全てはロベルト(影)の一言のせいw
Side Daichi Ohzora 温泉から帰ってきてから、フェイトちゃんの様子がどうにもおかしい。 何というか、強くならなければという強迫観念にとらわれている気がする。 いや、前からそういう節はあった。だから俺は、その強迫観念をゆっくり取り除くように指導していたつもりだった。 だが、今は前のそれよりももっとひどい。 フェイトちゃんは自分の体に無理があっても強行する性格だ。変な言い方だが、それに磨きがかかっている。 訓練、『ジュエルシード』探索、また訓練・・・。休憩時間をほとんどとっていない。 当然俺はそんなの許諾できないから、しっかり休むように言った。 だけどフェイトちゃんは、ただ悲しそうな瞳をして「ごめんなさい・・・」というだけ。 あの赤く悲しく揺れる瞳を見てしまったら、それ以上何も言えない。 俺は、自分の無力さが、ただただ悔しかった。Side Fate Testarossa もっと強く、もっと・・・。 私はその一心で訓練を続ける。 お兄ちゃんの『ゲイボルク』もだいぶかわせるようになってきた。と言っても、半分を超す程度だが・・・。 アルフはというと、かわしきれない矢を弾く術を見つけたらしく、私よりも少し長持ちする。 でも、まだ足りない。もっと私は強くなければ。 これ以上お兄ちゃんに負担をかけないためにも。アルフに心配をかけないためにも。 私の大切な『あの人』の願いをかなえるために。 「・・・今日はここまでだ。」 お兄ちゃんが『天雷』を下げる。 今日はまだ1時間しか訓練していないはずなのに。 「まだやれます。続けてください。」 私はそう言った。だけどお兄ちゃんは首を横に振り。 「だめだ。最近のフェイトちゃんの活動時間と今の訓練中の動きを合わせて判断したところ、今日はこれ以上やっても逆効果だと判断した。」 そう、冷たく言い放った。 そのことに、私は少なからずショックを受けた。だって、私は今の訓練中、前よりしっかり動けていると思っていたから。 「気づいてなかったんだな。今日は動きが悪いから、『ゲイボルク』を撃つ間隔を長めに取ってたんだが・・・。」 「え・・・?」 気づかなかった。そして私はさらにショックを受けた。 「そんなんじゃ、やっぱり続けても逆効果だ。今日は『ジュエルシード』の探索も推奨しない。」 お兄ちゃんはいつの頃からか、『許可しない』ではなく『推奨しない』と言うようになった。私が言っても聞かないと理解しているから。 「でも!!」 「フェイト!!」 なおも私は引きとめようとしたけど、アルフに止められた。 わかってる。お兄ちゃんは色々なことを考えてくれている。とても私の考えが及ばないところまで考えて、全て私のために行動してくれている。 それでも私は強くなりたい。そしてもうお兄ちゃんに負担をかけないようにしたい。 だけど、お兄ちゃんは私の言葉を聞き入れてくれず、『天雷』と『Cross Square』を解いて中に入っていってしまった。 「・・・『ジュエルシード』を探しに行こう。」 「フェイト・・・。」 アルフが悲しそうな表情をしている。 「そんな顔しないで。私は大丈夫だから。」 私はそう言ったが、アルフは顔を背けてしまった。 ごめんね、アルフ。・・・お兄ちゃん。 私たちは『ジュエルシード』を探すべく、マンションの屋上から飛び立った。 Side Daichi Ohzora 「全く、あの子は少し自分をいたわることを覚えるべきだ・・・。」 深いため息と共に、俺は独り言をつぶやいた。 たいていの場合、俺はこういうことを全て自分の頭の中でやっている。それがこうやって口をついて出てくるということは、俺自身相当参っているということだ。 俺は別にフェイトちゃんが悪いとは思っていない。少し頑固すぎるが、頑張れるのはいいことだと思う。 ゴチャマゼクエストSS 『異邦見聞録』 〜麻帆良学園都市・外伝〜
魔法少女リリカルなのは
雷鳴・剣と杖
第十三話・揺れる少女、惑う青年
――お前は本心からそう言えるか?
ただ、その頑張りが度を越しすぎているのだ。自分の限界を超す頑張りは、逆効果しか生まない。――そしてお前の存在も削られている。
だから、今の状況はフェイトちゃんにとっていい状況ではない。無理にでもフェイトちゃんには休んで欲しい。――だったら、そうせざるを得ない状況を作ればいい。
無理にでも――いっそ動けなければ、フェイトちゃんも休まざるを得ないよな。――そうだ、そうしろ。やつを動けなくしてやれ。
縛雷で縛り付けるか・・・訓練でちょっと力を込めてやれば事足りるか。――痛めつけろ。やつの顔が恐怖で歪むまで。
いや、それでも足りないな。もっと確実に動けなくして・・・。――そして教えてやれ。絶望というものを。
そう、いっそ一思いに――あの娘をコロしてやればいい。 「――!!」 俺は急いで洗面所へ走った。 「ぐ・・・あああああ!!」 洗面台が俺の吐瀉物で汚れていく。だがそんなことが気に止まるはずもなく、俺は胃の中を空にするまで吐き続けた。 「ぁぁ・・・、・・・はっ、はっ・・・!!」 呼吸が定まらない。激しい頭痛もする。目の前が真っ赤になったり、正常になったりと忙しい。 ふと、鏡の中の『俺』が気持ち悪い笑みを浮かべているような気がした。 けれど、そんなことがあるはずはない。論理的に証明できない。だからそれは目の錯覚だ。 けれど、目に映るものは脳のフィルターを通して処理される。だからそれは紛れもなく現実だ。 少なくとも、俺にとっては。 ――よう、『俺』。会いたかったぜ。 「・・・俺はちっとも会いたくなかったけどな。」 ――まあそういうなよ。随分と思い悩んでるみたいだから、力を貸してやろうと思ったんだ。 「あいにく、お前の力なんて借りたくもないね。お前の面も見たくねぇ。」 ――ひどいな、自分の顔なのに。 「お前と違って、俺は別段自分の顔に愛着もコンプレックスも持ってないんだよ。」 ――そう、お前は持ってないはずだよな。俺が持ってるんだから。 鏡の中の『俺』はくくっと笑う。くそ、俺の顔でそんな気持ち悪い笑い方をするな!! ――俺としては別にお前が手を貸して欲しくなくても構わないんだよ。そのときはお前を倒して俺が主導権を握るんだからな。 「そう簡単に行くと思ってんのか?前みたく返り討ちにしてやるよ。」 いつの間にか俺は現実から意識を手放し、俺達だけの世界にいた。 俺達――俺の世界。そこは表も裏もなく、光も闇もない世界。ただ遠くで稲光だけがとどろく、そんな世界。 「そう何度も上手くいくと思うなよ?俺はお前が悩んだり迷ったりする分、強くなるんだからな。」 「へ!誰が迷ってるって?こんなもん、修士論文書くよりも軽いぜ。」 いつの間にか俺の手には天雷が握られていた。 天雷――空ヲ飛ビ交ウ数多ノ雷。俺の力の『俺』自身の側。 そして相対する『アイツ』には縛雷――怨嗟ヲ縛ル地獄ノ雷。 俺の・・・表現するならば『負』の側面を表した剣。 けれどその表現に意味はない。俺達はどちらが『正』にも、どちらが『負』にもなりえるのだから。 いつだったか、俺のこの性質を狙ってた具現心術使いが言っていた。 『貴方の心はまるでメビウスの輪だ。表も裏もなく。だから強く、それ故に危うい。』 それが俺の強さの秘密だと知ったのは、それから間もなくだったな。・・・今は関係ない話だ。余計な思考はカットしよう。 少しでも隙を見せれば、『アイツ』は俺にとってかわる。そうなったら――その後のことは想像したくない。 「想像しようぜ?お前の存在を削っているあの娘の処女を奪い、泣き叫ばせ、痛みという痛みを刻みつけ、最後にはあっさりと殺すその快感をよ。」 『アイツ』は俺と全く同じ姿で、下卑た笑みを浮かべた。 それがあまりにもたまらなくて、激昂しかける。 だけど、猛る心を無理やりにでも抑えつけ、冷静を保つ。 『アイツ』――俺の『裏』は俺が平常心を失えば失うほど強くなる。だから俺は平常心でいなければいけない。 「その手が何度も通用すると思うなよ。お前が『野生』なら俺は『理性』。学習するんだよ。」 心を静かに、俺は天雷を両手に構える。そして『裏』も、縛雷を、俺と全く同じ形に構える。 「へっへっへ・・・それでいいんだよ。んなに簡単にシャバに出られたんじゃ面白くもねぇ。せいぜい抵抗してくれよ?」 そしてしばらくにらみ合い。 「噛み砕け!『ゲイボルク』!!」 「引き千切れ!『ハデス』!!」 俺の中での死闘が始まった。 Side Alph フェイトから、ひしひしと悲しみの感情が流れ込んでくる。 悲しみだけじゃない。後悔とか謝罪とか、そういうものがいっぱいで、あたしは泣きたくなってきた。 「・・・なあフェイト。やっぱり戻ろう?今日は探したって見つからないよ。大地の言うとおりゆっくり休もう?」 「うん・・・じゃあアルフ、先に帰ってて。私はもう少し探したら帰るから・・・。」 あたしが説得しようとしても、フェイトは止まってくれない。 大地の言葉も、最近じゃあまり聞いてくれない。 あたしは知ってる。大地がどれほどフェイトのことを考えてくれているか。フェイトが本当は誰と一緒にいたいのか。 けど、あたしは使い魔だ。どれだけフェイトの気持ちがわかっても、フェイトの言ったことを曲げることはできない。 それがフェイトのためにならないことはわかっているけど、できないんだ。 あたしはフェイトの使い魔になれて幸せだったと思ってる。けど今は『使い魔』であるということがこんなに歯がゆいなんて・・・!! けど、この日はちょっとして『奇跡』が起きてくれた。 「あ、雨・・・。」 先ほどから曇っていた空は、とうとう雨が降り出した。 「なあ、フェイト。雨も降ってきたし帰ろうよ。雨の中じゃ探すのも大変だし、体力も無駄に使っちまう。今日はいったん帰ろう。」 「・・・うん、わかった。」 フェイトも流石に、合理的な判断をしたようだ。よかった、本当に・・・。 普段だったら鬱陶しいだけの雨に少しだけ感謝しながら、あたし達は帰路に着いた。 道すがら、明日以降はどうやって止めようかと考えながら。 Side Fate Testarossa 「ただいま戻りました・・・。」 私は扉を開けて、いつもの言葉を口にした。 だけど、いつもみたいにお兄ちゃんが来ない。いつもだったら、冗談を言いながら――少し心配そうな目で――お兄ちゃんが玄関まで来る。 今日はそれがなかった。・・・とうとう、お兄ちゃんに呆れられちゃったかな。 お兄ちゃんの言うことを聞かないで『ジュエルシード』を探しに行って、その結果見つけられない。そんなことが続いたから。 呆れられても仕方ないと思う。お兄ちゃんにも――あの人にも。 だけど、リビングまで来たところで、洗面所から水音がしていることに気がついた。 「・・・お兄ちゃん?」 なんだか嫌な予感に駆られて、私は洗面所まで足を運んだ。 そこで目にしたものは。 「お兄ちゃん!!?」 洗面台に向かって倒れこんでいるお兄ちゃんの姿だった。 蛇口からは水が流れっぱなしになっている。水音はこれのせいだった。 私は急いでお兄ちゃんに駆け寄り、体を抱き起こした。 「お兄ちゃん、しっかりしてください!お兄ちゃん・・・大地さん!!」 「おい、どうしたんだい・・・大地!?フェイト、一体どうしたんだい!?」 アルフも騒ぎを聞きつけてやってきた。 「わからない、私が見たときにはもう倒れてて、意識がなかった・・・。ねえアルフ、このままお兄ちゃんが目を覚まさなかったらどうしよう・・・。私・・・、私・・・!!」 「落ち着きなよフェイト!大地のことだから、どうせ顔洗ってたらそのまま寝ちまっただけだって。そうに決まってる!!」 アルフが私の肩を掴んで励ましてくれる。それで私は、幾分か平常心を取り戻すことができた。 「アルフ、お兄ちゃんをベッドまで運ぼう。こんなところよりそっちの方がいいと思う。」 「わかった、手伝うよ。」 私はアルフと一緒にお兄ちゃんをベッドに運んだ。 お兄ちゃんの顔には表情がなかった。だから何が起きたのか推測することすらできなかった。 お兄ちゃん――大地さん、どうか目を覚ましてください。 私は、ただ祈ることしかできなかった。 Side Daichi Ohzora 俺の心の中の死闘は数時間に及んだ。 それが現実の世界でどれだけの時間になっているのかはわからない。数日経ってしまっているかもしれない。あるいは一瞬かもしれない。 だが、一つ言えることは、ようやく勝敗が決したということだ。 「流石は現在の『主価値観』だな・・・。そうそう簡単にはなりかわれねぇってことか。」 俺の目の前には、腹部に大穴を空けた『裏』の姿。これで俺の勝ちだ。 「だが、これで終わりじゃねえぜ。俺はお前でお前は俺だ。お前が存在する限り俺は消えねえ。」 「そしてお前が存在する限り俺も消えない。たとえ一時負けたとしても、俺はすぐにお前をぶちのめすさ。」 『裏』は愉快そうに顔を醜く歪め、空間に溶けていった。 この空間は俺の心そのもの。つまり、俺の心の中に還って行ったという事だ。 やつの言うとおりだ。あいつは俺の半身。俺の価値観が取りこぼした概念の塊。 だから、俺という存在があり続ける限りやつは存在し続ける。これは俺が俺である以上どうにもならないこと。 けど、俺は絶対負けない。俺の守りたい者のために。大切な妹のために。 「俺はどんなになっても、フェイトちゃんを守ってみせるさ。」 言葉にして決意する。同時に、この世界での意識が薄れていく。ようやく目覚めのようだ。 俺の姿も、溶けるように消えていった。・・・。 目を覚ますと、そこはベッドの上だった。あれ?俺洗面所で倒れたんじゃなかったっけ? と思って視線をめぐらせれば、ベッドに頭をもたれさせて眠るフェイトちゃんと、寄り添い眠るアルフの姿があった。 フェイトちゃんの目には――涙。 「・・・余計な心配かけさせちまったか。ごめんな、フェイトちゃん・・・。」 俺はそっと、フェイトちゃんの涙をぬぐった。 「ぅん・・・おにいちゃん?」 「あ、ごめんフェイトちゃん、起こしちまったみたいだな。うわっと!?」 俺が目を覚ましのを見るや否や、フェイトちゃんに抱きつかれてしまった。 やっぱり、心配かけさせちまったみたいだな。 「・・・ごめんな、フェイトちゃん。心配かけちまって。もう大丈夫だ。」 「謝らないで・・・、お兄ちゃんは何も悪くない・・・!!」 フェイトちゃんは涙声だった。 「ごめんなさい・・・本当にごめんなさい!!」 フェイトちゃん・・・。 「フェイトちゃんこそ謝る必要はないよ。俺は別にどうしたってわけでもない。ちょっと貧血で倒れちまっただけだから。」 フェイトちゃんに俺の心の『裏』を話す必要はない。そんなもの、この子の成長の妨げにしかならない。お前がそう思いたいだけだろう?
・・・確かにそうかもな。結局は、俺が自分の闇を見せたくないだけなのかもしれない。ふん、偽善者め。
何とでも言えよ。それに俺が偽善者だったら、お前は偽悪者だぜ?ああ言えばこう言う、だな。
お前も人のことは言えねえよ。何せお前は『俺』なんだからな。まあいい。今日のところは引き下がってやるよ。
来るんだったら何度だって来いよ。また返り討ちにしてやる。それだけ俺の決心は硬いんだからな。全く・・・不愉快な・・・話・・・だ・・・。
お互い様だよ。・・・・・・・・・・・・。
完全に応答がなくなった。どうやら、分離は収まったらしい。 「お兄ちゃん?」 「ああ、悪い悪い。まだちょっと頭がぼーっとしてるみたいだ。」 ごまかす。するとフェイトちゃんが俯いてしまった。 どうやら、フェイトちゃんは俺が倒れたのは自分のせいだと思っているようだ。・・・まあ、半分正解なのだが。 ・・・だったらこういうのはどうだろうか? 「フェイトちゃん。フェイトちゃんは俺が倒れたのは自分が俺に心労をかけすぎたからって思ってるんだろ?」 無言で頷くフェイトちゃん。 「だったら、これからは俺の言うことをちゃんと聞いて、無理な探索はしないって約束してくれないか?」 「そ・・・それは・・・。」 赤い瞳が揺れる。 ・・・我ながら何て卑怯な取引だろう。この子の良心を天秤にかけて、自分の意見を飲ませようだなんて。 やっぱやめた。 「冗談だよ、フェイトちゃん。フェイトちゃんにとって『ジュエルシード』はそこまで大事なものなんだろう?だったら、自分の思うようにした方がいい。」 「お兄ちゃん・・・私!!・・・何でもないです。」 フェイトちゃんに揺さぶりをかけてしまったか。そんなつもりはなかったんだが。 だがこんなときは、どんな言葉をかけたとしても、それは決心をぐらつかせる打撃にしかなりえない。 だから俺は。 「さって、晩飯作らないとな。出来たら呼ぶから、フェイトちゃんはゆっくりしててくれ。」 起き上がり、キッチンへと行った。 Side Fate Testarossa 言えなかった。「お兄ちゃんよりも『ジュエルシード』の方が大事なことなんてあるわけない」って言いたかったのに。 それを言ってしまったら、私は『あの人』を裏切ってしまうことになりそうだったから。 でも、『ジュエルシード』とお兄ちゃんのどっちが大切かなんて、言うまでもない。 お兄ちゃんは私に色々なものをくれた。今だって私の力になってくれている。 じゃあ、『あの人』とお兄ちゃん、どっちの方が大事? ・・・そこに順位なんてつけられない。私にとってどちらも同じぐらい大事だ。 けど、『ジュエルシード』を探し続ければお兄ちゃんは今日みたいなことになってしまうかもしれない。 けど、『ジュエルシード』を探さなかったら『あの人』を裏切ることになってしまう。もう二度と私に笑いかけてくれなくなるかもしれない。 どっちも嫌だ。だけど、どちらかを選ばなくてはいけない。 「・・・私、嫌な子だな。」 「フェイト・・・。」 まるで出口のない迷路をさまようみたいに。 私は答えの出ない自問をいつまでも続けていた。 遠くで、稲光が光った。
最近の作業用BGM:MOTHER3の戦闘曲 こっちで鬱展開続けてる間に、なのはサイドでは新魔法考えたりしてます。