2008/10/13
スバル話続き&狩り物競争編完結
藍蘭島SSはこういう完結形式で書けるからいいね。
お題:剛剣士・スバル=スカイバーグを単身『藍蘭島』に放置してみた3
やあ!皆のヒーロー・スバル=スカイバーグだよ!!
俺は今、『第二回婿殿争奪戦』だとかで、『狩り物競争』とかいうのに狩りだされている。
第二回ってことは、第一回もあったんだろう。行人に激しく同情するぜ。
まあ、とにもかくにも、勝手に人の結婚相手を決められたらたまったもんじゃねえ。俺はそれを阻止すべく参加を決意したんだ。
俺の狩るべき獲物はりん、しのぶ、まち、行人の4人。俺はいまだ一つの獲物も狩れていない。
そして、俺についた協力者。ゆきの、ちかげ、梅梅、遠野。遠野は参加者じゃないんだけどな。モンスターだし。
こいつらは結構獲物を集めてる。特にちかげなんかは、あとまちをしとめるだけでクリアだ。
ただしそのまちなんだが、俺は詳しく知らないがこの島屈指の実力者らしい。
だから俺たちはこうして共闘関係を結んでいる。
のだが。
「急いで!まち姉ぇの式神を見失っちゃう!!」
何故か獲物・獲物でないものたち含めて、俺を初めゆきの・すず・あやね・りん・しのぶ・ちかげ・梅梅・遠野全員で共闘関係を結ぶことになった。
その理由というのが、今追っているこうもり型の使い魔――式神だ。
どうやらあれはまちの使役する式神らしく、それがずっと俺たちのことを監視していたのだ。
それが突然、西の大楠に向かって飛び始めたのだ。
西の大楠はこの競争のゴール地点。つまり、このまま放っておけばまちが優勝しちまう。
それを阻止したいのはここにいる全員の共通意見だ。だから、こうして全員で共闘することにし、全力で走っているわけだ。
説明終了。
「くそ、意外と速ぇじゃねえか!!」
こうもり型ということは、空を飛んでいるということだ。だからなかなか素早い。
ここであの神速小僧だったら、苦もなく打ち落とすんだろうな。頭にくるけどそこんとこは認めてる。
「(ていうかさ、スバルの持ってる剣って凄く重たいんだよね。何で全力で走ってる私たちと同じ速さなんだろう?)」
「(気にしたら負けよ、すず。)」
そして俺たちは、ゴール地点の大楠にたどり着いた。
既に確認していることだが、俺たちは全員獲物にまちの名が入っている。
つまり、まちを倒さない限り勝利はないし、まちを倒したものが勝利するというわけだ。
「まち姉ぇ!!」
すずが叫ぶ。そしてそこには、式神5体を使役しているロリ巫女がいた。
なるほど、こいつがまち、か。あやねの姉だと聞いてるが、確かにあやねに似ている。
「お前が『まち』か。俺はスバル=スカイバーグ。」
面識のない俺だけが、自己紹介をする。
「あなたが新入りね。そう、私がまちよ。」
まちは眠たげな瞳で不敵に笑っていた。・・・こういうやつは何考えてるかわからないから苦手だ。
「ここにいる全員、お前が獲物に入ってるもんでな。俺としてはタイマンがいいんだが、そうもいかねえ。
悪いけど、全員でいかせてもらうぜ。」
鞘に納まった剣をまちに向ける。だがまちはくすくすと笑い。
「そのくらいがちょうどいいかしら。それに、一片にやっつけちゃって、早く行人様の勇姿を観戦したいしね。」
行人だと?
「あ、あれ!!」
すずが叫んで指差した。
そこでは、行人が何かと戦ってた。
その何かとは・・・。
「鶏?」
そう、一羽の鶏だった。・・・行人、俺が結構大変な思いしてる間にお前は何してたんだ?
目がすわってくるのがわかった。
「そんな、からあげと戦ってる!?」
「ってことは、行人様は東西南北の主様たちと戦ってきたの!?」
が、何だか皆驚いてるんだが。・・・鶏と戦うことがそんなに凄いんか?
「なあ、ちょっといいか?」
「何?」
「主って何だ?」
「主っていうのは、東西南北の森でそれぞれ一番強いもののこと。行人様は東、南、北の主様たちと戦って、勝利を収めてきたの。」
一番、強い?
俺はさっきまでとは別の意味で目が細まるのを自覚した。
「へぇ・・・、行人はそんな楽しそうな戦いをしてきたのか・・・。俺もそっちのがよかったな。」
「随分自信家なのね。そういう人も好きよ。でも、私も結構強いのよ?」
まちが式神をこちらに向ける。
「ああ・・・、俺をがっかりさせないでくれよ?」
口元に最高の笑みをたたえて、俺は剣を構えた。皆それぞれに構える。
そして、戦いの火蓋が切って落とされた。
「くまくまー!!」
ぐるー!!
ゆきのの号令一下、くまくまが飛んできた式神の一体を抑える。
「おらぁ!!」
りんが別の式神と取っ組み合う。
その隙にしのぶが木刀で一閃するが、かわされる。
「こっちだよ!!」
「ひゃやややーん!!」
すずと梅梅がこうもりたちをひきつける。
そして。
「行くぜおい!!」
俺はまちに切りかかった。だがまちはそれを苦もなくよけ。
くわぁ!!
「あなたとやりあうのも久しぶりね!」
遠野とまちが互角に打ち合う。ていうか、その動き明らかに巫女関係ないよな?
俺は援護代わりに。
「大震撃!!」
剣を地面に突き立てる。だが、それは遠野が飛ぶのと同時にまちにもかわされた。
「あなたのことは競争が始まったときから監視させてたわ。だから、その攻撃も知ってる。」
ち!!なら、これならどうだ!!
「グランドブレイク!!」
俺は今度は剣を地面に強く打ち付ける。その威力で大地の一部が爆ぜ、岩弾となってまちに注ぐ!
だがまちは、悠然とそれをかわした。
――面白えじゃねえか!!
「今ですの!!」
「悪いわねお姉さま!私の勝ちよ!!」
その時、ちかげとあやねがまちが置いていた箒に飛び掛かった。
しまった!ちかげはあれでゴールしちまう!?
共闘していると思って油断していた。
だが、それを見たまちはくすりと笑った。
次の瞬間、箒が素早く動き。
『あら?』
ごちん!!
目標を失ったちかげとあやねが頭から衝突した。うわ、ありゃ痛い。
「紹介するわね。私の新しい式神、『村正』よ。」
「え、ええ!?『村正』って妖箒じゃなかったの!?」
「妖箒『村正』を式神化して契約したのよ。どう、驚いた?」
皆の驚く顔を見て、心底楽しそうに笑むまち。
「へえ、なるほどね。戦いがいがあるじゃねえか。」
ますますもって面白くなってきた。
今この場で笑みを浮かべているのは、俺とまちのみ。だがその質はまるで違う。
まちは圧倒的優位に立つものの余裕の笑み。俺のは戦いにおける恍惚の笑み。
だから、皆が不気味がってるのも仕方ないかもしれない。
「余裕そうじゃない。でも、これを見ても笑っていられるかしら?」
まちは俺の笑みをそう解釈したらしい。
『村正』が光を溜め、放った。
「危ねぇ!!」
俺は間一髪かわしたが。
くわぁ!!
ぼん!!
「遠野!?」
遠野はかわしきれなかった。
く、遠野・・・!!
だが、土煙が晴れた頃には、何事も起きていない遠野がいた。
「ほ・・・、なんともねぇじゃん。」
だが俺の言葉を聞いて、まちはいっそう笑みを深めた。何だ?
その次の瞬間、ことは起きた。
くわ!?(訳:あ、あちきの水筒が!?)
遠野の背中の甲羅から、水筒が零れ落ちた。カッパというモンスターは頭の皿が乾くと活動できなくなるらしく、遠野は水を持ち歩いていた。
それが甲羅から飛び出し、坂道を転げていったのだ。
くわ〜・・・。(訳:ま、待って〜。)
慌てて追いかける遠野。
ずる。くわ?
そして遠野の足元には『運悪く』バナナの皮が投げ捨てられていた。
結果。
くわ〜〜〜〜〜!?
「と、遠野サーーーーン!?」
遠野は坂道を転げ落ちていった。あの様子では戦線復帰は無理だろう。
「ふふ、驚いた?これが妖箒『村正』の呪いが元になった式神『村正』の能力・『食らうと1日ベタな不幸に見舞われる光線』よ。」
・・・なんてあほな能力だ。
だがしかし、浴びれば戦線復帰が無理になることは遠野で証明された。
そして次なる犠牲者が出る。
「くまくまー!?」
式神の一体相手に激戦を繰り広げていたくまくまに、その『不幸弾』が当たった。
ぐる〜?
するとくまくまの頭上から蜂の巣が落ちてきた。くまくまはそれをナイスキャッチ。
喜んで蜂蜜をなめだすくまくま。
「だ、だめよくまくま!そういう蜂の巣っていうのはたいてい」
ぶ〜ん。
ゆきのの言葉を皆まで言わせず、蜂の大群がくまくまに襲い掛かってきた。
たまらず、くまくまは逃げ出してしまった。これでゆきのは無力化された。
「どう、なかなか凄いでしょ。」
・・・確かに、あっという間に戦力を激減させられてしまった。
だが、それなら食らわなければいい。
「あら、それでもまだ余裕そうね。」
「ああ、むしろやっと戦いがいが出てきたってもんだ。」
不敵に微笑む俺とまち。
「そう、なら受けてみるといいわ。やりなさい、村正。」
三度村正が光線を放つ。だが俺は回避行動をとろうとしなかった。
「だ、だめ、スバル!避けて!!」
すずが叫んだ。これでいいんだよ、すず。
――俺は避けたりするんじゃなくて・・・
ぶん!剣の鞘を緩め、降りぬく。それにより、七色に輝く刀身が現れた。
――敵の攻撃は全部叩き落すんだよ!!
そして輝く剣は、村正の不幸弾を霧散させた。
「あら。」
まちは流石にちょっと驚いたような表情をした。まさか弾かれるとは思ってもいなかったんだろう。
「へ・・・。妖箒だか式神だか知んねーけどよ。俺の剣だって立派な『星剣』だぜ。」
だから、耐魔・退魔性能は高いし、村正の不幸弾も軽く消し飛ばせる。
俺は改めて剣を構えた。
「あらあら・・・うふふ。」
まちは楽しそうに笑っていた。これでも余裕とは、この島屈指の実力者ってのは嘘じゃないらしい。
そして、そんなやつとの戦いが楽しくて、俺も笑っていた。
「へへへ・・・。」
「うふふふ・・・。」
「わ、笑ってる・・・。」
「むぅ、流石まち殿。しかしスバル殿も凄いでござる。」
「す、スバル頑張れー、まち姉ぇに負けるなー!!」
「が、頑張ってくだサイー!!」
「行人・・・。」
「ちょっと・・・あんたら私たちのこと完璧に忘れてるでしょ・・・。」
「というか、すっかり観戦もーどですの・・・。」
他の面子はそんな感じだった。いや、お前らも一緒に戦えよ。
「それじゃあ、奥の手を出すわ。集まりなさい、式神たち!!」
まちが式神を一箇所に集めた。そして
「式神合体!!」
式神がまばゆく輝き合体を果たした。
閃光が収まる頃には、その式神が姿を表していた。
「式神『てるてるごっち一二三式村正』!!」
『名前長!!』
「へへ、いい名前じゃねえか!!」
『嘘ぉ!?』
それは、頭が村正、顔が龍っぽい式神、体がマッスルで羽が生えた、6体それぞれの特徴を合わせた巨大な式神だった。
これがまちの奥の手か。
「なら、正々堂々だ。俺も奥の手を見せてやる!!」
叫ぶと俺は、『セブンスター』を天高く掲げた。
『セブンスター』――直訳すれば『七ツ星』。それは文字通り、7つの属性の力を宿す。
これはその一つ!!
「『赤』く燃え上がれ!!」
豪!!という音を立てて、刀身が炎に包まれた。
カデナの魔術には遠く及ばないながらも、これにより一人魔法剣が可能なのだ!!
「あらあら、素敵な力。」
まちは、その光景を見て恍惚の表情を浮かべた。ちなみに、他の面々はというと。
「あ、あんな剣反則でござる!!」
「ていうか、あたしらほんととんでもないやつ相手にしてたんだな・・・。」
「やっぱスバルって面白い!!」
「ひゃややや、凄い手品デスヨー!!」
「行人、大丈夫かな・・・。」
「・・・うふふふふ、スバルがお姉さまを倒した後隙をうかがって・・・。」
「あやねさん、全部声に出てますの。」
一部こっち見てないやつがいるが、まあいいだろう。
そんじゃ、お互い本気になったところで。
「行くぜ!!」
俺は体をひねり、剣を大きく引く。
「火球弾!!」
そして言葉とともに振りぬく。それにより3発の火球が生み出され、てるてるごっち一二三式村正(やっぱ長いな)へと飛んでいった。
だがやつは。
「な、消えた!?」
一瞬にして移動し、簡易火球弾をかわしていた。
「うわっ!?」
そしてそのまま、りんの髪留めを奪い取っていた。
りんは高速で持ち物を奪われたことにより、回転して気絶してしまった。
「まずは一人。」
くすくすと笑いながら村正にりんの髪留めをしまうよう指示するまち。
なんてやつだ!!
「おそらく、一・二・三式の機動力とてるてるまっちょの怪力・器用さが合わさっているんですわ。」
いつの間に復活したのやら、ちかげが俺の近くまでやってきて教えてくれた。
なるほど。強敵じゃねぇか。俺はますます笑みが深くなるのを自覚した。
速くて強い。ならまずは動きを止めることだ!
「まだまだぁ!!」
俺はさらに火の弾を打ち出す。だが、それは当然よけられる。そして合計10発の炎を打ち出すと、剣から炎が消え去った。
それを好機と見たか、村正は俺の方へ迫ってきた。
だが、それこそ俺の狙っていたこと!!
俺は剣を下に構えなおし。
「『橙』に砕けろ!!」
叫ぶ。同時に、剣に橙色の輝きがまとわりつく。
そのまま、俺は剣を地面に突き立てた。
「大地槍撃!!」
そして力を全解放する。途端、俺の周りに大量の岩の槍が飛び出す。
突然現れた障害物に、村正は驚き進行を止める。そしてこれこそ俺のチャンス!!
「かかったな!!喰らいやがれ!!」
俺は高く飛び上がり、既に橙色の輝きを失った剣を高く構える。
打撃力は少し落ちたが、今はこれで十分!!
腕に力を込め。
「イドブレイク!!」
全力で振り下ろした!剣の腹で頭をはたいて気絶させてやる!!
だが、流石は俺が認めた強敵!そう一筋縄ではいかなかった。
その瞬間、村正は拳を突き出し俺の剣を止めやがった!!
「な、あれを止めるなんて!!」
後ろではちかげが驚いているが・・・やっぱ闘いはこうでなくっちゃなぁ!!
俺は反動で後ろに飛ばされ、着地する。そして再び剣を構え。
「・・・いったー!!」
突然まちが手を押さえて叫び声を上げた。は?
何ゆえまちが痛がっているのでしょうか?
「あ!わかったわスバル!!式神の大きな力を使うとき術者は何らかの代償を払うって聞いたことがあるけど、村正の場合『感覚の共有』なんだわ!!」
あやねが解説を入れてくれる。あー、なるほど。俺のイドブレイクを村正は拳で止めたからなー。
数百kg+俺のパワー+落下速度。そりゃ痛いだろ。よく見れば村正も微妙に涙目になってるし。
「お姉さまは打たれ弱いから、村正に防御させてれば勝てるわ゛っ゛っ゛っ゛!?」
あやねが言葉の途中でのた打ち回りだした。まちが藁人形に五寸釘ぶっ刺してるけど。なるほど、呪術か。
『ごっすんごっすん五寸釘ー』とかいう電波を受信した気がするが、気にしないでおこう。
ともかく、弱点が見えちまったな。
「こりゃあ、あっけない幕切れになっちまうな。けど、自分の修行不足と思って諦めてくれや。」
「あら、勝利宣言?私はそんなに簡単に負けないわよ。」
かもしれないけどな。やっぱ俺の勝ちだよ。
俺は剣を後ろに構え。
「『緑』に吹き巻け!!」
剣に風と緑の輝きを纏わせる。これにより、『セブンスター』の切れ味が大幅に増す。
だが、それは今回の目的ではない。俺は即座に力を解放する!
「竜巻唱(後ろ向き)!!」
剣に纏った風の力が爆発し、竜巻を起こす。その推進力で、俺は一直線に村正に飛んでいく。
「なっ!?む、村正よけて!!」
まちが慌てて指示を出すが、もう遅い!
俺はすぐに剣を構えなおし、必殺の一撃を放つ!
「スラッシュブレイク(剣の腹バージョン)!!」
体を横に倒し、回転の勢いで剣を振り下ろす。先ほどのイドブレイクを上回る速さの一撃は、回避も防御も許さず。
『ぺぽっ!?』
村正の脳天に直撃した。妙な声を上げて、まちも村正も気絶する。
直後、合体式神の術が解け、元の6体の式神に戻る。まちの持ち物は『箒』だったな。
俺は村正の足をむんずと掴み、りんの髪留めも回収する。
「とったどーーーー!!」
そして勝どきの雄たけび。一気に獲物2個回収完了だぜ!!
そしてくるりと後ろを向き仲間達にガッツポーズを――
「あれ?」
「あれ・・・じゃ、ないですの・・・。」
後ろにいるはずの仲間達は全員吹っ飛ばされていた。
・・・・・・・・・・・・・・・。
あ、最後の竜巻唱!!
「あー、その、悪ぃ。後ろにお前らいること完全に忘れてた。」
「スバル、今日、ご飯抜き・・・がく。」
ゆきのが俺に罰を伝え、気絶する。てちょっと待て!ご飯抜きは勘弁して!!
だが、ゆきのは揺さぶっても目を覚まさなかった。・・・こうなったら、ゆきのが目を覚ましたら土下座して許してもらう他はない。
と、そうだ。俺の獲物はあとしのぶと行人。
しのぶは竜巻にあおられて完全に伸びてる。・・・ちょっと気が引けるが、俺の人生がかかってるんだ。勘弁してくれ。
ということで、しのぶの木刀もゲットし、残るは行人。俺は行人の方を見た。
どうやら、あっちも終わったらしい。行人が鶏――西の主からメダルを受け取っている。
向こうも俺の方を見る。
俺達は申し合わせたように近づいていった。そして、お互いの間合いの少し外で止まる。
「よう、行人。お前は全部の獲物をゲットできたみたいだな。」
「うん、まあね。ぎりぎりだったけど・・・。そういうスバルはどうなの?スバルもこの競争に参加してるって聞いたけど。」
「俺は今三つだ。あと一つで、俺も全部ゲットだ。」
「・・・一応聞いておくけど、その一つって、誰の?」
もう察しがついてるみたいだな。
「お前の想像通りだ。」
「・・・そっか。こっちはもう体力残ってないんだけどな、ははは。」
「そう言いつつ、その構えた木刀は何だよ。やる気まんまんじゃねーか。」
俺も鞘に収めた剣を構えてるけどな。
俺達はしばしにらみ合い、確信する。この決着は一撃で決まると。
場に緊張があふれ、どんどんと高まっていくのがわかる。もし気迫だけで大気が揺れるなら、ここは大嵐になっているだろう。
視線がお互いの隙を探す。剣を握る手に力がこもる。地を蹴るべく足が今か今かと脈動を打つ。
ふっと、緊張が切れた。
行人の体が前のめりに倒れたからだ。
「おい、行人!!」
俺は駆け寄った。行人は眠っていた。・・・『体力の限界』っつってたな。本当に立ってるのも限界だったんだな。
まったく、俺よりも弱っちいくせに無理しやがって。
とことこと鶏が俺に近寄ってきた。
「やあ、君がスバルクンだね。僕は西の主のからあげ。」
「ああ、さっきすずたちから聞いたよ。西の森で一番強いんだって?」
「まあね。そして行人クンは」
「東西南北全ての主を倒した、だろ。全く、ずりぃぜ。そんな面白そうなことしやがって・・・。」
「なるほど。行人クンの言うとおり、君はなかなか戦闘狂だね。」
「そんなんじゃねえよ。男なら強いやつと戦って楽しくケンカするもんだろ。」
それが戦闘狂っていうんだけどね、とからあげは笑った。・・・そういや俺、いつの間にか動物としゃべってるよ。
ま、いっか。
「で、君はどうするの?君の最後の獲物は行人クンなんだろ。」
「ああ・・・。」
「取ってかないの?それで君は優勝して、誰かと結婚させられることはなくなるんだよ。」
「・・・ああ!くそ!!」
がばっと、俺は行人の体を担ぎ起こした。
じいさんは言ってた。『試合に勝って勝負に負けるぐらいなら、試合に負けて勝負に勝て。それ以上に試合にも勝負にも勝て。』
だが、どう見てもこの勝負は行人の勝ちだ。このまま試合に勝つのはしゃくだ。
だったら、試合にも勝負にも負けてやるさ!!
「・・・君も相当不器用な生き物だね。」
からあげがくつくつと笑ってやがる。へ、俺もそう思うけどな。
「器用に生きてる俺なんて、全っ然っ、俺らしくねーんだよ!!」
言って、俺は行人の手を大楠につけてやった。
これにて、『狩り物競争』は行人の優勝という形で、幕を下ろした。
「へっ?僕の優勝?」
目を覚ました行人は呆けた表情をしていた。
「だ、だって僕、最後のスバルとの一騎打ちの前に気絶して!」
「けどその前にお前は全ての主に勝ってたんだろ?だったらお前の勝ちだ。」
「でも!ルールでは『全ての獲物の持ち物を手に入れて大楠に最初に手をついたものの勝ち』なんだから、まだあの時点で僕の勝ちじゃ」
「ああもう!ごちゃごちゃ言うな!!俺が負けを認めたんだからお前の勝ち!それで納得しろ!!」
「納得できないよ!!」
村の連中が全員集まってきても、俺達はなおもぎゃあぎゃあと言い合っていた。
「ううぅ・・・。」
「ど、どうしたんじゃみちる?ていうかお主、何のために大楠の上にいたんじゃ?」
「だってだって、『おとこのゆうじょう』というやつに感動しちゃったんですもん・・・。」
どうやらゴール地点で罠を張って待ってたやつがいたらしいが、俺達の一連のやりとりに見とれてしまって手出しができなかったらしい。
ふ、粋な男ってやつは罪なもんだぜ。
「もんだぜ、じゃなーい!!ゆきのたちのことふっ飛ばしといて行人に優勝譲るってどういうことよ!!もースバルは本当に今日御飯抜き!!」
うえぇ!?
「ちょ、マジそれは勘弁して!!俺マジで腹減ってるんです!!飯抜かれたらマジやばいです!!」
土下座する俺。どっと、ギャラリーが笑い出した。
「ちょ、こんなところで土下座しないでよ!恥ずかしいじゃない!!」
「いーや、飯抜きを撤回してくれるまでは土下座を続けるぞ!飯のためだったらプライドも捨てる、俺はそんな男だ!!」
冗談抜きでね。あ、いや、流石に剣士としての誇りは捨てねえか。
「・・・あーもう!わかったから、わかったから立ってよスバル!!」
「本当か!?」
「本当よ!!」
「・・・へへ、悪かったなゆきの。」
俺は頭をくしゃくしゃと撫でてやる。それでゆきのは真っ赤になってしまった。
あ、ゆきのって子ども扱いされると怒るんだったっけ?やべ、まずった?
なんてことを思ったが、ゆきのは別に怒っている様子ではなかった。なんか知らんけどラッキー。
「さて、漫才はその辺にしてもらおうかの。それでは行人よ、優勝者としてお主に月見亭一泊券をやろう。
して、誰と行くんじゃ?無論、お主が行きたくないというのなら使わなくていいのじゃぞ?」
・・・ん?ちょっと待てよ?
「行人が優勝ってことは、俺との結婚がうんたらってのは・・・」
「無論、無効じゃ。行人が男と結婚したいという変わった趣味を持ってれば別じゃがの。」
想像してちょっと青くなる俺と行人。・・・てことはだ。
「俺迷い損じゃん!?」
行人に優勝譲ったところで俺デメリットないし!?
「そもそも、お主との結婚と行人との月見亭一泊、島の娘がどちらを選ぶかといったら当然行人じゃろうな。行人はお主よりここにいる時間が長いんじゃし。」
・・・図ったなこのばばぁーーーー!!
「気づかんお主が悪いんじゃ。」
くそ、完全に遊ばれた!!あー腹立つ!!このばばぁ完璧楽しんでやがったよ!!
・・・けどまあ、これに参加したおかげで面白いやつらとも知り合えた。そこんとこだけは感謝しといてやんよ。
「さて、行人よ。どうするのじゃ?」
行人はしばし迷った後。
「僕は・・・。」
一つの答えを告げた。
あの後、行人はすずと一緒に月見亭という旅館に泊まりに行った。そう、行人が選んだのはすずだった。
俺にそっと教えてくれたんだが、『すずはもう僕にとって家族みたいなものだから』だそうだ。お熱いこった。
行人とすずの二人っきりを阻止すべく、まちを筆頭に、あやね、りん、しのぶ、ちかげ、梅梅、付き添いで遠野、そしてゆきのも、月見亭に襲撃をしかけた。
後で聞いた話だと、襲撃は成功したがひどい目にあったそうな。
そんなわけでこの日は、かがみちゃんの作った飯を食うことになった。
ていうかさ?娘にばっか作らせないで自分も作りなよ。結構普通に美味かったぜ?
それと。
「あの、スバル。」
この日、島の娘たちが俺を訪れてきた。
「あん?ああ、確かしおりとややとなつだっけ?どした?」
「あんな、昨日は『悪ガキ』なんて言って、ほんとごめん!!」
ああ、なんだそのことか。
「それなら気にすんなよ。俺が悪ガキなんてのは自分が一番自覚してんよ。前いたとこでは、町一番の悪ガキって評判だったしな。」
かっかっか。
「そ、そっか・・・。そ、それでな!よ、よかったら、これからは仲良くしていこう、なんて・・・。」
「ああ、いいぞ。よろしくな、しおり!!」
俺は右手を出した。そうしたら三人は、顔を赤らめながらも笑ってくれた。
「あ、そういやちゃんとした自己紹介がまだだったな。俺の名前はスバル=スカイバーグ。改めてよろしくな。」
「・・・ああ、よろしく、スバル!!」
こうして、俺はこの島の住人と一つ仲良くなった。
・・・何だか深い沼にはまって抜け出せなくなっていく気がするが、気のせいだ多分、うん。
藍蘭島SSはWikipedia必須なのがいけてないね。
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