2008/07/09
嘘予告
突発的に思いついてやった。今も反省していない。
――ここは?
その少年が目が覚めて最初に考えたのは、『自分が今までと同じ世界にいるか否か』だった。
これまで彼は幾度も世界を渡ってきた。そして、その度ごとに『ツレ』のはた迷惑な行動に悩まされてきた。
今回もそんなことになるかもと思うと、自然と気が滅入ってくる。
しかし、あたりを見回し、異常に気づいた。
「あれ?」
周りは緑が生い茂っていた。少し視線をずらせば、遠くに街が見える。
街が少し低い位置に見えることから、おそらくここは小高い丘か小さな山の中なのだろう。
自分が元いたところは真っ白な世界。そのことから考えると、ここはやはり別世界なのだろう。
そんなことは予想の範疇である。では彼が気づいた異常とは何か?
「僕・・・一人だけなのか?」
そう。どんな世界に渡ったときでもともにいた仲間たちが。
やたらめったらうるさくて迷惑な、それでいて仲間たちからは慕われるという理不尽な男が。
いつも人の影に隠れている恥ずかしがりやな、兄馬鹿だと思うがとても可愛い妹分が。
仲間たちをいつも優しく見守ってくれる、皆のお母さん的な役割の女性が。その頭に陣取っている白い物体が。
誰一人としていないのだ。
剣を背負った少年――神内アキラは、その事実にただ立ち尽くすしかなかった。
がさり。
どれくらいそうしていただろうか。突然茂みが音を立てた。
その音でアキラは正気に戻った。と同時に、戦闘者としての本能で剣に手をかける。
「誰だ!!」
彼は目を鋭くし、そう叫んだ。
すると、茂みの方からあわてたような気配がした。
アキラはすばやくそちらへ走りぬけ、そこに隠れている者の姿を見た。
『えっ?』
そこに隠れていたのは。
――お、女の子?とフェレット?
「こ、こんにちは〜。」
栗色の髪をツインテールにした可愛らしい少女と、その肩に乗りやたらと人間っぽい動作をするフェレットがいた。
**********
同時刻。
雲一つない空から一筋の雷が落ちた。
それは公園の一角に直撃し、轟音を立てた。
朝早い時刻であったために、目撃者は少なかった。もしもこれがもう少し遅い時刻だったなら大騒ぎになっていただろう。
「けほ、けほ!!」
何故ならそこには。
「あ〜・・・、突然なんなんだぁ?」
一人の青年が降り立っていたのだから。
「にしても、今のって『ヤツ』の『召還』じゃないか?」
巻き上がった土煙が収まり、ようやく咳き込み終えた青年は、考えながら言った。
彼は天才的な学者であった。故に、今ここに与えられた情報から瞬時に答えをはじき出す。
「『異世界』――というよりはむしろ『平行世界』か。風景から考えて日本っぽいな。」
その答えは正しい。事実はここは彼にとっての『平行世界』であり、この場所は日本であった。
だが、もう少し回りを気にすべきだっただろう。
突然、あたりの景色が色をなくす。驚いて彼は振り返った。
そこには、長い金の髪をツインテールにした少女と、赤い毛並みの大型のイヌ科の動物――つまるところ狼が並んでいた。
――やっべ!人いたのかよ!!まずった!!
彼は内心でそう毒づいたが、同時に思考をめぐらせる。
――いや、ただの人じゃないっぽいな。この空間、明らかに異常だ。この世界にもあるのか?『具現心術』。
彼の知る能力であるかはわからない。だが、状況から考えるにこの空間を作り出しているのは彼女たち。
故に、彼女らは何らかの異能者であるということ。それが彼が瞬時にしてはじき出した結論だった。
「あなたは何者ですか。」
ちょうど良く、少女が問うてくれた。
彼は意識をシフトする。慎重に、かつ大胆に。それでいて生来の人受けの良さを忘れずに。
彼の交渉はいつもそうやって行われた。
「人に聞くときは、まず自分からだよ、お嬢ちゃん。俺も君みたいな娘の名前は知りたいしね。」
そう言って、笑みを浮かべながらウインクを一つ。その毒気のなさに、少女はやや警戒をとく。
「・・・私は、フェイト=テスタロッサ。この子はアルフ。さあ、私は答えました。答えてください。あなたは何者ですか?」
正直に答える少女に、青年は表情を変えずに心の中で思う。ああ、この娘はきっといい子だ。
「ありがとう、フェイトちゃん。それじゃ、いっちょ自己紹介しときましょう。」
そう言うと彼は、どこからともなく白衣を――これが彼のトレードマークなのだ――取り出し、羽織り、芝居がかった仕草で一礼した。
「初めまして。俺の名前は大空大地。しがない天才高校生生物学者です。」
**********
光速の少年と雷帝の青年、それぞれの世界で名を馳せた者たちが。
異なる世界で運命の歯車を回しだす。
ゴチャマゼクエストSS 『異邦見聞録』 〜麻帆良学園都市・外伝〜
魔法少女リリカルなのは
閃光と雷鳴・剣と杖
予定は未定。
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