2008/10/13
頑張りすぎた
シャドウゼロ可愛いよシャドウゼロ。
お題:スバルのいる藍蘭島に暗黒眼シャドウゼロが訪れたようです
それは、藍蘭島全体を巻き込んだ第二回婿殿争奪戦『狩り物競争』の二日後の出来事だった。
昨日雪の精『小雪』と契約し、夏の暑さにも耐えられるようになった雪女の半妖・みちるは、日の下を歩けることの喜びをかみしめながら散歩をしていた。
「はぁ〜、やっぱり太陽の下を堂々と歩けるっていうのはいいですねぇ〜。」
う〜ん、と伸びをし、太陽の光を浴びるみちる。
彼女にとって今まで、太陽の下というのはただ命を削るだけの有害なものでしかなかった。それがいまや、普通の人間並みに日の下を歩けるのだ。
その喜びや、推して知るべし、である。
彼女は今、日陰を一切通らず村を一周している。以前の彼女ではできなかったことだ。
テンション高く、歩き続けるみちる。
そして再び、村の入り口まで戻ってきた。
「ふぅー、散歩はいいですねぇ〜・・・?」
最初は気のせいかと思った。だが、それは見間違いでもなんでもなく。
入り口に誰かが倒れていたのだ。
「!大変・・・!!」
みちるは大慌てでその人をおばばの家へと運んだ。
それは少女だった。肩にかかるほどのきれいな銀髪。雪と見間違えるほど白い肌。そして可愛くも美しい容姿。
着ている衣装が神に舞を捧げる踊り子のようなものであることもあいまって、どこか人間離れして見えた。
だがそんなことよりも、みちるは一刻も早くおばばにこの子を見せなければと思い、彼女に出せる全力で走った。
ちなみに、のろかったが。
「ふむ、外傷はないし熱もない。ただ衰弱しとるだけじゃ。」
おばばの診断を聞いて、みちるはほっとため息をついた。
「・・・でも、この子はどこの子でしょうか?こんなキレイな子、見たこともないですよ。」
そう、この島でこのような少女は見たことがなかったのだ。ここまで美しい少女なら、もし見たことがあれば絶対忘れられないだろう。
つまり、この少女は島の外からやってきたということになる。
しかし、それはそれでおかしな点が幾つかある。
まず第一に、彼女の服は一切濡れた痕がないのだ。もし波に飲まれやってきたなら、服はびしょぬれになったはずだ。
第二に、村の入り口で倒れていたということ。何故海岸ではなく村の入り口なのか。
自力で歩いてきたという可能性はなくもない。だがそれなら、海岸で目撃証言が出るはずだが、今のところそれはない。
ともかく、普通の少女でないことは一目瞭然だ。ひょっとしたら妖怪の類かもしれない。
「・・・海龍神社に行ってまちさんを呼びましょうか?」
「うむ、呼ぶ必要はないかもしれんが、いつでも動けるように報告はしておいた方がいいかもしれぬ。」
もし彼女が妖怪で、さらには人に害を成す存在であれば。まちかちづるに頼んで封印する必要があるかもしれない。
だが、彼女を見ていると、果たしてそんなことをすべきなのだろうかとも思う。
彼女が妖怪であったとして、こんな幼い少女の姿をしたものを封印など。そう考えると気分がいくらか沈む。
そのとき、少女が寝言で一言つぶやいた。
「・・・ス・・・バ・・・・・・ル・・・」
おばばとみちるは、思わず顔を見合わせた。
それは紛れもなく、最近島に流れ着いた元気いっぱいの少年の名だった。
ひゃっほう!俺、スバル=スカイバーグ!!
この藍蘭島について早五日!だいぶ島にも慣れてきたぜ!!
この島は基本的に自給自足、だから俺も畑仕事の真っ最中だ!!
しっかし、ここの作物はやたらでっかいな!収穫しがいがあるってもんだぜ!!
そんなわけで、俺は今自分の力を最大限活かしてフィーバー中だぜ!!
「ほいさぁ!!」
巨大な芋を一人で堀り上げ、歓声が上がる。
「す、すごいなスバルは。僕がこの島に来たばっかりのときは、一人で掘れなくてショックを受けたのに・・・。」
行人がちょっとダークサイド行ってるが、まあしょうがない。
何せ俺は剛・剣・士!!背負った剣もン百kg!力で俺の右に出るものはいねぇぜ!!
「たかが剣で何百kgって・・・そんな大げさな。」
ほぉう?じゃ、持ってみるか?
行人に剣を持たせてみる。すると、持ち上げられずに剣は地面に沈んでしまった。
「お、重・・・。」
「な?だから言っただろ。」
俺はひょいと持ち上げ、再び背中に剣を収める。それでさらにショックを受ける行人。
「僕の14年間はいったい・・・。」
「あー、あれだ。お前も強ぇと思うぞ?ただ単に俺が力に特化してるってだけで、それだけが強さじゃねぇし。」
火の剣で戦って馬鹿強ぇ剣士もいりゃあ、平気で音速突破して強ぇ剣士もいる。要はそいつの持ち味だ。
そう言ってやったんだが、行人には理解できなかったらしく、凹みっぱなしだった。
「あー、じゃあ行人よ。お前、まちは強いと思うか?」
「え、ま、まち?う〜ん、確かに誰も逆らえない感じだけど・・・。」
「すずは?」
「え、す、すずは・・・うん、確かに強いね。」
「ちょ、ちょっと行人!?」
微妙に抗議の声を上げるすずだが、俺はスルー。
「だけど、まちもすずも行人よりも力はない。こう言や、少しはわかるか?」
「ああ・・・うん、なんとなく。」
「ま、そういうわけだから、そんな落ち込む必要はねぇって。つうかいつまでも凹んでんな!お前が弱弱だと俺がつまんねえんだよ!!」
俺は一喝してやる。
「スバルさんはほんと、根っからのばとるじゃんきーですの。」
「ちか姉ぇ、ばとるじゃんきーって何?」
「戦闘狂って意味ですの。」
こら、そこ。変なこと教えんな。
そんな感じで、俺達は面白おかしく、ときに激しく、村の仕事に打ち込んでいたんだが。
ふいに、殺気を感じた。方向は斜め30度上!!
「ふっ!!」
俺はそこに剣を一閃する。それは矢だった。・・・おいおい、殺す気か?
「あ、これみちるちゃんの矢だ。」
「って、今の間違いなくスバルに直撃する勢いだったよな・・・。」
「スバルだから大丈夫って思われてるんじゃない?」
あのなぁ!俺だって矢が刺さったら流石に死ぬわ!!
「う〜む、死ななそうな気もするでござるが。」
物騒なこと言うな、しのぶ。
「と、ともかく、手紙がついてますの。」
ちかげが矢についた手紙を手渡してくれた。
何々?
――今すぐおばばの家に来られたし。 おばば――
呼び出しかよ。何なんだよ、ったく。
「スバル、何したの〜?」
何もしてねーよ。
「ひょっとして、以前梅梅っちたちがやったみたいに畑荒らしたとか?」
してねーって。てかあいつらそんなことしてたのか?
「村に入る前にちょっとね・・・。悪気があったわけじゃないんだけど。」
ふ〜ん。
「まあいいや。とりあえず、何だか知らんけど、ちょっくら行ってくるわ。」
「あ、待ってよスバル。それなら僕も一緒に行くよ。」
「あ、私も。」
「ゆきのもー!」
「すずっち、ゆきの、抜け駆けは許さないよ!あたいも行くぜ!!」
「拙者も、拙者も!!」
「・・・結局いつものめんばーですの。」
そんなわけで、俺は大勢引き連れておばば家へ行くことにした。
「何か用かー、ばあさん。」
俺は戸を開けるなりおばばを呼んだ。お邪魔しますとか言えという話もあるが、あのばあさんに遠慮するだけ無駄だ。
「あれ、まちとあやね?」
「あら、行人様。」
「それに皆も。ぞろぞろとどうしたのよ。」
それはこっちの台詞だぜ。何でお前らがいるんだ?
「それはおばば様に呼び出されたからよ。詳しい話はまだ聞いてないんだけど。」
「あん?お前らも呼び出し喰らったのか。」
「ということは、皆も?」
「ううん。私達はスバルの付き添い。呼ばれたのはスバルだけだよ。」
すずが説明してくれた。ふぅむ、まちとあやねと俺。共通点ないけど、一体何事だ?
「ふむ、そろったかの。」
そうこうしていると、おばばが奥から出てきた。
「おう、ばあさん。言われたとおり来たぜ。何事だい?」
「それは私の方から説明させていただきます。」
おばばに伴って出てきたみちるがそう言った。
「実は今朝、私が村の周りを散歩しているとき」
『ぇええ、みちる(ちゃん)って散歩なんてできたの!?』
何を驚いているんだ?
「昨日雪の精霊と契約したんです!!ていうか知ってるはずの行人クンとすずちゃんまで何で驚いてるんですか!!」
「あー、そういやあんた、雪女とかいうモンスターのハーフだっけ?」
「もんすたーじゃなくて妖怪ですっ!!」
「あはは、みちるさん何を言ってるんですか。妖怪なんているわけないじゃないですか。」
「ええい!!静まらんか!!話が反れとるわ、この大戯けども!!」
おばばに怒られました。
いったん皆静かになり、みちるは一つ咳払いをし。
「ともかく、私が散歩をしているとき、村の入り口で一人の女の子が倒れているのを見かけたんです。
私は急いでおばばさまの下へその子を運び、幸いその子も衰弱しているだけで命に別状はなかったんですが・・・。」
何だよ、いい話じゃん。
「・・・その子はこの島で見かけない子だったんです。けど島の外から流れ着いたにしては変なところで倒れていたし、服も濡れていなかったから不信に思ったんです。
それがまちさんとあやねさんをお呼びした理由です。」
その言外に、それが人外の何者かである可能性があるという意味が含まれているのを、まちもあやねも感じ取ったようだ。表情が険しくなる。
「そして次に、スバルクンをお呼びした理由です。ひょっとしたら聞き間違いだったのかもしれないけれど、おばばさまも確かに聞いたというからお呼びしたんですが。」
もったいぶるな。一体なんだよ?
「その子は寝言で・・・『スバル』とつぶやいたんです。」
ん、あれ?何か今嫌な予感がしたぞ?
「えーっと、一応聞いとくけど、そいつはどんなやつだった?」
「え、ええっとですね、まず髪が銀色ををしてて、肩ぐらいまでありました。それで肌が凄く白くて、あと可愛かったですね。
服装は見たこともないような格好だったのでなんとも言えないんですけど、多分踊り子みたいな感じの・・・ってスバルクン!?」
そこまで聞けば十分だ!俺はおばばの家の奥に向かって駆け出した。
「スバル、どうしたの!?」
「ちょっと待ってよ、スバル!!」
「ていうか土足、土足だってばスバル!!」
後ろで何か色々言ってるが、今はそれよりも優先すべきことがある!
銀の髪、白い肌、踊り子みたいな格好っつったら、知ってるやつには一人しかいない!
「お前は一体・・・」
俺は障子を開け。
「何でこんなとこにいるんだ、『シャドウゼロ』!!」
布団の上で平和に寝こけている少女――闇の精霊『暗黒眼シャドウゼロ』に向かって叫んだ。
「しゃどう?」
「ぜろ?」
全員が一様に呆ける中、俺はシャドウゼロの肩を掴んでかっくんかっくん揺らしてやる。
「だ、ダメですよスバルクン!そんなことしちゃ!!」
「大丈夫だよ、こいつどうせ太陽の光に当たりすぎて弱体化してるだけだから!!」
命に別状はないし、体は人間なんかよりはるかに丈夫だ。そりゃもう、こうやって乱暴に起こしても平気なぐらいに。
「そ、それでも女の子に対してそんな・・・って、太陽の光に当たって弱体化?それ、どういう意味です!?」
「どうもこうもねえよ!こいつは俺の以前の旅の仲間で、闇の精霊『暗黒眼シャドウz!?」
皆まで言わず、俺は何かに口をふさがれた。
ていうか、俺の視界いっぱいにシャドウゼロの顔があるんですが。しかも目を閉じてるんですが。
唇に何かやわらかいものが当たってる気がするんデスガ。
ジュルジュルて、何故カ吸わレてルデすガ。
ちゅぽん。
「・・・えへへ、おはようのきす・・・。」
うっとりとした表情でシャドウゼロさんは言いました。
後ろで困惑した気配やら、多分皆顔を真っ赤にしてるんだろうなーとか、色々思うところはあったが。
とりあえず、時よ止まれ。
そして時は動き出す。
『ぇぇぇええええええええええ!?』
後ろで大声を出され、俺は崩れ落ちた。もうそれに抵抗する体力気力がねぇ。
「ああ、スバルクンしっかり!!」
「傷は浅いぞ!衛生兵、衛生兵ー!!」
「ってそれなんか違う!絶対違う!!」
「この子、恐ろしい子・・・!!」
「行人様ー、私達もぐはぁ!!」
「はにゃにゃにゃにゃにゃ!!」
「ぷー、ぷー!!」
「旦那と接吻、旦那と接吻・・・。」
「皆何をそんなに慌てているでござるか?」
軽くカオスな状況になっている。ドサクサにまぎれて己の欲望に忠実に動こうとする連中もいたりするからな。
そして俺はそれをどこか遠くの世界の出来事のように見ていた。
「ええ〜い!いい加減に静まらんかあああぁぁぁぁぁ!!!」
そしてそれは、おばばの一喝によって静められたそうな。
「それで、お主の名を教えてくれんかの。こやつはこんな調子じゃから、ろくに話も聞けんじゃろうし。」
おばばは白く崩れ落ちた俺を指差して言った。だってよー、わけもわからずいきなり唇奪われたんだぜー?やってらんねーよ。
ちなみに、おばばの後ろには全員が頭にたんこぶをこさえて並んで正座している。そしておばばの対面にシャドウゼロという構図だ。
「・・・闇の精霊『暗黒眼シャドウゼロ』。それがボクの名前・・・。」
シャドウゼロは少しうつむき加減で答える。こいつの根暗っぷりは半端じゃない。真正面から人を見るはずがない。
「精霊なんて・・・そんなものがこの世にいるはずがないじゃないか。大体妖怪だの精霊だの、全部人間の空想の産物だよ。」
口を挟むは行人。どうやらこいつはオカルトと呼ばれるものは信じていないそうだ。島にはたくさんいるのに、何でかね。
「あー、すまんな。行人はこういうやつでな。」
「・・・構わない。ボクはこんなやつどうでもいい・・・。」
行人を一瞥し、興味なさ気に言い放つ。それで殺気立つのは行人ではなく女性陣。
「ちょっとちょっと、行人様がどうでもいいってどういうことよ!!」
すぐに点火したのはあやね。そしてそれに続きりんが
「そうだ!旦那がどんな人間か知りもしないで、こんなやつたぁ失礼とは思わないのか!?」
「あ、あやねもりんちゃんもやめなよ!!」
すずがそれを止めようとするが、この中で一番殺気立っているのはすずだ。ここまでピリピリと来るぜ。
シャドウゼロはというと、ちらりとその面々を見たが、それで興味を失くしまたうつむいた。
「そ、それで、お主はスバルとどういう関係なのじゃ。」
「そ・・・それは・・・えへへ・・・。」
ちょっと照れ笑いするシャドウゼロ。仲間っていうののどこが恥ずかしいんだか。
すると今度は、ゆきのがむーっとうなった。何故に?
「それで!あなたは一体何しにきたのよ!!」
「もちろん・・・スバルを探しに・・・。やっとみつけた・・・。」
俺を抱き枕のように抱きしめるシャドウゼロ。あー、俺こいつのお気に入りのおもちゃみたいなもんだからな。必死で探したんだろうなー。
しかしゆきのはさらに頬を膨らます。だから何故!?
「さあスバル・・・、一緒に帰ろう・・・。」
俺の手を取ってうっとりとつぶやくシャドウゼロ。これあれだ。『一緒に帰ろう』って言ってみたかっただけだ。
俺は何とか身を起こし。
「悪いんだけどさ、まだ帰れねーんだ。先に帰って俺の居場所カデナに伝えといてくれないか?」
そう告げた。
こいつがどうやってこの島に来たかは想像がつく。大方闇の転移を使ったんだろう。
こいつ、精霊としてはかなり強力なやつで、闇から闇へ、影から影へと転移ができるんだそうな。
まあ、俺達には使えないから使用用途はほぼなかったんだけどさ。こういう時って便利だよな。
だが、俺は何か言葉を間違えただろうか?
「・・・何で?」
一気に空気の温度が下がったんですけど。あれ?シャドウゼロさん?怒ってらっしゃる??
すっごく寒気が走るんですけど。
「どうしてそんなこと言うの・・・?」
いや、どうしてっつったって。俺は『大渦を攻略できてないからまだ帰れない』って言っただけなんだけど?
だってあれ越えなきゃ、影を移動できるこいつならともかく、俺は物理的に無理だし。
「・・・おんなのせい?」
何か凄く見当外れなこと考えてらっしゃるんですけど!?しかも目紫んなってますよ!?
周りの連中も異様な気配を察したのか、ある者は剣を構え、ある者は素手で構え、ある者は符を構え、ある者は隠れる。
その隠れた者。
「・・・お前か。」
ゆきのは、不幸にもシャドウゼロに目をつけられてしまった。
「・・・!!やばい、ゆきの逃げろ!!」
俺はこいつが何をしようとしているかわかり、ゆきのに叫んだ!
「へ?」
ゆきのは一瞬呆けた顔をして。
「ダークスフィア。」
その一瞬後には、そこを闇の球状結界が飲み込んでいた。
「ゆきのーーーー!!」
闇が収縮し、空間を飲み込む。そして後には――
何も残らなかった。
「ゆきの・・・!!シャドウゼロ、てめえ!!」
俺は怒りに任せてシャドウゼロの胸倉を掴んだ。
「スバル・・・スバルをだましてたわるいおんなはボクが滅ぼした・・・。だからもう大丈夫・・・。」
その言葉を聞いた瞬間、俺の怒りは爆発――
「スバル、ゆきのは無事だよ!!」
しかけたところで、ゆきのの叫びが聞こえた。見れば、しのぶが間一髪のところでゆきのを助けていた。
俺はほっと息を吐いた。
「・・・どろぼうねこめ。今度は外さない。」
俺に胸倉をつかまれたまま、ゆきのの方に病んだ瞳を向ける。
「ひっ・・・!」
その異常な視線を受けて、ゆきのは竦んだ。
「ゆきの!逃げろ!!今のでわかっただろ!こうなったらこいつはやばい!!」
だがゆきのは腰が抜けてしまっている。シャドウゼロが再び魔力を込め。
「ダークスフィア。」
言葉をつむぐ。だが、今度は俺にも見えた。しのぶに抱えられたゆきのが術の効果範囲から逃れるのが。
再び虚空を闇が飲む。
「しのぶ、ゆきのを頼んだ!!それとできるだけ明るいところにいるんだ!!」
「任された!!」
しのぶが脱兎のごとくおばばの家を飛び出した。明るいところにいれば、シャドウゼロは手出しをしにくいはずだ。
最強の精霊・シャドウゼロの最大の欠点は『光が弱点である』ということだ。
「・・・何で・・・。何でこんなことするの、スバル・・・?」
うつろな闇の瞳を俺に向けてくるシャドウゼロ。つうかマジ怖えんですけど。
だが、引いてばっかりはいられない。これは俺が自分で撒いた種だ。
「ちょっとおいたがすぎるぞ、シャドウゼロ。」
俺は剣を抜き、構える。こいつに手加減なんかしてたらこっちが殺される。
「・・・そう・・・、やっぱりあのおんなにだまされてるんだね・・・。
待っててねスバル・・・、スバルには少し眠っててもらうけど、その間にボクがあのおんなを滅ぼすから・・・。」
シャドウゼロは闇を手に凝集させ、『撲殺黒棍棒』を作り上げた。・・・あれ喰らったら気絶じゃすまないと思うのは俺の気のせいでしょうか?
「お前ら、手出しは無用だ。お前らまで狙われたら流石に守りきれねぇ。」
「・・・わかったわ。」
まちが頷く。
ちなみに行人はというと。
「・・・精霊なんているはずがない。そうだ!あれはマイクロブラックホールなんだ!!・・・あれ、でもそうするとその重力で僕達も一緒に飲み込まれてるはず・・・。」
現実逃避してた。まあ、気にしないでおこう。
先手を打ったのは俺。
「『黄』色く弾けろ!!」
星剣『セブンスター』に雷撃を纏わせ、床を蹴る。
剣の腹で叩くように振り抜くが――シャドウゼロは既に影に潜っていた。
――どこから出てくる!?
俺は神経を研ぎ澄ます。
「ダークフォース。」
言葉が聞こえると同時に、俺は前に飛んでいた。同時に、俺の居たところに黒い霧が渦巻く。
あっぶね。あれ喰らったら視界ゼロになる上に体力ごっそり削られるんだよな。普通は肉が削げるらしいけど。
ともかく、今ので場所はわかったぜ!
「そこ!!」
俺は剣で突きを放つ。場所は天井!
そこに、逆さに立つようにシャドウゼロはいた。だが再び影に潜り、俺の突きはかわされる。
これが厄介なんだ。シャドウゼロは影と闇さえあればどこへでも行ける。それはこうやって、自分の影に隠れて敵の攻撃をかわせるということだ。
はっきり言ってやりづらいことこの上ない。
後ろに殺気が生まれる。
「くっ!!」
俺は咄嗟に剣を盾にし、『撲殺黒棍棒』の一撃をガードする。細腕から発揮される力とは思えない一撃を受けて、俺は少し吹っ飛ぶ。
ったく、あれが金属の棍とかだったら電気伝ってダメージなんだけどな。闇の塊ではそうもいかない。
「スバル・・・すぐに解放してあげるからね・・・。」
病んだ響きを残して、再び影に潜るシャドウゼロ。ふーむ、本当にどうしたらいいものやら。
痺れさせて気絶させようとしたけど、当たりそうもない。
どうにか影から出てきたところをぶっ叩きたいんだけど、なかなかそうも・・・?
ん?待てよ?ちょっと面白いことが思い浮かびそうな・・・。
ぽく、ぽく、ぽく、ちーん!
「よっしゃ!この勝負俺の勝ちだ!!」
俺は勝ちを確信し、叫びを上げる。それを隙と見たか、俺の背後にシャドウゼロが現れる!
「雷光矢!!」
俺は雷の力を解放し、軌道を曲げて後ろに撃つ。
だがシャドウゼロは慌てもせずに再び影にもぐりこんだ。
そして。
「ぎゃあああ!!」
「い、行人ぉ!?」
不幸な犠牲者が一人。行人が俺の放った雷光矢を喰らって伸びた。
まあ、あいつは頑丈だから死にゃあしないだろ。
――待っててね、スバル・・・もうすぐだからね・・・。
病んだ声が聞こえるが、言ったはずだぜ。この勝負は俺の勝ちだ!!
これが俺の描いた勝利の方程式!!
「『紫』の闇に病め!!」
意外!それは闇!!
ふふふ、シャドウゼロの困惑が手に取るようにわかるわ。何せ闇はあいつに通用しないからな。
俺の周りを黒い霧が覆い始めた。これは暗黒陣の霧だ。
抵抗力を持たないやつが喰らったらダメージになるけど、これも当然シャドウゼロには通用しない。せいぜいが目くらましだ。
――可哀想に、スバル・・・。やっぱりあのおんなにだまされておかしくなっちゃったんだね・・・。ボクがすぐ元に戻してあげるから・・・。
ふふふふふ、おかしくなんかなっちゃいないぜ。これで準備完了だ!!
そして、シャドウゼロが影から勢いよく飛び出してきた!!
不自然に固まった闇の霧に飛び込み、『撲殺黒棍棒』を振るう!!
だが、その瞬間やつは驚愕に目を開くことになる!!
手ごたえはある。中に気配もする。なのにそれは・・・。
「何で・・・僕が・・・こんな目に・・・。」
俺の『セブンスター』にくくりつけられた行人なんだからな!!
俺は天井から闇に飛び込む。同時、シャドウゼロが驚愕に目を見開く。
悪いけどしばらく寝ててくれ!!
「かかったなアホめ!稲妻十字空烈刃!!」
原作では全く活躍しなかった必殺の一撃(そういう電波を受け取ったんだ!)が、シャドウゼロの頭上に炸裂した。ぶっちゃけただのクロスチョップだけど。
そして、シャドウゼロは気絶し、俺達の戦いは終了した。
「ふぅ・・・。辛い、闘いだった・・・。」
俺はおばば家の惨上を見て、そうつぶやいた。
何せ、室内で剣振るうわ棍棒振るうわ魔術使うわ行人伸びてるわ(頑丈だとは思ったがここまで頑丈だとは思わなかった)だったから、もーぐっちゃぐちゃだ。
あ、おばばが何か震えてる。やっぱ怒った?
「当たり前じゃ!暴れるなら外でやらんかぁ!!」
そんなわけで、俺達は伸びた行人、シャドウゼロともども、おばば家を追い出された。ちかげは片付け要員で残されたが。
あと、皆の視線が凄く痛かったです。いやだって、シャドウゼロ強かったんだもん。行人一人の犠牲でどうにかなったんだから、むしろ褒めてよ。
とりあえず、日向だとシャドウゼロの体に障るから、俺達は日陰へ行った。
「それで、この子はスバルの仲間なんだな?」
「ああ。正確には、俺達と――俺の妹と契約した精霊。まあ、仲間っていうのであってると思う。」
俺は皆に事情を説明していた。すっかり忘れていたが、まだ説明の途中だったのだ。
ちなみに、行人は説明しても色々無駄だし、顔も結構腫れていたので(俺のせい?)すずの家へ帰らせた。
ていうかさ?『撲殺黒棍棒』くらって何でそれですむわけ?常人だったら頭蓋骨粉砕レベルなんすけど。
「――危険じゃないの?」
そう言うはまち。その目は、一人の巫女としてのものだった。
「うちの家訓は『どんな妖怪でも、ケンカしてるうちに仲良くなれる』だけど、この子はそれを逸脱しきってるわ。さっきのは確実にゆきのを殺そうとしてた。」
確かにな。あれは俺も行きすぎだったと思う。
こいつら精霊にとって、人間ってやつはどうしてもちっぽけな存在だ。だから、人間を殺すのを虫を殺すのと同じ感覚でやってしまえる。
そういう意味では、確かに危険だよ。
「じゃあやっぱり、早いとこ退治するなり封印するなりした方がよくない?」
あやねが言う。・・・それが普通の考え方だよな。
でも。
「強すぎる力だから――平和を乱す可能性のある力だからって、切るってのは間違ってるって、俺は思うんだ。
本当に正しいことなんざ俺にゃあわかんねー。でも、俺はそれで心の底から納得できるかっつわれたら、納得できるわきゃねえんだよ。」
そう。俺は見ているから。
大きすぎる力であるために、世界から切り捨てられた少年を。
だから、それを繰り返しちゃいけない。馬鹿ばっかな俺だけど、そこだけはまじめに譲れねえとこだ。
「それじゃあ、あなたはどうするの?」
「・・・何とかしてみせるさ。」
俺の中でどうすればいいか、なんていう答えは出ていない。今の俺じゃ到底結論なんて出せないし、多分これからも無理だろう。
だけど、それでも俺はこの思いを実現させるために前に進むさ。
それに。
「じいさんが言ってたぜ。『万の言葉を連ねるより、一度の行動で示せ』ってよ。」
ぐっとサムズアップ。
ぷっと、笑いが漏れる。
「スバルの『じいさん語録』が出るなら安心だな。」
りんが言う。いつの間にかそんな名前がついてたのか。でも、悪くないな。
「・・・う・・・ん・・・。」
シャドウゼロが目を覚ましたようだ。それで、身構える面々。
「・・・どうするのか、見せてもらうわよ。」
ああ。
「・・・ス・・・バル・・・?」
「おう、目ぇ覚めたか?」
シャドウゼロの目は、もう元の紅に戻っている。
「頭・・・痛い・・・。」
「そりゃそうだ。俺の稲妻十字空烈刃をまともに喰らったからな。」
「スバル・・・。」
シャドウゼロが泣きそうな表情をしてこっちを見てくる。う、こいつのこの視線。すっごくやりづらいんだよね・・・。
「一緒に帰って・・・くれないの・・・?」
「ああ、・・・そのことは悪いと思ってる。けど、この島は四方を大渦で囲まれてるせいで、俺たち人間は簡単に脱出できないんだ。」
不可能、とは言わない。『不可能・不存在を証明することはこの世で一番難しい』から。
「そう・・・だったんだ・・・。」
「多分カデナあたりに頼めば、大渦を凍らせてその上を歩くとかも出来るんだろうけど、俺は自分一人の力でやりたいんだ。
わがままなのはわかってるけど、頼む。わかってくれ・・・。」
言って俺は頭を下げる。
「・・・うん、わかってる・・・。ボクの知ってるスバルなら・・・絶対そうする・・・。」
「・・・ありがとう、わかってくれて。」
これで一件落着か。
と俺は思ったんだよ。この瞬間は。
「わかった・・・。・・・ボク、スバルが渦を越えられるまで、この島で一緒に待つ・・・。」
そうか。わかってくれたか。
って。
『はいいぃぃぃ!?』
俺だけじゃなく、後ろで見守ってたまち、あやね、りんまでもが驚愕の叫びを上げた。
それって、この島に住むってことですよねぇ!?
「うん・・・、スバルと一緒・・・、ふたりっきり・・・えへへ・・・。」
そしてぎゅっと俺を抱きしめてくる。微妙にほほを赤らめてたりする。
自分も恥ずかしいならそうやって遊ぶな!!
「ふぅ、いらない心配だったみたいね。」
まちはため息をついて、そう言った。加えて一言。
「スバルもニブチンね。シャドウゼロもゆきのも大変そう。」
どういう意味だよ!?
こうして、藍蘭島の住人に闇の精霊『暗黒眼シャドウゼロ』が加わった。
その晩。
「・・・。(無言でゆきのを睨んでいる)」
「・・・。(涙目でスバルに助けを求めている)」
「・・・。(頭を抱えて頭痛をこらえている)」
「あらあら、楽しそうね♪」
『どこが!?』
(ゆきの・・・お前は敵だ・・・ボクのおんなのかんがそう告げている・・・。)
そんなやりとりが、あったとかなかったとか。
ヤンデレ少女だったはずが、途中完全にヤンギレ少女になっているというorz。
誰かスバルとシャドウゼロのディープキス描いてくれ。
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