2008/10/12
本当は小ネタ4のつもりだった
でも完成したのでうpる。
お題:アキラワールドの精霊たちの一日を観察してみた
このお話はアキラが『閃光の勇者』と呼ばれることになる事件の少し前のお話・・・。
カデナの魔力空間の中。カデナの契約精霊たちはここで生活している。
皆夜は寝るしご飯(主にカデナの魔力)も食べる。だって生き物だもの。
必要に応じて呼び出されたときは、ここから現実世界に移動する。呼び出されなくても出られるし、実際そうしてるのも何人かいるが。
そうやってアキラたちと共に旅をしているのだ。
「ほらほら、あんたたちいつまでも寝てんのよ!!」
精霊たちの朝は地の精霊『地母神ガイアード』の声から始まる。
重いまぶたを開け、ある者は欠伸をし、ある者は伸びをし、またある者はまだ夢見心地に目を閉じている。
「シルフィー、寝ぼけてんじゃないよ!オンディー、水出しとくれ。さあさ皆起きたら顔洗う!ゼロ、あんたはいつまで寝てんだい!」
てきぱきと指示を出す皆のリーダー、ガイアード。その姿は歴戦の『母』そのものである。
ちなみに、精霊たちを愛称で呼ぶのは彼女だけだ。
「ああ、今日も私はふつくしぃ・・・。」
ガイアードに言われたとおり水を出し、水面に映った自分の姿を見て悦に浸る水の精霊『海龍王オンディーヌ』。
ガイアードはそんなオンディーヌの頭を一つはたいてから、自分の力で作り出した石の器に水を入れる。
そうすると、皆一様にのそのそと動き水で顔を洗い出す。
ここで一番賑やかなのが、火の精霊『灼熱魔人インフェルニウス』。
彼の体は火の魔力で構成されているため、顔に水をつけるたびにじゅうじゅうと音を立てて水が蒸発する。
「っぷはぁ!!今日もいい朝だぜぃ!!」
そしてそれが結構気持ちいいようだ。
彼の言葉どおり、カデナの視覚情報から伝わってくる外界の天気は晴れ。それも快晴。空気も爽やかで、いい朝と言えよう。
「うぅ〜、まだ目がしょぼしょぼする〜・・・。あたしちょっと外行ってくる。」
そう言ったのは風の精霊『疾風刃シルフィード』。
言うや否や、彼女は風の名前どおりの素早さで、あっという間に姿を消した。
そしてカデナから伝わってくる情報で、彼女がいつもの通りセクハラ・逆セクハラをしているのがわかる。
「まったく、若いモンは元気じゃのぅ。」
老けた物言いをするのは雷の精霊『雷精学王ボルタ』。実際、彼は精霊であることを考えても高齢である。
脱いでいた白衣を身に纏い、カデナから供給される魔力を吸収する。
そんな彼の背中にポンっと手を乗せるものが一匹。
「オウッ!!」
「んん?それもそうじゃな、かっかっか!!」
それは愛らしいペンギンの姿をした氷の精霊『凍土獣ブレイジア』。
彼女が言ったのは「じいさんも人のこと言えんでしょ。」といったところか。
「ほらゼロ、いつまで寝てるんだい!!いい加減起きな!!」
と、再びガイアードの大きな声が響く。そして彼女に揺さぶられる人物が一人。
「・・・朝は、眠い・・・。」
それは闇の精霊『暗黒眼シャドウゼロ』。
彼女にとって朝は寝る時間なのだ。闇の精霊だけに。
「まあまあ、地母神。闇の精霊に朝はキツかろう。そっと寝かしといてやれぃ。」
「そうは言うがね、ボルタじいさん。この子は後でお腹空いたとか言い出すんだから、ちゃんと朝ごはん食べないといけないだろ。」
このやりとりは、もはや朝のお決まりのシーンだ。
「はぁ・・・、やはり私はふつくしぃ・・・。」
「ははははは、今日も俺様はグゥレイトゥだぜ!!」
「オウッ!!」
「ほら、起きなさいよゼロ!!早く起きないと昼飯も抜きだよ!!」
「ご飯、食べたい・・・。でも、寝たい・・・。」
「やれやれ、ここの連中は本当に好き勝手じゃの。」
軽くカオスな状況になっているが、これもいつもの風景だ。
と、そこへ状況を変える一手(?)が打たれた。
外でシルフィードがスバルに逆セクハラをしたのだ。
それに反応したのがまずインフェルニウス。
「あ、疾風刃なんてうらやましいことを!スバルは俺のよmがふぁ!!?」
不穏当な発言をした彼に、漆黒の棍棒が突き刺さり強制沈黙させる。
そして、それを放った人物は当然。
「・・・スバルの嫁はボクだ。すっこんでろよこのへんたい・・・。」
ヤンデレ少女・シャドウゼロ覚醒のお時間である。
「はぁ、やっと起きたかい。そんじゃとっとと顔洗って朝飯食べな・・・て聞いちゃいないか。」
ガイアードの言葉が耳に入っていないのは一目瞭然である。
何せ彼女ときたら目は暗い紫色になってるし、きれいな銀の髪は逆立っているし、足元の影からは触手のようなものがうねうね伸びている。
どう見ても怒ってます。
「あのどろぼうねこ・・・お仕置きが必要だね・・・。」
そう言うと、彼女は影の中に潜っていった。そしてその次には、シャドウゼロが『撲殺黒棍棒』片手にシルフィードを追い回している映像が流れ込んでくる。
大慌てでそれを止めるスバル。そしてスバルの腕に抑えつけられて幸せそうな表情をしているシャドウゼロ。
もはやお決まりの光景である。
「あ〜、死ぬかと思った。つうか止めてよ地母神。」
「あたしゃここの子たちには自由にやらせてやりたいからね。」
「それはいくらなんでも寛容というレベルを超えとるぞ、地母神。」
「オウッ!!」
「ああ、大丈夫か我が盟友インフェルニウス!!」
「・・・ああ、何とかな。俺じゃなけりゃ死んでたぜ、あの娘っ子め!!」
「・・・ただいま。しあわせぷらすいち・・・。」
ここにはまともなやつなんかいねえのである。
昼間。基本的に精霊たちは各々思い思いに、魔力空間の中で時を過ごす。
召喚魔術を使うことなど滅多にない。そんな大規模な戦闘がそうぽんぽんあっても困るのだ。
だから、たいていはここで過ごす毎日だ。
とは言ってもやはり例外はおり、シルフィードなど外が好きでよく出ているし、シャドウゼロもスバルと一緒にいたいらしく毎日のように外に出ている。
そんな彼らであるが、ずっと魔力空間の中にいるのでは当然飽きてくる。何かあればすぐにでも外に出たいのだ。
「にしても、ここんとこ小競り合いはあるけど、ほんと平和ねぇ。」
ブレイジアの毛繕いをしながら、シルフィードが言う。その言葉どおり、ここのところ戦いそのものが少ないのだ。
これが少し前だったら、やれモンスターだ、やれ敵だ、やれ精霊契約だと戦闘続きであった。
まあ、平和なのはいいことなのだが、それでも時々は運動しないと体がなまってしまう。精霊の身でそんなことが起こるかは定かではないが。
「ふむ、となるとここは・・・ロバートの解剖をしよう!!」
いきなりぶっ飛んだ発言をするのはボルタ。彼は自他共に認める『マッドドクター』である。これさえなければいい人なんだけど、とガイアードはいつも頭を抱える。
そして真っ先に反応するはオンディーヌ。
「貴公・・・私がそれを許すと思うのか?」
言いながら水の槍を構える。
「助太刀するぜ、我が友オンディーヌ。我が友の敵ならば、俺の敵だ。」
「感謝する、我が盟友インフェルニウス。」
そう言ってがしっと抱き合う男二人。ちなみに火と水なのでじゅうじゅうと音を立てていたりする。
「お前がそっちなら・・・ボクはこっちだ・・・。」
と、今まで傍観を決め込んでいたシャドウゼロもボルタの側につき参戦表明する。
彼女にとって大事なのはロバートの安全よりも、スバルの身(あらゆる意味で)の安全なのである。
「ほほう、お主にもわしの崇高な理念が理解できるかね?暗黒眼。」
「お前の理念はどうでもいい・・・。」
冷たくあしらうシャドウゼロ。それにちょっと肩を落とすボルタ。彼としてはシャドウゼロは可愛い孫のようなものなのだが。
「どうしても退かぬか?」
「わしにはこの世界の科学を発展させるという使命がある。」
「娘っ子、今日こそ決着をつけてやる!今日こそはっきりさせてやる、スバルは俺の嫁だ!!」
「・・・スバルの嫁はボクだ。お前なんかに渡さない・・・。」
魔力空間に緊張が張り詰める。傍らでは『やれやれー!!』と無責任なことを言いながらシルフィードが傍観している。ブレイジアの毛繕いしながら。
そして・・・。
「いい加減にしなよ、あんたたち!!」
怒声とともに、衝撃波が走る。予想外の方向からの一撃に、全員思わず吹っ飛ぶ。
それを放ったのは、皆の『肝っ玉母ちゃん』ことガイアード。
「くだらないことでケンカしてんじゃないよ!それとボルタじいさん、あんたはいい歳なんだから自重って言葉を覚えな!!」
「な、何を言うか地母神!自重など持っては科学の発展は」
「へ・ん・じ・は?」
「・・・イエス、マム。」
こういう状況になっては彼女に逆らえるものはいない。
「全くここの連中ときたら血の気が多くって困っちゃうよねー、地母神。」
「止めなかったあんたも同罪だよ、シルフィー。」
そう言って拳骨一発。というわけで、被害を被らなかったのはブレイジアのみとなる。
「・・・しかし、確かに困ったもんだね。皆最近力を使ってないから、鬱憤がたまってるんだねぇ。」
正座する皆の前で、ため息をつくガイアード。
と、そこへ。
『聞いて、精霊たち。今から野盗のアジトを潰す。面倒だから星の光を使うから、皆出てきて。』
カデナの思念が飛んできた。そしてほぼ全員の顔に笑みが浮かぶ。
「へへ・・・やっぱりこうじゃなくちゃな。」
「血気盛んだな、我が盟友インフェルニウス。しかし星の光か・・・やはり私はふつくしぃ!!」
「どこをどうやったらそういう結論になるのかしら?でも・・・久々の戦闘(?)だー!思いっきり暴れるぞー!!」
「星の光一発で決まるだろうから・・・戦闘はないと思う・・・。でも・・・スバルと一緒に戦える・・・。」
「オウッ!!」
「やれやれ、本当にここの連中ときたら全く・・・。」
「そういうお主も楽しそうではないか?地母神よ。」
それぞれに軽口を叩きながら、精霊たちは魔力空間から現実へと転移していった。
この日、7体の精霊たちははっちゃけすぎて星の光を撃った後も暴れ回り、野盗(結構悪名高かった)達が泣いて謝ってくる始末だった。
ちなみに、アキラたちはほとんど何もしなかったそうな。
その日の夜。
「いやー、久々に運動したから疲れた疲れたー♪」
シルフィードは満足そうにごろ寝しながら言った。
「お主は一番動いとったからの、あんだけ動きゃ満足じゃろうて。」
白衣を脱いで布団を敷きながら(何故かあるのだ)、ボルタが言う。彼自身、気が晴れた表情をしている。
「ふぅははぁ!!まだ血が滾ってるぜぇ!!」
「貴公には血はないだろう、我が盟友インフェルニウスよ。」
言いながら、インフェルニウスは炎で、オンディーヌは水で、それぞれベッドを作っている。
「オウッ!!」
「あんたも楽しかったのね、凍土獣。」
ブレイジアはシルフィードの横になる。そこが彼女のポジションだ。
「さあさ、あんたたち。明日も朝早いんだから、とっとと寝た寝た。」
ガイアードは置物のように体育座りして寝る。体が岩で構成されている彼女には、それが一番自然なのだ。
「ボク、まだ眠くない・・・。」
闇の精霊であるシャドウゼロは、その言葉どおりまだ眠くなさそうな表情だ。だが、しっかりとパジャマを着ていたりする。
「ダメだよ。あんたは特に朝弱いんだから。精霊殿に居たときはともかく、今は旅の途中!早寝早起きは基本だよ!!」
「じゃあ、いつもの昔話して・・・。それ聞いたら寝るから・・・。」
地の精霊と闇の精霊。種族は違えど、その姿はまるで母と娘のようだった。
ガイアードは一瞬、ほんの一瞬だけ、今は亡き自分の子のことを思い出して、懐かしむような表情を見せた。
「あたしも聞きたーい!」
「オウッ!!」
「地母神の話は面白いからな。俺も聞きたいぜ。」
「私もだ。無論、私のふつくしさにはかなわぬが・・・。」
「海龍王は無視するとしといて、わしも聞きたいのぅ。お主の話は大変に興味深い。」
全員が、ガイアードの話に耳を傾けようとする。
それを見て、ガイアードは。
「全く・・・、あんたたちは。」
とどこか嬉しそうにため息をついた。そして
「むかーしむかし、と言っても今からほんの500年前の話だ。あたしがまだ駆け出しだった頃、ヘンテコな格好をした魔導士が・・・。」
ガイアードの優しい声音が、昔語りをつむいでいった。
一人二人と眠りに落ちていき、六人目には必ずシャドウゼロ。
そして最後にガイアードも眠りに就き。
静かに夜は更けていく。
このお話はアキラが『閃光の勇者』と呼ばれることになる事件の少し前の、そんな平和な一日のお話・・・。
久々に俺のオリジナルキャラクターのみの小説。意外ときれいにまとめられたので満足している。
それでは次回から、引き続きスバルやアキラ、大地のどたばた劇をお楽しみください。
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