2008/10/30
天啓の通りに
SS書きました。前半部分だけですが。
後半部分はローテしてのほほん話、士郎話終わった後で。結構後になってしまいますが、ご勘弁を。
お題:ドラえもん のび太の藍蘭島漂流記
その日ドラえもんとのび太は白亜紀までタイムトラベルをしていた。のび太が友人であるスネ夫に化石を自慢され、化石が欲しいとドラえもんに泣きついたためである。
呆れながらも面倒見のいいドラえもんは、のび太のために特大の化石を作ってやろうとタイムマシンを使って白亜紀まで飛んだのだ。
結果は成功と言えるだろう。流石に恐竜を殺すのは優しい彼らとしては遠慮したいところだったので、恐竜の足跡の化石(の元)を作ったのだ。
これで現代に帰れば、立派な化石が出来上がっているはずである。
だというのに、のび太は不満顔であった。
何故彼は不機嫌なのか?それはある意味、自業自得なのである。
ドラえもんは手っ取り早く足跡を取れるように、いったん地面をドロドロにした。
ちょうどそのとき、ドジなのび太は恐竜に追われて、ドラえもんは恐竜を追い返そうと空気砲を撃った。
のび太はいた場所が悪く、タケコプターが空気砲に弾かれ、そのぬかるみにダイブしたわけである。
「も〜、いい加減機嫌を直しなよ、のび太くん。」
「ふんだ!あんな目に合わされるんだったら恐竜時代なんて行くんじゃなかったよ。」
「そんな言い方はないだろ!ぼくはのび太くんがどうしてもって頼むから、こうして白亜紀まで連れて行ったんじゃないか!!」
「だいたいドラえもんの銃の腕が悪いのが悪いんだ!ぼくだったら恐竜だけを追い返せるもんね!!」
そんな感じに、いつもの通り言い争いになる。
この二人はいつもこうだ。仲がいいくせにケンカをする。そしてすぐに仲直りをする。
時々のび太が無人島へ家出するなど、過激な行動を取ったりすることもあるが、ドラえもんは秘密道具を使ってことを収める。
まあそんなわけで、この二人はケンカするときは激しくケンカするのだ。
「何だよ!!そんなこと言うんだったら君に渡したショックガンで追い返せばよかったじゃないか!!」
「逃げるのでいっぱいなのにそんなことできるわけないだろ!!」
といった感じで、いい感じにヒートアップする二人。
だが、今回ばかりは場所とタイミングが悪かったとしか言いようがない。
突如として、タイムマシンを、いやワームホール全体を激しい揺れが襲った。
「わ、じ、地震!?」
「いや、これは時空震だよ!!」
時空震とは、呼んで字のごとく時空間そのものが震動することである。ひどいときには時空断層を作りタイムワープを不可能にしてしまうこともある。
そして今回のそれは、時空断層を作り出すほどの揺れだったのだ。
ドラえもんは何とか咄嗟にタイムマシンの一部につかまることで難を逃れた。
だが反応の遅いのび太が、言い争っていた状態からそんなことをできるわけがなく。
「わ、わ、わ!!」
「あ、のび太くん、危ない!!」
慌ててドラえもんが手を伸ばすも、それも届かず。
もし二人が乗っているタイムマシンが、ドラえもんの妹ドラミが持っているようなインドアタイプのタイムマシンだったら。
もし二人がケンカをするのがもう少し遅ければ、あるいは早ければ。
もし二人のケンカが殴りあいの一歩手前までヒートアップしなければ。
こんなことにはならなかっただろう。
だが、現実には運悪くそれらが重なってしまい。
「のび太くーーーーーん!!」
のび太は時空の渦の中に吸い込まれていってしまった。
「ドラえも〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!」
その最後の言葉の響きだけを残して。
ちゃらららららちゃらららららちゃらららららちゃらららん♪
ちゃらららららちゃらららららちゃらららららちゃらららん♪
たららたららたららたららたららたららたららららら
ちゃららららららららららららん♪どん♪どん♪
ドラえもん
のび太の
藍蘭島漂流記〜!!
このSSは、創造と混沌の理解者ロベルt「早く始めろや!!」「ウボァー!!」がお送りします。
「う、う〜ん・・・。」
肌をじりじり焼く日差しで、のび太は意識を取り戻した。
「ここは・・・?」
目を開けて、のび太の目に飛び込んできた景色は、見知らぬものだった。
「ここ、どこ?」
問うても、返ってくる答えはない。
そもそも自分はどうしたんだったか?
「確か、ドラえもんと恐竜時代まで行って、その帰りにドラえもんとケンカして、突然地震が起きて、僕はタイムマシンから落っこちちゃって・・・。」
そこまで思い出して、気づく。
「はっ!!ドラえもん!?ドラえもーん!!!どこにいるんだよー!?」
自分が今、一人であるということに。
ここに頼りになる友達の姿はない。自力で何とかするしかない。
「そんなぁ・・・。」
弱気な表情を見せるのび太。
どれくらいそうしていただろうか。あまり長くはなかっただろう。
「・・・きっと、ドラえもんが迎えに来てくれる!それまで、僕一人で何とかしなくちゃ!!」
意外と早く立ち直った。
こののび太という少年、実は結構とんでもないことに巻き込まれた経験があったりする。
たとえばはるか遠い宇宙で悪の企業や最強の殺し屋と対決したり。
たとえばはるか地底で、そして過去で恐竜族と戦ったり(その後和解したが)。
たとえば平行世界で、魔王と呼ばれるものと戦い打ち倒したり。
そんなわけで、こういう状況にはそれなりに慣れているのだ。・・・自分から進んで陥りたくはないだろうが。
「えっと、まず食料があるかどうかだよね。それと、寝床の確保と。安心して昼寝ができる場所がいいな〜。」
こんな状況に陥っても、のび太は図太かった。
のび太は現状を確認した。
服が濡れていたことから、自分はどうやら海に落ちてからここに着いたらしい。
時空間の渦に巻き込まれてからの記憶はないから詳細はわからないが、かなずちの自分がよく助かったものだと感心した。
そして自分の倒れていた海岸から岸壁を登ったところに森があるらしい。ちょっと回り道をすれば上に上ることができるだろう。
道具がない状態では、食べるものが海よりも森の方に多いことは知っている。これでもサバイバル経験は豊富なのだ。
よって、のび太はまず森に向かうことにした。
樹木は自分の知っているものと似ていることから、どうやら恐竜時代というわけではないらしい。
「人がいるといいな〜、それもできれば日本人で。」
そんな希望を漏らした。
森の中は薄暗くじめじめしていた。いかにも、何か出ます!!というような雰囲気全開である。
「ぅぅ〜、こ、怖くなんかないぞっ!!」
誰も見ていないのに強がるのび太。
何とか、食べられそうな木の実を発見する。それを取れるだけ取った。
ちょうどそのときに、ぐ〜っと腹がなった。
のび太は木の実を口に運んでいった。甘酸っぱくて結構美味しかった。
「食べるものには困らなさそうだね。」
しばらくそうやって、草を尻に敷いて木の実をぱくついていた。
だがのび太の不運は始まる。その草が何なのか、のび太はしっかり確認すべきだった。
のび太は、がちがちと何か硬いものを打ち付けるような音に気がついた。
「な、何だろう?」
不安げにあたりを伺うが、何もない。だが、がちがちという音はどんどん近づいている。
徐々に徐々に音が近づいてくるにつれ、場所がはっきりしてきた。
それは自分の真後ろ。
のび太はばっと後ろを向いた。
それは、草の茎から口のようなものがつき、そこに鋭い歯を持った何かだった。
食肉植物である。
「ぎゃああああああ!!!」
きしゃーーーーー!!
食肉植物のドアップを見てしまったのび太は恐怖で飛び上がり、一目散に逃げ出した。
「ななななな、何あれ!?」
全力疾走――彼の足は逃げ足のときだけやたらと速くなる――で逃げるのび太に、食肉植物はつるをのばすが追いつけなかった。
安全圏へ脱したと走るのをやめるのび太。荒い息をつく。
だがまだ終わりではない。
「のん?」
「へっ?」
後ろを見ていたのび太が前を見ると、そこには白黒の巨獣がいた。
それは可愛いパンダちゃんであった。
だが、位置が悪かった。のび太からは逆光になってしまい、それは恐ろしい巨大な獣にしか見えなかった。
「あ、あわわわわわわわわわわわ・・・。」
がたがたと震えるのび太。そして。
「のーーーーん!!」
「ご、ごめんなさーーーーい!!」
再び全力疾走で逃げ出した。
ちなみに、パンダの側としては別に危害を加えるつもりはなく、吼えたのだって「誰だお前ーー!?」というぐらいの意味だったのだ。
なので、一匹残されたそのパンダは、突然逃げ出した人間に?マークを浮かべるだけだった。
それとは気づかずに、のび太は全力で走っていた。それはもう、いじめっ子のジャイアンとスネ夫が追いかけてくるときの倍以上のスピードである。
彼の潜在能力の高さを物語っている。が、それを役に立てられることはほぼないだろう。
それは彼がのび太故に。
「こ、ここは一体何なんだよーーーー!?」
なおも全力で走り続ける。
と、そのとき。
どしん!!
「うわ!?」
ぐる!?
突然目の前に何か現れ、のび太は正面衝突してしまった。
そしてそのまま後ろに倒れ、尻餅をついてしまう。
「いててて、何・・・。」
衝突したものを見て、のび太は三度固まる。
それは一匹の熊。
ぐる〜?
「もうやだああああああああ!!!」
語るまでもなく、のび太は全力で逃げ出した。
後に残された熊は、彼を起こすべく差し伸べた手の行方をどうしようか困っていた。
「くまくまー、何かあったのー??」
のび太が走り去ってしまった少し後、緑の服の少女が現れた。
彼女――彼女らこそがここ――この島の住人であるが、彼らが出会うのはまた後の話。
それからのび太は安全そうな場所を見つけて眠った。とにかく寝たかった。
最初の日はやたらと大騒ぎだったが、次の日からは比較的穏やかだった。
これを機とばかりにのび太は少しずつ、慎重に移動し、4日目にしてようやくうっそうとした森を抜けた。
そして到着したのはまた森。ただし、前の森と違って明るい感じだ。
生えている植物が違うためか、森全体が明るい雰囲気を纏っているためか。
のび太は今日の食べ物を求めて歩く。
と。
「ん?猫?」
にゃあにゃあという鳴き声が聞こえた。そちらへ行ってみれば、一匹の子猫がいた。
「お前、どうしたの?仲間からはぐれちゃったの?」
のび太は子猫をやさしく抱き上げ、そう問いかけた。子猫は言葉がわかるのかこくんと頷いた。
「そっか。それじゃあ、ぼくが君を皆のところへ連れて行ってあげる。」
子猫はにゃー、と嬉しそうに鳴いた。
それからのび太は子猫を抱えながら森の中を探検した。この森は前の森と比べて光の入りがよく迷うことはなかった。
子猫はのび太によくなついていた。のび太は動(植)物に好かれやすいのだ。
それというのも、彼が本質的に「優しい」からなのだろう。
そうして歩いていると、やがて少し開けたところに出た。
そこでは猫が集会を開いていた。のび太は子猫を下ろしてやった。
すると子猫は猫の群れに飛び込んでいき、猫たちも嬉しそうにじゃれあった。
のび太はそれを見て、ああ良かったと心底安堵した。
子猫がにゃあにゃあと何か鳴いていた。いきさつの説明でもしているのだろうか?
それが終わると、突然猫たちが一斉にのび太に群がってきた。
「わ、な、何??」
困惑の表情を浮かべるのび太だが、猫に敵意はない。恐らくは仲間を助けてくれてありがとうという歓迎の意だろう。
猫達はにゃあにゃあとのび太に擦り寄っていった。またある者は肩によじ登り、ある者は頭の上にまで乗っかっていた。
「く、くすぐったいよ・・・。」
のび太も終始笑顔であった。
と、ここでのび太の予想だにしないことが起こる。
「にゃーすけを助けてくれてありがとうにゃ。」
「へ?」
突然声が聞こえた。だが、あたりを見回しても猫しかおらず、人の姿はない。
気のせいかと思って
「ところで君、外から流れ着いた人間だにゃ?」
「あ、あれ?どこですかー?」
再び声が聞こえたので、今度は声をかけてみる。
「ここにゃ。ここ。」
「ここって?」
「上にゃ。」
上と言われて、のび太は上を見上げる。だが上には誰もいない。
「君の頭の上って意味にゃ。」
「え?あ、頭の上って。」
そこには一匹の猫がいるだけだ。まさか猫がしゃべっているとでも言うのだろうか。
「そのまさかにゃ。」
「え、ぇえーーーーー!?」
猫は驚くのび太からしゅたっと飛び、近くの岩に着地した。
その猫はトラ模様をした猫で、首にはスカーフを巻いていた。
そして見間違いでなければ、尻尾が二本ある。
「やあ、僕は南の森の主・しまとらにゃ。君は誰かにゃ?」
「ねねねねね、猫がしゃべってるぅーーーーー!?」
しゃべる猫――しまとらに驚くのび太。そのリアクションが面白かったのか、しまとらはからからと笑った。
「僕は猫又だからね。しゃべれても不思議じゃないにゃ。」
「ネ、ネコマタ?」
「そ。動物は長生きすると妖怪化するにゃ。僕は元々普通の猫で、長生きして猫又になったにゃ。」
「へぇ〜、そうなんだぁ。」
最初は驚いていたわりに、妖怪であるということを話したらのび太は割とあっさり納得した。
「へ?それだけにゃ?驚いてた割には随分とあっさりしてるというか・・・。」
「考えてみれば、犬や猫の姿をした宇宙人がしゃべれるんだから、猫の妖怪がしゃべっても不思議はないもん。」
何度も言うようであるが、こののび太という少年、色々おかしなことに巻き込まれた経験を持っている。
「そ、そう・・・。それはそうと、君の名前は?」
「あ、ぼく、野比のび太。」
「それで、どうやってこの島に来たにゃ?」
「えっと、ぼくもよくわからなくて。ドラえもんと一緒にタイムマシンに乗ってたら落っこちちゃって、そこから記憶がないんだ。」
のび太は説明力がない。前提条件とか一切抜きに話をしてしまう。
そのためしまとらは頭に?を浮かべたが、「船に乗っていたら落ちてしまい、気がついたらこの島に流れついた」と解釈した。
「ということは、この間のちょっとした嵐の日だにゃ。でも変だにゃ、あの程度の嵐で島の外の人間が流れつくにゃんて・・・。」
「あの〜、しまとらくん?」
「ああ、つい考え込んでしまったにゃ。それで、のび太くんはこれからどうするつもりにゃ?」
「どうって・・・とりあえず、ドラえもんが迎えに来るまで何とかするつもりだよ。」
しまとらは少し哀れむような目をした。ああ、この少年は知らないのだ、と。
「そうにゃ・・・。それにゃら、よかったらここにしばらくいるかにゃ?にゃーすけを助けてくれたお礼もしたいし。」
「え、いいの?」
「もちろんにゃ。」
「やったー!!」
しまとらには、のび太に現実を伝えることはできなかった。それはあまりにも可哀想だったから。
かくして、のび太はしまとらのお世話になることになった。
それからさらに3日が過ぎる。その間、のび太はしまとらからここ――この島のことについて教わった。
この島は藍蘭島という孤島で、東西南北4つのエリアが存在するということ。
そして、しまとらは南の主であるということ。ここは島の南だったのだ。
対して自分が流れ着いたところは東の森。凶暴な食肉植物がうごめく魔境だと教えられた。
よく無事だったと自分のことながら感心し、あのままあそこにいたらと想像し、背筋がぞっとした。
だがしまとらは、西のエリアに人が住んでいることを話さなかった。
それは自動的に、非情な現実を話さなければいけないということだから。この優しい少年にそれを教えることは、しまとらにはどうしてもできなかった。
だが、いつかは伝えねばならないことなのだ。今のままいつまでも放置しておけるわけなどない。
そしてのび太が島にたどり着いてから7日目のこと。
「のび太くん、実はぼく、黙ってたことがあるにゃ・・・。」
「どうしたの、しまとらくん?」
とうとうしまとらは、西に人が住んでいることを話す決心をした。
「実は・・・この藍蘭島の西には人間が住んでいるにゃ。」
「え、そうなの!?」
のび太はてっきりこの島は人がいない『無人島』かと思っていた。だからしまとらの言葉はなかなか衝撃的だった。
「も〜、何で早くに教えてくれなかったのさ!」
「ご、ごめんにゃ。僕にはどうしても言えにゃくって・・・。」
謝罪をするしまとら。だがのび太はくすりと笑って。
「いいよ、しまとらくんもぼくに行って欲しくなかったんだよね。ぼくもまだここにいたいし。」
「・・・けど、のび太くん。君は西に行って真実を知るべきにゃ。」
いつにないしまとらのまじめな表情に、のび太はびっくりした。
「ど、どうしたのさ急に。」
「のび太くん。この島にはある重大な特性があるにゃ。けど、それをぼくから教えることはできにゃい・・・。恩を仇で返すことになってしまいかねないにゃ。
だから、君は人里に行くべきにゃんだ!!」
強く言うしまとらにただならぬ何かを感じたのび太は、少し気圧された。
だが、あれだけ親切にしてくれたしまとらがここまで言うのだ。のび太はややあって決心した。
「うん、わかったよ。ぼく、西に行ってみる。」
「のび太くん・・・。ごめんにゃ、卑怯な僕を許してくれとは言わにゃい。けど、どうか君はいつまでも君らしくいてくれ・・・。」
うなだれるしまとらの肩に、のび太はぽんと優しく手を置いた。
「大丈夫だよ。しまとらくん、色々とありがとう。この恩は忘れないよ。」
「のび太くん・・・ありがとう。すまにゃい・・・。」
こうして、のび太は南の森に別れを告げた。
それからさらに3日後。
のび太は何故か北の森にいた。
「人里は・・・どこだ〜・・・。」
のび太は疲労困憊で、やっとのことで歩いていた。
のび太、時と場合にもよるが、結構方向音痴である。
西に向かっていたのがいつの間にか東に向かってしまっていたのがまずかっただろう。
そしてそのまま迷いやすい東の森を迷いに迷って、北の森へと出たのだ。
しまとらから聞いた話では北の森の主は気性が荒いとのこと。
なんとしても早々に脱出すべきだ。が、今ののび太は疲労困憊で歩くのもままならぬ状況である。
「あ、あんなところに洞穴がある・・・。あそこで休もう。」
のび太は森の中に洞穴を見つけ、その中に入っていった。
入ってみるとそこは結構広く、また誰もいなかった。
「お休み〜・・・。」
のび太は倒れこむように眠りについた。恐らく、普段家で昼寝をするときよりもよほど速いだろう。
のび太の意識は洞穴の闇に溶けていった。
がくがくと肩を揺さぶられる感覚で、のび太は目を覚ました。
「う〜ん、あとごふん・・・。」
否、一瞬だけ目を覚まし、再び夢の国へ旅立った。
だが、のび太を起こそうとした張本人はそれを良しとせず、のび太の頭にチョップを入れる。
「ふぎゃっ!?あたたた・・・一体なんだよも〜。」
流石ののび太もこれには起き、近くに置いてあったメガネを手に取りかける。
そしてのび太の目に飛び込んできたのは。
「おい、お前。何故俺の巣で寝ている。」
一頭の、人語をしゃべる巨大なトラだった。
「っっっっっっっっっぎゃあああああああああああ!!!!」
もうこの島に来てから恒例となりつつある絶叫を上げ、のび太は全力で逃げ出そうとする。
が、そうは問屋が卸さない。
「おい、待て!俺の質問に答えろ!!」
そのトラはがっしとのび太の足を掴んで逃がさなかった。
「ひいいいい!答えます、答えますからどうか食べないでええええ!!」
のび太は完全に怯えきっていた。その様子を見て、トラは少し毒気を抜かれたようで、すっと手を離した。
それで、のび太もパニックから立ち直った。まだ怯え気味ではあるが。
「それで。何故お前は俺の巣で寝ていた?」
「あ、あの、その・・・。」
のび太はしどろもどろながら、何とかことのいきさつを説明した。
「・・・ふぅむ、なるほど。それは大変だっただろうな。」
「はい、何度も死ぬかと思いました・・・。」
南の森から東の森を抜けて北の森までやってきたのを聞いて、トラ――大牙と名乗った。よく見れば彼も尻尾が二股に分かれている――は感想を漏らした。
「それで、何とかここまでたどり着いたは良かったけど、もう一歩も歩けないぐらい疲れてて・・・。そのときここを見つけて、ちょうどいいから一眠りしようと。」
「そうか・・・。まあいい、そういうことなら仕方ない。」
のび太はそれで、ほっと安堵のため息をついた。
だが彼は気づかなかった。大牙の瞳がやたらと獰猛に輝いていることに。
「ところで・・・お前東の森を抜けてきたと言ったな。ということは相当腕が立つんだろ?」
「へっ?」
素っ頓狂な声を上げるのび太。だが大牙は構わず続ける。
「とぼけるな。南の主――しまとらが認めるほどの強者なんだろう?なら、今回の一件を不問にする代わりに、俺と勝負しろ。」
「え、ええ〜〜〜!?な、何で!?どうして!!?」
「話していなかったが、俺はこの北の森の主でな。ここには『他者の縄張りは絶対不可侵』という掟がある。主である俺がそれを破るわけにはいかんのだ。
他の者が納得するためにも、俺と闘ってもらうぞ。何、本来なら制裁のところを決闘で許してやるんだ。安いもんだろ?」
「そ、そんなぁ〜〜〜〜〜!!」
かくして、のび太に逃げ場はなく、大牙と決闘する羽目になった。
「な、何でぼくがこんなことに・・・。」
「ぶつくさ言うな。お前男なんだろう?みっともないぞ。」
森から出て、海岸沿いの開けた場所で、二人は相対していた。
のび太は今すぐにでも逃げ出したい表情で立っているが、大牙の方はというと嬉々としている。
逃げ出すことなど不可能である。
「・・・まあ、お前は子供だし、『はんで』をくれてやる。お前は気絶するまで負けではないが、俺は一発でももらったら負けにしてやる。」
「そんなハンデ、全然嬉しくないよ〜〜〜〜〜!!」
実質死刑宣告に聞こえた。というか、大牙はわかってて言ってるんじゃないだろうか。
「時間は無制限だ、心置きなく闘え。では行くぞ!!」
有無を言わせず、大牙はのび太に突進した。
「わ〜!タンマ、タンマ!!」
のび太が制止をしようとするが、そんなこと当然大牙の耳には入らずに。
どかん!!
「わーーーー!?」
どしゃあ。
「きゅう・・・。」
そんな感じでのび太はすっ飛ばされてしまった。気絶はしていないようだが、完全に目を回している。
一方、大牙はというと、こちらは完全に目が点になってしまっていた。
大牙はのび太がたった一人で東の森を抜けてきたと聞いて、とてつもない猛者だと思っていた。
だが実際のところ彼は、運動音痴、頭脳不明晰、怠け者と三拍子揃ったダメ人間なのだ。
「何故反撃してこない!本気を出せ!!」
勘違いしている大牙はそんなことを叫んでいたが、ないものは出せないのである。
そのとき、のび太のポケットから、からんと音を立ててあるものが落ちてきた。
「・・・あ!!」
のび太はそれを見て、今まですっかり忘れていた自分が自身の唯一の武器を持っていたことを思い出した。
のび太はそれを手に取り、立ち上がった。
「それは・・・『じゅう』とかいうやつか?」
そう。それはのび太が護身用にドラえもんから持たされたままになっていたショックガン。
「面白い・・・そんなおもちゃみたいなものでどこまで太刀打ちできるかな!?」
大牙は獰猛な笑みを浮かべ、再び突進してきた。
だが、銃を手にしたのび太は至って冷静に
ビシュ!ビシュビシュ!!
と立て続けに三発の光線を発射した。
一発目は顔の近くすれすれに。光線のまぶしさで思わず大牙は目を瞑ってしまう。
そして残りの二発は同時に膝へ。その衝撃で大牙は倒れこんでしまった。
「これでぼくの勝ちだよね?」
最初の一発が余程効いていたのか、のび太はふらふらしながらそう聞いた。
そんな状態で、のび太は一瞬のうちに三発の弾を狙った場所に撃ち込んだのだ。
三拍子そろったダメ人間のび太であるが、彼には二つの卓越した特技があった。
一つはあやとり。複雑極まりない立体を、糸のみで作り出してしまう手の器用さが彼にはある。
そしてもう一つが射撃。その実力はまさに百発百中。神掛かっていると言っても差し支えない。
西部時代に生まれていれば英雄になれたと豪語するとおり、のび太は実際、西部開拓時代のアメリカで悪党どもを懲らしめたことすらある。
そんなのび太が唯一にして最強の武器を持っていたことは、彼にとっての幸運と言えるだろう。
逆に大牙が銃のことを詳しく知らなかったのは、彼にとって不運だったと言えるだろう。もし彼が銃という存在を見たことがあれば、不用意に攻めることはしなかっただろう。
もっとも、もしのび太の銃の腕が悪ければ、それでも大牙が勝っただろうが。
ともかくとして、現実今のび太は立っていて、大牙は地に伏している。そして彼が出した条件『一撃を加える』もクリアしている。
のび太の勝ちである。
「・・・ふぅ、確かにお前の勝ちだ。だが、『じゅう』とはそういう武器だったのか。次はこうは行かないと思え。」
それを聞いて、のび太はほっと安堵のため息をついた。
その次の言葉を聞くまでは。
「これからはお前が北の主だ。俺が再びお前に勝つまで、北の森を統括するがいい。」
「・・・へっ?」
のび太は聞き間違いだと思った。なのでもう一回聞いた。
「お前が新しい北の主だと言ったのだ。ここは気性の荒いものが多いからな。しっかり頼むぞ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「もうこの島やだああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
今度こそのび太は、完全無比に、完膚なきまでに、紛うことなく逃げ出した。
「あ、待て!!お前は北の主だぞ、どこへ行く!!」
その後を大牙は追いかけたのだが、何故だか追いつくことはできなかった。恐るべし、のび太の逃げ足。
そして、のび太が島についてから11日目。
彼はようやく西の森までやってきた。が、彼はもうふらふらで千鳥足であった。
無理もない。お世辞にも体が頑丈だと言えない彼が、大牙の攻撃を喰らってまともに治療もせず、そのまま一昼夜走り続けたのだから。
舗装はされていないものの、整地された道は人の存在を示していた。
そして森を抜けて、人里らしきものを発見したところでのび太は安堵し。
そのまま気絶した。
「お、誰だこんなとこで寝てんのは?」
赤髪の少女が、そんなのび太を発見した。
「って、これ気絶してんのか!?やべ、早くおばばんとこ連れてかないと!!」
その少女は、まるで軽い荷を持つかのようにのび太を軽々抱え上げ、走り出した。
これが、藍蘭島にたどり着いたのび太の、島の人間との出会いだった。
のび太の情けなさを出すのに苦労しました。あと、しまとらのキャラを少し崩してしまった感が否めない。
ちなみに、まともに戦ったらのび太が大牙に勝てる見込みはまずありません。当たり前だね。
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