2008/07/14

アキラの武勇伝





ぶっちゃけ、リリカル勢に比べてアキラの強さは尋常ではないんだよね。魔法なしで音速で動くし。
まあ、そんなことは気にせず見れ。




Side Kyo-ya Takamachi 俺は今、道場で一人の少年を待っている。 彼は昨日からうちに滞在することになったのだが、俺はまだ信用できていない。 謎が多すぎるのだ、彼は。一家を守るものとしては、やはりはっきりさせておきたい。 彼が悪人なのか否かを。 だから俺は昨日の夕食の席で、彼に試合を申し込んだ。 彼は少し驚いたような表情をしていたが、承諾してくれた。 父さん曰く、これはとんでもなく強いらしい。油断するわけにはいかない。 俺は一人の『御神の剣士』として、意識を研ぎ澄ませていた。 あとアキラ君。 俺はまだ、君となのはの交際を許してはいないぞ。

ゴチャマゼクエストSS 『異邦見聞録』 〜麻帆良学園都市・外伝〜

魔法少女リリカルなのは

閃光剣と杖

第五話・アキラという少年、なのはという少女

Side Nanoha Takamachi 夕べ食事のときに、お兄ちゃんがとんでもないことを言い出しました。 『アキラ君。君はどうやら、剣のたしなみがあるようだな。明日、俺と一戦交えてくれないか?』 私は一瞬、お兄ちゃんが何を言っているのかわかりませんでした。そして、それを理解するより早く。 『いいですよ、僕でよければ。』 アキラ君が返事をしてしまいました。 その後の私は大慌てです。 アキラ君がどのくらい強いのかはわかりません。けどお兄ちゃんの強さはよく知っています。 私が轢かれそうになった車を一刀両断したり。 お友達の月村すずかちゃんの家の警備システムを壊滅させたり。 聞いた話ですが、ヤクザさんの組を一つつぶしてしまったり。 とにかくとんでもなく強いんです。だから私はアキラ君にそのことを伝えたんですが。 『それなら、あまり手加減しすぎないないでもいいかな?』 なんて言って、全く止まってくれません。 お姉ちゃんも『おお、アキラ君すごい自信だねぇ。その調子で恭ちゃんを負かしちゃえ♪』とか言ってノリノリです。 お母さんもお父さんも止める気はないみたいです。 ていうかアキラ君の発言でお兄ちゃんもヤル気満々になってしまっています。 私はアキラ君が無事生き残れることを祈るしかありませんでした。 Side Kyo-ya Takamachi カタン、と音を立てて、道場の戸が開いた。 そちらに目をやれば、そこにはあの少年が立っていた。見れば、後ろになのはもついている。 心配そうな表情をしているところから、アキラ君が怪我をしないか見に来たのだろう。 俺はアキラ君に怪我をさせる気はないが、全力では行くつもりだ。だから、ひょっとしたら怪我をさせてしまうかもしれない。 もしそうなっても、恨まないでくれよ。なのは。そしてアキラ君。 「準備はいいかい?」 父さんがアキラ君に尋ねる。彼の得物は木刀、防具はなし。 対して俺は木小太刀の二刀。こちらも防具はなし。 アキラ君が2回、3回と軽く素振りをする。・・・確かに、実に安定した打ち込みだ。 だが、型が見たこともないものだ。うちと同じく秘伝の流派なのだろうか? 素振りを終えたところでアキラ君が難しそうに顔をしかめた。 「士郎さん。これよりも頑丈な木刀ってありませんか?」 より攻撃力の高い武器がほしいのか?・・・いや、そのくらいのハンデは許容しよう。俺と彼は10も年が離れているのだから。 「すまないねアキラ君。うちにある木刀は全て同じなんだ。だから、頑丈さは皆同じなんだ。」 父さんが本当にすまなさそうに言う。が、アキラ君は「そうですか。」とさして気にもしなかった。 そして俺に向き直り。 「すみません恭也さん。多分これだと僕の一振りにしか耐えられないから、一撃で決めさせていただきます。」 ・・・今、彼はなんと言った?周りも皆唖然とした表情をしている。 「木刀が一振りにしか耐えられない」?「一撃で決める」? 馬鹿な。両方ともありえない。あんな少年の一振りで、木刀がどうなるというのだ。 さすがに金属と打ち合えば粉々になるだろうが、木刀というのは案外頑丈なのだ。そう簡単に壊れるものではない。 さらに、一撃で決めるだと?ばかげてる。 過信するわけではないが、俺とて御神の剣士。有象無象とは一線を画している自負がある。 つまり俺は。 なめられているのか。 自然、怒りがみなぎってくる。 「アキラ君。一言だけ言わせてもらおう。」 俺は、目の前の驕る少年に宣言した。 「御神の剣士に『敗北』の二文字はない。侮ると後悔することになるぞ。」 剣気とともに、言の葉を飛ばす。並みの相手なら、これだけで立ちすくむことだろう。 だが彼は、微塵も揺るがない。 「侮る気はありません。確かにあなたは強いでしょう。」 そして、言葉を返してくる。 「ただ、僕のほうが圧倒的に強いというだけ。・・・と、口で言っても証明はできないでしょう。剣士が語るは剣でのみ。」 その射抜くような視線は、とてもではないがなのはと同い年ぐらいの少年の目とは思えない。 あれは。 「さあ。」 始めましょう。 幾度の死線を越えたものの視線をたたえ、少年は宣言した。 「それでは、・・・はじめ!!」 父さんの合図で、俺は小太刀を構える。 同時にアキラ君が左手で木刀をつかみ腰溜めに構える。居合い抜きの体勢だ。 恐らく、俺の突進に合わせて抜き放つのだろう。だが。 ――アキラ君、君には悪いが初めから全力でいかせてもらう!! 俺は小太刀を構えると同時に飛んだ。 『神速』。御神流奥義之歩法。これで彼の予測をはるかに越えた速度で一撃を―― 木刀の破砕音が響き渡った。 え? 俺は呆然とした。何故、俺の小太刀が砕け散っている? 何故、俺の目の前にアキラ君はいない? 「閃空剣技・居合。初歩の初歩の技です。」 声は後ろから聞こえた。振り返ると。 はるか離れたところにアキラ君が立っていた。その手の中の木刀は、根元から砕け散っていた。 あの一瞬で、そこまで飛んだのか?しかも、木刀が砕け散っているということは―― そのときに俺の小太刀を砕いたということか? 「あの急加速。確かに普通の人にとっては脅威でしょう。でも、僕のほうが速かった。それだけの結果です。」 俺の心を読んだかのように、アキラ君が答える。 御神の剣士よりも速い剣。 「閃空剣技。それが君の剣の名前か。」 「はい。速さと、それにより生じる衝撃を使った、閃光と風の剣、それが僕の剣です。」 何のことはない。この少年は初めから真実を語っていたのだ。 御神の剣よりもはるかに速い剣。そんなもの、たかが木刀で扱おうというのが無理な話だ。確かに一振りで粉砕するだろう。 そして、俺の力では彼を捕らえることはできない。一撃で勝敗が決するのは当然の成り行きだろう。 完敗だ。 ふ。 「あっはっはっはっはっはっは!!」 こうまで完全に負けると、かえって清々しいものだ。 「あ、あの恭也さん?ひょっとして、頭打っちゃいましたか!?ごめんなさい、体には当たらないように気をつけたんですが何分未熟なもので・・・」 「いや、俺の完敗だ。君の腕は確かだ。俺には傷一つついちゃいない。凄いな君は、はっはっはっは!!」 急に笑い出した俺に、アキラ君が心配そうな表情で聞いてきた。実際、俺は傷一つ負っていない。 あの一撃は完全に小太刀のみを粉砕したのだ。本当にとんでもない話だが。 「恭也は君の事を認めたんだよ、アキラ君。」 父さんがそう言ったが、アキラ君は「はぁ・・・?」と言って頭に?を浮かべた。 いろんな意味で本当に凄いやつ。同時に、彼はいいやつだと理解できた。 だって、あれだけの力を持ちながら、俺の体を案じ傷を負わせないようにしたのだから。そんな優しい人間が、悪人なわけがないだろう? Side Nanoha Takamachi 目にも止まらぬ早業とは、まさにこのことです。 最初はアキラ君の言葉でお兄ちゃんが怖い雰囲気を放ち始め、ハラハラしていました。 試合が始まると、アキラ君は木刀を腰に構え、お兄ちゃんは体を沈ませました。 お兄ちゃんは突然ものすごいスピードで走り出しました。 危ない!と思った次の瞬間。 ぱあん、ていう乾いた音が道場に響きました。それと同時に、アキラ君の姿が消えて。 とっても離れたところに現れていました。 よく見ると、二人とも木刀が壊れちゃってます。そして、お兄ちゃんの負け宣言。 本当に一瞬で決着がついちゃいました。 「アキラ君、凄い・・・。」 にぎやかになった道場を見ながら、私はぽつりと呟いた。 神内アキラ君。最初は山の中で偶然会った人。 次には異世界の人だとわかって。 私の家に泊まることになって。 凄く速い、凄く強い人。 私は不思議と、心臓の鼓動が早くなっていました。 Side Akira Jin-nai 試合のあと、朝食。それはにぎやかなものとなった。 恭也さんが僕のことをべた褒めしたり、それで「そんなことはない」って言ったりすると、今度は士郎さんが「謙遜することはない」って言ってきたりして。 桃子さんは「まあ、凄いのね」とよくわかっていないようだった。けどご飯おいしかったです。 美由希さんに何回か抱きつかれました。「アキラ君、よくやった!!」って。 そのたびに、なぜかなのはが怒っていた。いや、怒られてもしょうがないんだけど。 朝食後。 「そういえばアキラ君。これからうちのサッカーチームが試合をやるんだが、見に来ないか?」 士郎さんにそう誘われた。 どうしようか。特にやることもないんだけど、帰る方法も何とか探さないといけないんだよな。 ユーノあたりが何か知っているかもしれない。そう思い、断ろうと 「一緒に行こうよ、アキラ君!!」 したところで、なのはに腕をしっかりつかまれました。そんなキラキラした笑顔で言わないでくれ。断れないじゃないか。 僕は内心ため息をつきながら。 「わかりました、見に行きます。」 なのはがやったー、と大喜びしていた。 何だか会ってからこっち、なのはの言うことに逆らえてない気がする・・・。 サッカー、という競技は知っている。『ヤツ』がいたく気に入っているスポーツで、ルールから何度も教え込まれた。 ただ、動きはよくわかっていない。『ヤツ』はディフェンスの動きしかできなかったから。 あと多分だが、僕にフォワードはできないだろう。ボールの転がるのに合わせて走るのって、なんか転びそうだ。 まあ、今日は見るだけだ。どんなものなのか見させてもらおう。 それはそうと、僕となのはは今、サッカー場からちょっと離れたところにいる。何でも、なのはの友達が来るんだとか。 僕が『それなら一人で行ってきなよ』と気を利かせたのだが、なのはが友達に紹介すると言って聞かないのだ。 本当に、なのはの頼みを断ることってできるんだろうか?そう疑いたくなってくる。 これって実は『修正力』なんじゃないかとも思ったりするが、さすがにそれはないか。 そんなことを内心思いつつも、なのはと二人、その友達を待ちながら談笑することしばし。 「なのはー!」「なのはちゃん。」 二人の女の子が高級そうな車(多分高級なんだと思う。大きさも、普通のとかなり違うし)から現れ、なのはの名を呼んだ。 「アリサちゃん、すずかちゃん。」 なのはも二人の名を呼ぶ。それが彼女らの名前か。 「あたしが応援にきたからには、翠屋FCに負けは許されないわよ!!っと、見ない顔がいるわね。」 金髪の長い髪の少女が勢いよく言い、その後すぐ僕に気がついた。 なのはは満面の笑みで。 「うん、昨日からうちに泊まることになった、神内アキラ君!!」 そう紹介すると、二人の少女がおぉ〜、となぜか拍手した。ノリいいな。 「神内アキラです。諸事情により高町さんの家の滞在することになりました。短い間かもしれませんが、よろしくお願いします。」 なるべく礼儀正しくするように、お辞儀をする。 「あたしは、アリサ=バニングスよ。なのはの親友。よろしくね!!」 先ほどの金髪の少女が元気よく握手を求めてくる。元気の塊みたいな子だ。 「私は月村すずか。なのはちゃんのお友達なら私たちのお友達ってことだから、仲良くしようね。」 そして今度は長い黒髪がきれいな少女が、おっとりという感じで手を差し出してきた。バニングスさんとは対照的だと思う。 二人とも、本当に可愛い、美少女というやつだ。なのはと合わせて三大美少女という感じか? 「ええ、よろしくお願いします。バニングスさん。月村さん。」 僕は彼女らと握手をし、もう一度深々とお辞儀をする。 「ああ、あたしたちのこと名前で呼んでいいわよ。あたしたちもあんたのこと名前で呼ぶから。」 「それと、敬語もなしね。お友達なんだから。」 ・・・どうやら、これはなのはの周りでは共通事項のようです。 試合が始まるまで、しばし談笑をする僕ら。 「そう言えば、アキラの背負ってる袋の中に入ってるのって何?竹刀?」 その中で、バニングスさ――アリサからこんな質問が飛んできた。 正直に答えていいのかな?と思っていたらなのはが。 「アキラ君はね、剣士さんなんだよ!!」 と、嬉々として答えた。て、何でなのはがそんなに嬉しそうなの? アリサと月村さん――すずかは、頭に疑問符が浮かんでいた。 僕は苦笑し、士郎さんに目で確認する。 ――話してもいいですか? ――ああ、君に差し支えのない範囲でね。 そう返ってきた。 僕は、背中の包みを外し、皆の目の前に置いた。 「これはね、真剣なんだ。僕の父さんの形見のね。」 それを聞き、アリサとすずかは驚いたように目を見開き、その後気遣うように僕を見てきた。 「ごめん、あたし軽率なこと言った。」 「いや、気にしなくていいよ。もう随分と前のことなんだから。」 僕は笑ってみせる。それで、アリサもすずかも何だか安心したような表情をした。 ・・・うん、この子達は本当にいい子達だと思う。他人の気持ちを思いやれる、そんなすばらしさを持っている。 僕はこの子達の日常を守ってあげたいと思った。そう、僕は守る戦いをするべきなんだ。 僕の力はそのためにあるんだから。 「でも、真剣なんて持って危なくない?」 すずかが、不安そうにそう聞いてきた。 それに答えたのは士郎さん。 「ああ、アキラ君はその年で凄腕の剣士だ。恭也はおろか、俺すらも敵わないほどのね。」 恭也さんの名前が出てきた瞬間、二人の目が見開かれるのが分かった。・・・どうやらこの二人も恭也さんの武勇伝は知っているようだ。 ほんと、あなたも僕に負けず劣らず色々やってますね、恭也さん。 Side Shiro Takamachi アキラ君は娘の友達とも仲良くやれているようだ。 喜ばしいことだ。彼のように幼くして大きすぎる力を持つものは、往々にして排斥されてしまうものだ。 子供というものは、自分と違うものを非情なまでに受け入れないものだ。 だから、彼もそういう扱いを受けるのではないかと心配だった。だが、それは杞憂だったようだ。 彼をサッカーチームに誘うことはできないだろう。彼の運動能力は、はっきりいって頭抜けすぎている。 試合になるはずもない。言ってみれば合法的な外法だ。 このサッカーだけではない。生活の中で、他の色々な場面で、彼はその力の大きさゆえに爪弾きにあうことだろう。 だからこそ、この光景が嬉しかった。彼が受けいれられる場所が、この世界にはちゃんとある。 願わくば、こんな光景がいつまでも続きますよう。 ふとそう考えて、俺はまるでアキラ君の父親にでもなったような錯覚を覚えた。 彼は随分と前に父親を亡くしたと言っていた。――それもいいかもしれない。 今日帰ったら、そのことを桃子さんに相談してみようか。そう考えた。 Side Akira Jin-nai 試合は、こっち側――翠屋FCの勝ちだった。全体的に押していたが、士気がやたらと高かった。 僕はずっと選手たちの動き見ていた。あの程度の動きだったらできそうだ。 もっとも、サッカーをする気はないけど。小学生相手に『閃光の勇者』が相手をするとかいじめに等しい。 それで、試合が終わった選手たちと僕たち見学組は、喫茶翠屋――士郎さんと桃子さんが開いているらしい――で打ち上げを行った。 昨日の夕餉から思っていたが、なるほど、桃子さんの料理の腕が高いのはこういうことか。いや、それにしたってレベルが高すぎのような気もするが。 『あの人』と会わせてみたら、話が合うかも。そんな幻視をする。 打ち上げの最中何人かの男の子が話しかけてきた。彼らとは、そこそこ仲良く話せたと思う。 しかし、話の最中何度か出てきた 『三人のうち誰が本命?』 というのは、なんというか。おませな年頃で。 ちなみに、軽く流しておいた。その後、なのはが微妙に不機嫌だったのは何故だ? 打ち上げ終了後、なのははどうやら疲れてしまったらしく、お昼寝タイムとなった。 僕はその前にユーノを借りて、人気のないところへ移動した。 「それで、話っていうのは?」 そう、僕はユーノに話があったのだ。その内容は当然 「異世界への転移について、ちょっと聞きたいことがあるんだ。」 ユーノは少し怪訝な顔をした。 「僕も少々気になっていたんです。あなたの話だと、ここに来る前にいたところは『地球』だったんですよね。」 「ああ、そうだよ。」 それがどうしたというのだ?数々の世界の中には同じような名前の星だって存在する。 ・・・まあ、流石に『ナ○ック星』とか『惑星○ジータ』みたいな個性豊かな名前はあまりないが。 「それが変なんですよ。次元世界には確かに数々の世界が存在しますが、同じ名前は一つとしてないんです。」 「・・・なんだって?」 そんな馬鹿な。僕は確かに色々な『地球』を見てきた。あの麻帆良学園だってその一つにあったのだ。 ――もしかして。 僕は考えの一つにたどり着き、それを口にする。 「僕たちの行ってきた世界移動と、君たちの世界移動の技術はまるで別物なのか?」 「そんな馬鹿な!?そんなことがありえるんですか!?」 ユーノが驚いて大きな声を出す。だが、僕はいたって平静に。 「ありうると思う。君たちの技術は、あくまで人間たちがたどり着いた技術だろ?僕たちの行っていたのは、言ってしまえば神の業だ。」 「・・・神ですって・・・?」 ユーノがあまりと言えばあまりの発言に、かすれ声で言う。 そう、あいつは『創造主の影』。僕たちの住む世界を作り上げたものの分身だ。 考えてみればとんでもない話だが、そんなやつの行っていた世界の移動がユーノたちの世界移動と同じとは少し考えにくい。 「聞くけど、その世界の中には法則の全く違う世界なんていうのも存在する?」 「そんなものあるわけないじゃないですか。世界が違うって言ったって、あくまで次元が違うだけなんですから。同じです。 文化や歴史、あとは魔力要素の多少ぐらいの差しかありません。」 決まりだ。僕の言っている世界移動とユーノの世界移動は全くの別物だ。 恐らくだけど、僕たちのを世界移動とすると、ユーノたち『この世界』の人間たちの作り上げたのは『次元移動』だ。 「はぁ・・・、手がかりを見つけたと思ったんだけどなぁ・・・。」 振り出しに戻ってしまった。こうなっては、僕一人の力ではどうしようもないか。 やはり、『ヤツ』が探し出すのを待つしかないか。本当に厄介なことになったものだ。 「あの、よくわからないんですが、話してくれませんか?いったい何が!?」 ユーノが突然言葉を切った。 「?どうした、ユーノ。」 「『ジュエルシード』が発動している・・・?なのは!!」 よくわからないが、大変なことが起きているようだ。ユーノは目を瞑って何事か念じている。 「ユーノ!僕が運ぶ!!なのはと合流して現地に向かうぞ!!」 「・・・わかった!!」 ユーノが僕に飛び乗ると、僕は一陣の風になった。 麻帆良学園には『世界樹』と呼ばれる大木があった。正式名称は『神木・蟠桃』というらしいが、誰もそんな名前を呼ばなかった。 むしろ『世界樹』と言った方が、その威容が伝わりやすいから。 「なん、だ、これは・・・。」 そして今、まさにそんな光景が広がっていた。 僕たちはなのはと合流すると、とあるビルの屋上まで上った。 そこで見たものは、あまりにも異様な光景。 ビル街に聳え立つ、明らかに異常な大樹。そしてその根に飲み込まれるビル郡。 自然の怒りが人の文明を侵食している。そんな風にも見えた。 これが、『ジュエルシード』とやらの暴走らしい。 道すがら聞いたのだが、『ジュエルシード』というのは願望機らしい。しかしその動作はあまりにも不安定でたびたび暴走する。 それを止め、封印・回収するために、ユーノはこの世界へやってきた。 なのはは偶然魔導資質というのが高く、傷ついたユーノはなのはに協力を求めた。 それがなのはの魔法との出会いだったという。閑話休題。 「何とかして、止めないと。」 僕は背中の包みを解き、中から一本の剣を取り出す。 僕の唯一の武器。閃空剣技に耐えられる唯一の概念武装。 閃光の剣。 「な、無理です!『ジュエルシード』は魔力でしか封印はできません!!剣を出してもどうしようも」 「でも、あの暴走の被害を食い止めることはできる。その隙になのはが・・・、なのは?」 何だか、さっきからなのはがやけに大人しい。そう思ってなのはを見た。 なのはは伏いて震えていた。 「なのは、どうしたの?」 「私・・・私がいけないんだ・・・。私、気づいてたのに・・・、あの男の子が『ジュエルシード』を持ってるって気がついてたのに・・・。 どうしようアキラ君!!私のせいだ!私の・・・」 なのはは涙を流して後悔していた。 なのはは、誰かが『ジュエルシード』を持っているのを見たのだろう。だが、気のせいだと思いさして気にも留めなかった。 それが今回の災厄を招いたと思っているのだ。自分は止められたのにと、後悔しているのだ。 違うよ、なのは。それは人間である以上、誰もが回避できない「失敗」だよ。 止められたのにって思っても、実際には止められなかったんだ。それは「止められない」ってことだったんだ。 だから、今は過去を振り返って後悔すべきときじゃない。僕と一緒に、前を見よう。 「なのは、聞いて。」 僕の静かな声で、なのはがびくっと震える。 「起こってしまったことは、もう変えようがないんだ。後悔したって戻らない。僕たちは前に進むしかないんだ。 だから、後悔はせずに、今戦おう。さあ、涙を拭いて。」 僕は優しく、諭すようにそう言った。それでなのはは、力強く頷いた。 やはりこの子は強い。でも、まだ未完成だ。ややもすれば、間違った方向に流されてしまうかもしれない。 だったら、導いてやればいい。僕が、この子が間違わないように連れて行ってやればいい。 かつて『閃光の勇者』と称え恐れられ、ただの殺戮者となりかけた僕が。そうならないように。 『神殺し』は僕だけでいいんだ。 Side Nanoha Takamachi 私はただ怖かったです。 目の前で壊されていく街。それは自分のせいだと思いました。それが怖かった。 けど、アキラ君は優しく言ってくれました。 『後悔はせず、今戦おう。』 それだけで、私は救われたような気がしました。そして、涙をぬぐい、『レイジングハート』に語りかける。 (こんな私に、力を貸してくれる?レイジングハート。) 私の胸元に飾られている赤い宝石。私の魔法のパートナー。インテリジェントデバイスのレイジングハートは、ただ、こう答えました。 (『Always I am with you, my master.(いつもあなたのお側に、マスター。)』) 胸が熱くなる。私にはこんなに力強い味方がいるなんて。 私はレイジングハートを手に取り、起動する。 ――我、使命を受けし者なり―― ――契約の元、その力を解き放て―― ――風は空に、星は天に―― ――そして、不屈の心はこの胸に――!! アキラ君の心に答えるために。レイジングハートの信頼に応えるために。 「レイジングハート、セットアップ!!」 私は自分の力を手に取った。 「・・・それがなのはの力なんだね。」 アキラ君がバリアジャケットを纏い本来の姿に戻ったレイジングハートを手にした私を見て、そう呟いた。私は頷く。 「それで、なのははどんなことができるの?」 アキラ君が真剣に問いかけてくる。のですが・・・。 「あ、あの、私まだ魔導士になったばっかりで、そんなに魔法使えないの・・・。」 そんな答えしか返せませんでした。がくりと、アキラ君の力が抜ける。うぅ・・・ごめんなさい。 「そ、そう・・・。でも、『ジュエルシード』の封印はできるんだよね。」 私は気を取り直し、頷く。それでアキラ君は街に目を向ける。 「わかった・・・。それじゃあ、その露払いは僕に任せて。なのはは封印に集中して。」 そう言って、アキラ君は剣を構えました。・・・て、ここから? 「え、でも、ここからじゃ剣は届かないでしょう?いったいどうする気ですか!?」 ユーノ君がもっともな疑問を口にする。けれどアキラ君は不敵に微笑みこう言いました。 「閃空剣技に距離は関係ない。まあ、見てるといいよ。面白いものを見せてあげる。」 その背中は、とても頼もしいものでした。 アキラ君は剣を腰溜め・・・ていうのかな?に構えて、呼吸を整えました。 「閃空剣技・・・」 そして気合を解き放ち。 「空剣!!」 目にも止まらぬ速さで剣を振りました。同時に、甲高い風切り音が響く。 私は思わず耳を押さえました。凄い音・・・!! そして、再び街の方を見て。 目を疑いました。何本もある木のうち、一本が倒れていました。幹の中ほどからすっぱりと切られて。 「す、凄い・・・。」 ユーノ君が呆然と呟きました。私も同じ気持ちです。多分、真空刃とかいうのを飛ばしたんだと思いますが、そんなことができるなんて。 「まだまだぁ!!」 再びアキラ君は剣を構え真空刃――『空剣』を打ちました。それでまた一本、木が倒れる。 それを何度も何度も繰り返し、街を覆う樹木は瞬く間に減っていきました。 私たちは、ただその光景を呆然と見ていました。 「・・・ん?」 何本目かの木を切り倒したとき、アキラ君が眉をひそめました。どうしたんだろう? 「なあ、ユーノ。この現象を起こしている『ジュエルシード』は単体?それとも複数?」 「・・・多分、単体だと思います。反応はひとつしか感じられないし、複数だったらもっと被害が拡大しているはずです。それが何か?」 アキラ君は「たった一つでここまでか・・・」とあきれたように呟き、一際太い樹を指差しました。 「そうだとしたら、恐らく『ジュエルシード』があるのはあそこだ。あそこだけ、空剣が効かなかった。多分障壁か何かを張ってるんだろう。」 「な!?そんな方法で見つけるなんて!!」 ユーノ君はさっきから驚き続けです。無理もないです。私もおんなじ気持ちなんだから。 「じゃあ、封印するよ!!」 私はレイジングハートを構える。それをユーノ君があわてて止める。 「ま、待ってなのは!!こんな遠くから!?無理だ、なのははまだ砲撃魔法は」 「できる!!」 ユーノ君の言葉をさえぎり、私は叫ぶ。ユーノ君の言いたいこともわかる。だってここからあの樹までは1kmぐらいあるんだから。 でも、私だって負けられない。アキラ君はこの距離からあれだけの木を倒したんだ。私だって・・・!! 「レイジングハート!!」 『Shooting mode.』 私がレイジングハートに命じると、レイジングハートは私の意図を汲み取り、砲撃に適した形に変化する。 それを見て、アキラ君は感心したように口笛を吹き。 「じゃあ、僕は補助をする。気休め程度かもしれないけど、あの障壁に重い一発を食らわせてやる。」 「だ、大丈夫だよアキラ君!!私、一人でもやれるよ!!」 私はそう言ったが、アキラ君は私の口元に人差し指を当てて 「まだ僕のほうが圧倒的に強いんだ。まだ、僕に頼ってもいいと思う。」 そう言って、ニコっと笑いました。私は顔が赤くなっていくのがわかりました。 何か言わなきゃ。そう思いましたが、何も言葉がでてきませんでした。あれ、何で私こんなにあわててるんだろう? 「それじゃ、僕があれに一撃を当てたら、なのは、封印はよろしく。」 そう言って、アキラ君は飛びました。・・・て、何で? 見れば、アキラ君は凄い高さまで飛んでいました。・・・あれ?人間ってそんなに飛べるんだっけ?アキラ君、魔法使えないんだよね? 「・・・アキラさんは本当に人間なんだろうか・・・。」 ユーノ君がそんなことを呟く。む、失礼だよユーノ君。 そんなことを思っていると、何か打ったような轟音がした。 アキラ君が放った一撃だ。その明らかに重い一撃を受けて、大樹の魔法障壁は音を立てて砕け散りました。 「なのは!!」 「う、うん!!」 ユーノ君が叫び、私はあわててレイジングハートを構えました。 そのときでした。 突然、それまで静観を保っていた大樹が、アキラ君を狙って枝を伸ばしてきました。 「アキラ君!!」 私は思わず叫びました。 Side Akira Jin-nai 僕は高々と宙を舞った。白昼堂々とこんな異常な体術を使うのもどうかと思うが、今は緊急事態だ。 それに、下の皆も突然現れた樹木や次々と倒れる木の方に目が言っているようだ。 こんな地上500mを飛ぶ子供なんて豆粒程度にしか見えないのだから、誰も気にするはずがない。 僕は剣を大上段に構える。 彼の世界で、『神鳴流』を見てヒントを得て、僕が作り出しオリジナル閃空剣技。 「閃空剣技・昇龍破・改・・・」 剣に風を纏わせ・・・ 「降龍破!!」 思い切りたたきつける!! 大岩すらも軽く吹き飛ばすほどの衝撃波が全て、余すことなく『ジュエルシード』があると思われる大樹の障壁に炸裂する。 そして、破壊。僕は反動で後ろに飛ばされながら、ガッツポーズをとった。 その瞬間、大樹から枝が伸びてきた。明らかに僕を狙っている。 ――しまった、全く動きがなかったから、攻撃してこないと思って油断していた!! 僕はあわてて剣を構えるが、空中であるため、迎撃に多少の不安要素が残る。 僕の真骨頂は速さだ。だが、空では自由に動けない。つまり、僕は戦闘能力を半分以下まで削られるということだ。 『アレ』を使えばよかったと思ったが、後の祭りだ。横着した自分が悪い。 腹をくくり、僕は意識を研ぎ澄ませ。 枝を、極太の閃光が灼いた。 ――なのはか? なのはの方を見やるが、方向が違うし、なのはたちも驚いている。 とりあえず、僕は頷き大丈夫だということを伝える。なのははそれで少しうろたえながらも、大樹に向き合った。 ――いや待て、僕は今の閃光を見たことがある。あれは確か『アイツ』に言われて腕試しをしたとき―― ふと、一人の人物が思い浮かび、ハッとしあたりを見回した。 そして見つけた。とある世界で、一度剣を交えた人物を。 風になびく白衣と、その身に不釣合いな青の大剣が印象的な、その男性。 大空大地。 「そんな、何故あなたが・・・。」 僕は呆然と呟いた。すると、彼はそれが聞こえたはずもないのに、首を横に振った。 ひょっとして、読唇術でもできるんだろうか? そうしてから、彼は人差し指を唇にあて、片目をつぶった。 同時、なのはから桃色の閃光が走った。どうやら、封印が完了したようだ。 僕はビルの屋上に着地し、大地さんのいた方を見る。 しかし、そこにすでに彼の姿はなかった・・・。 「アキラ君!!大丈夫!?怪我はない!!?」 なのはの元に戻ると、めちゃくちゃ心配されました。僕は手を軽く振って、大丈夫であるということをアピールする。 「・・・最後のあの閃光、あれはいったいなんだんだろう・・・。」 ユーノが呟く。僕は言おうとして、さっきの彼のしぐさを思い出した。 あれは内緒にしてくれということだったのだろうか? 真意はわからない。けれど助けられた恩がある。僕は黙することにした。 「よくわからないけど、助かったんだ。今はそれでいいじゃないか。」 その話を流すように、それとなく促す。ユーノは納得できない様子だったが、考えても仕方ないとあきらめたようだ。 それと、なのは。 「頑張ったね。」 僕は笑顔でなのはの頭を撫でた。すると、なのはは「あぅ・・・」と言って顔を真っ赤にした。 高町なのは。僕と同い年で、とても可愛らしい女の子。 そして、その容姿からは想像できないほどの『強さ』を持っている。同時に、まだまだ幼い。 身長的にも僕の方が高い。だから僕は、この新しい妹分を導いていく「お兄ちゃん」になることを決意した。 願わくば、彼女の行く末に輝かしい未来がありますように。それが僕のように、血塗られた道ではありませんように。 Side Nanoha Takamachi 神内アキラ君。私と同い年の、不思議な男の子。 凄く速くて、凄く強くて、そして凄く暖かい人。同い年なのに、凄く大人に見えることもある。 新しいお兄ちゃんができたみたい。だけど、やっぱり私がお姉ちゃんの方がいいなぁ。 彼を見ていると早まる胸の鼓動。その意味はまだわからないけど。 明日も明後日も明々後日も。そのずっと後とも。彼と一緒に過ごしていく日々を、願っています。 Side Yuno Scria 高町なのは。僕が協力を頼み、引き受けてくれた女の子。 彼女の魔導士としての資質を見込み協力を頼んだが、ずっとすまない気持ちでいっぱいだった。 そんな折現れた少年、神内アキラ。 彼の強さは正直信じられないものだった。魔法も使わない人間がこんなに強いなんて。 でも、彼と一緒ならなのはは傷つかないですむだろう。彼には感謝しなければならない。 でも、彼が来てから僕は何だか空気になったみたいだ。それだけは許してはいけない気がする。 アキラさん。僕は負けませんよ。何にかはわからないけど。
結構長くなってしまったことにびっくり。そしてユーノはギャグキャラ路線を突っ走ることになりました。 つづりは適当です。正しいの分かり次第直すかも。



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