は『天雷』といって・・・あれ?」
何か二人から反応ないなーと思って見ると、二人とも遠い目をして停止していた。
・・・こりゃ今日はもう無理っぽいかも。
しょうがないので、俺はフェイトちゃんとアルフを部屋まで運び、今日の訓練を終えることにした。
Side Fate Testarossa
レベル2ははっきり言って地獄だった。
課題は『敵の攻撃を回避しきる』。これのみだ。
言葉だけ聞けば簡単だと思うかもしれない。
だけど、一度に20数発の荷電粒子砲――ゲイボルクという名前らしい――をどうかわしきれと?
しかもかわしきったと思ったらすぐまたリロードされるし。
バリアジャケットのおかげとお兄ちゃんが威力を抑えてくれているため傷はないけど、一発でもくらえば間違いなく昏倒する。
今のところ私は3回よけるのが限界だ。アルフは2回目で食らってしまう。
目標は10回連続回避。気が遠くなってくる。
レベル2クリアは、どうやらまだまだ先の話のようです。
Side Daichi Ohzora
ちょっと厳しすぎやしないかって?
いやいや、俺はやるとなったらとことんやる男だぜ。
鬼コーチ、必死に頑張る女子バレー部員。そして優勝。涙を流して喜びを分かち合うコーチと部員達。
青春ってそんなもんだべ?
昭和臭がする?そんな意見、受け付けません。
今日も今日とて、結界の中に荷電粒子砲の嵐が吹き荒れる。
駄目だ。この三人にほのぼの以外の空気は似合わない・・・。
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